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GP16 「感触」

工場内に置いた人の画像の的に変化は無い。空中を飛ぶドローンは確かに的の周りを飛ぶが、装備したペイント弾を撃たない。


「…ダメだね」


「ダメですね」


ペクトゥスの運用試験だ。人型への非殺傷の範囲を調べている最中だ。


続けてGPの形にしてみる。そうすると今度は、下半身を狙ってペイント弾を発砲した。下半身とは言えかなり下の方を狙うので、命中率のはかなり悪い。


「…ま、ギリ使えるかな?」


「メインのOSではとてもキツくないですか?」


「そうだね。子機として載せる位が丁度いい。ほぼ不良品だな」


ロギが揶揄うように笑う。それにペクトゥスが反応する。


[お役に立てずごめんなさい…]


「全くだよ。あんたの親にたんまり報酬を貰わないとね」


ショッピングモールで合った男の事を思い出す。俺を殺すという計画が、果たして何処までなのか。もしかしたらペクトゥスも、その一環なのか。変な詮索ばかりしてしまう。


「さて、今日も昼飯は少なめかな?」


「はい」


気付けばもう昼だった。トゥエルブを起こさないと行けない。手袋を外してトゥエルブの部屋まで行く。


トゥエルブの部屋をノックする。暫くして寝ぼけたボサボサ頭が出てくる。


「……お?」


「おはようございます」


トゥエルブの髪を櫛でとかしている間に昼食が出てくる。ロギと3人で机を囲む。

トゥエルブが俺を寝ぼけ眼で見ている。


「…少なくね?」


「気にするんですね」


「外で食べる用事だってさ」


「ふーん…」


残りの仕事を片付けて工場を後にする。公園に行くとまだココは居ない。昨日座ってたベンチに座って、買った本とメモ帳を開いた。


食べ物の本だ。ハンバーガーの事ももちろん書いてある。これまでロギに出してもらってた食べ物が何なのかも、個人的に気になっていたのだ。


「シュリ君」


ココの声がして顔を上げた。昨日と違う服で来たココに比べて、俺は変わらない作業着だ。


「何調べてるの?」


「料理の本。一緒に読まない?」


「うん!」


大きく載った美味しそうな写真に、作り方のレシピが書いてある。


「これなんて読むの?」


「これ?ブタって読むの」


「何それ」


「動物だよ。豚さんのお肉」


知らない漢字を、1つずつ教えて貰う。時には知らない物もあるけれど、大体は見た事のある物だった。

色んな物の名前を初めて知るのが楽しい。


座りっぱなしのせいか、ココが伸びをして立ち上がる。


「ちょっと休憩。ねぇ、遊ばない」


「うん」


本を閉じてベンチに置く。公園でココと遊んだ。仕事以外で身体を動かす事が殆ど無かったけれど、いつの間にか他の子供も混じって遊ぶ時間はあっという間に過ぎた。


すっかり夕方になった公園で、遊び疲れてまたベンチに座る。二人で次のハンバーガーの作戦会議をした。


「…よし、頑張るぞ!」


メモ帳に書き連ねた、2人の理想のハンバーガーを見返して、ココが意気込む。閉じた本をココに差し出す。


「…これ、あげる」


「え?いいの?」


「うん。使って」


ココは目を輝かせて、本を両手で包んだ。


「ありがとう…私からも、なんかあげたい!明日持ってくるね!」


「うん」




家に帰ると、珍しくトゥエルブが工場に居る。見慣れない眼鏡をかけて、コンピュータを触っていた。


「…こういうの出来るんですね」


「まぁ…ダーリンのOSのプログラミングは私だし」


トゥエルブは横に置いてあるマグカップを掴んで、湯気のたつ飲み物を啜る。


「じゃあ、これはDarlingの?」


「AIは載せないけど、ダーリンを時代遅れにはしたくないからさ。新しいプログラムがあるなら踏襲しようかなって」


横に座って、その作業を見学する。トゥエルブはDarlingをすごく大事にしている。最初に俺に浮気だなんだと言うくらいには。


「…Darlingの事好きですよね」


「うん、愛してるから」


「それって、GPとしてって事ですか?」


「…多分、あんたの想像するのとは違うね」


俺の想像する好きとは何だろう。真っ先に思い浮かんだのはココだった。


「…話したいとか、そういうのですか?」


トゥエルブは少し驚いた顔をして、一瞬俺を見る。


「…まぁそんな所。触れてみたいとか」


「でも、今はもうDarlingに触れてますよ?」


「離れたくないとか、居なくなって欲しくないとか」


「…でも、そんなの無理じゃないですか?」


トゥエルブは俺を見ることなく、小さくため息を吐いた。


「…そうだね、無理だよ。終わり方すら選んでられない。出来もしない願望に踊らされて、知ってるはずの最期に足元をすくわれるだけ。操り人形みたいにさ」


貧困時代に死んだり、捕まって連れていかれた奴らを思い出す。俺もココも死ぬ。明日急に居なくなっても何もおかしくない。


人が死ぬ事が戦争なのだと、ココは言った。それならば、ここは既に戦争だ。


人が死なないようみんなが努力しているピボットゲームの方が、よっぽど平和だ。


「…あんたは、誰かと会えなくなるのは怖くないの?」


少し考えてみた。今の俺は、家の無かった頃とは違う。


「はい。俺は会えなくなる事より、役に立てない方が怖いですね」


「…そっか、なら頑張って」




昼過ぎの公園に行くと、ココはベンチに座ってキョロキョロしていた。いつもより鮮やかな色の服を着ている。


俺と目が合って、照れくさそうに笑った。


「…服、可愛いね」


「えへへ、普段は着ないんだけど」


片手を後ろに回していたココは、俺に布で出来た動物を見せてきた。豚さんだ。


「こ、これ…昨日のお返しで…」


「あ、ありがとう」


球体の身体に、特徴的な鼻。黒粒の目が光を反射する。


「これも可愛い」


「ほんと!?良かったぁ」


少し握ってみる、ふわふわしてて柔らかい。握った跡の豚さんの身体に、少し黒い煤が付いた。汚れが落としきれて無かったらしい。


「あ」


声を上げてしまった俺に反応して、ココが覗き込んで笑う。


「気にしないで、シュリ君のものって感じがして、私、好きだよ」


そのまま背中を向けてベンチに座るココの横に、俺も座る。


今日のハンバーガーは見た目は前回よりも良さそうだ。不揃いな野菜が見える。


「どう?」


「…美味しくはなった」


とは言え、まだ何か出来そうだった。片手にココのハンバーガーを持ちながら、何が出来そうかを紙に書きながら話した。


時折ココがハンバーガーをチラチラ見る。


「…食べる?」


「いや!いいよ別に、恥ずかしいし…」


とは言え、俺が食べるかどうか聞くのも変な話だ。作ったのはココなんだから。


目線を逸らすようにメモを書くココの口元にハンバーガーを持っていく。少し躊躇った後、ココは口を開けてハンバーガーを食べた。


「…うん!前より美味しいかも!野菜は…うん」


俺らより小さい子供が通り過ぎた。手には人型のおもちゃが握られている。恐らくGPを模した遊びなのだろう。

遊具でお互いのおもちゃを持ちながら、何やら擬音を言っている。


「何してんだろうね、あれ…」


子供を見つめるココの目は暗かった。


「さぁ…分かんない」


「ココは、あのゲームで何かあったの?」


ココは口を尖らせて首を横に振る。


「何も無いよ。でも、あんな怖い事を、みんなが楽しそうにしてるのが嫌なの。みんなが楽しそうだと、怖いって言えなくって」


「怖い事?」


「だって、大きなロボットに乗って、人が乗ってるロボットに攻撃するんでしょ?怖いよ…」


GPのコックピットは胸にある。一番当たり判定の大きなそこにあるのは、攻撃する際に外しやすい為だ。

パイロットやOSは、胴体以外に当たるように狙う。不可抗力で胴に当たっても、規定の銃の威力では胴体の装甲は抜けない。


と、こんなことを説明した所で、ココの恐怖が紛れるとは思えない。


子供が笑っておもちゃで遊んでいる姿を、二人で黙って見ていた。

子供が高く掲げたGPの後ろの空が光った気がした。

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