GP15 「欲」
仕事を終わらせて、ペクトゥスを放置して工場を出る。お昼をあまり食べなかった時はロギに心配されたが、俺には用事があるのだ。
昨日ココと会った公園に行くと、ココは既にベンチ居た。大きく手を振ってくる。
「シュリ!良かったぁ、来てくれた」
「ハンバーガーは?」
「もちろん!はい!」
籠に入ったハンバーガーは、肉と野菜とチーズの入ったシンプルな物だ。野菜が無い。
手を入れようとした時、ココが止めた。
「ダメ!ちゃんと頂きますして!」
「何それ」
「えぇ!知らないの!?」
ココが両手を合わせる。
「こうやって両手を合わせて、ご飯を食べられることに感謝するの」
「…頂きます」
同じようにやって、ハンバーガーを取り出す。
「…どう?」
「うーん…」
何かが違う気がする。
「なんと言うか、味が薄い気がする。脂っぽさが薄いのと、野菜が無いからかな?分かんないや」
「あはは…野菜嫌い、直さないとね」
俺の手からハンバーガーを取り、ココも食べた。
「…確かに薄いかも?何入れたらいいかな?」
「うーん…」
そもそもハンバーガーに何が入っているのかあまり詳しくない。
「野菜、何が好きなの?」
「えー…いや、ダメだよね。料理作るなら、野菜も食べれるようにならなきゃ」
思い返すと、あのハンバーガーに入ってた赤色や白色の食べ物の名前も知らない。
俺にとって食い物は、美味しいか写真かの違いしか無かった。
「…俺も、知らない事ばっかだな」
「同じだね」
ココが笑う。笑う理由は分からないけど、なんか嬉しい気がした。
少し味の薄いハンバーガーを食べながら、二人でベンチに座って夕陽を見た。
「ココはどこで働いてるの?」
「働いてないよ、学校。シュリ君はなんで働いてるの?」
「生活する為かな?」
何故かなんて考えた事は無かった。それ以外の生き方を知らない。
「学校って何?」
「色んな事を勉強するとこ…でも、あんまり楽しくはないよ」
「楽しくないのにやるの?」
「だってぇ…そうしなきゃ働けないもん」
それはおかしい。俺は学校に行ってないが働いている。
「シュリ君は働くの楽しい?」
「うん。楽しいよ」
「何する仕事なの?」
「機械弄ったり…」
そこまで言って口を閉じる。ピボットゲームの事を言ったらダメじゃないか。身バレの事を考える。
そもそもシュリという名前すら、前回のゲームで広く知れ渡ったはずだが、ココは知らないんだろうか。
「かっこいいね!」
少し顔がふやける。こう素直に言われたのは初めてだった。
「…ありがと」
遊具で遊ぶ事も無く、ベンチで話した。ココの話す学校の話は、俺の知らない世界だった。
俺は、ピボットゲームを言わない範囲で、仕事の話をした。
「…それってさ、ギアパペット?」
「…知ってるの?」
「うん…あのゲームの話だよね?戦争だって、先生が言ってた」
何も言えなかった。俺はココに、ピボットゲームのInsightだと言えない気がした。
それを悲しいと思ってしまった。
「…学校では、なんて習うの?」
「人が死なない。歴史上1番安全な戦争だって」
「…そうなんだ」
他の戦争は知らない。そもそも戦争がどんなものかも知らない。でも、ココにとって俺は、その戦争の当事者なんだろう。
「あのゲームは、何を争ってるんだろうな」
「歴史の勉強してても、理由がよく分かんないのばっかだよ」
ハンバーガーが無くなった手元の行き先に困ってしまう。落ちる夕陽から目を逸らした時、ココと目が合う。
「私ね、レストラン開いて、みんながあんなゲームがどうでも良くなるくらい美味しいご飯が作りたいんだ!」
その時俺は、スタジアムの売店を思い出した。あそこで食べたハンバーガーは確かに美味しかった。
でも俺は、あそこの全員は、ピボットゲームに釘付けだった。
「…いいな」
「えぇ?なにが?」
「俺も、そんな夢が欲しいかもって」
夕陽に照らされたココの事を、可愛いと思った。思ってしまった。
「じゃあ、私の夢、協力してくれる?」
その日の気分は、どう説明すればいいのか分からない。ただダイニングで何もしないで居ると、仕事終わりのロギが来た。
「…どしたの?」
「…なぁ、ハンバーガーに入ってる野菜って、なんて名前?」
「ハンバーガーに寄るでしょ」
冷蔵庫から珈琲を取り出したロギが向かいに座る。
「トマトとかレタスとか、って調べた方が早いか」
ロギが端末を操作して、ハンバーガーの画像を出す。何が入っているのかを教えてくれた。
「なんで知りたいの?」
「別に…気になったから」
「作るの?」
「いや、俺じゃないけど」
そこまで言ってハッとする。ロギは相変わらず見透かしたように笑う。
「どっち?」
「何が?」
「男?女?」
「…言わない」
「じゃあ、好きな子は確定か」
俺はいつになったらロギに勝てるだろうか。
「…ピボットゲームってさ、戦争なんだろ?」
「厳密には違うけど、そういう認識でいいよ」
「…戦争って、悪なんだろ?」
「まぁ、そうだね」
「俺…悪い人かな?」
「悪い人かぁ…私から見たら、シュリは悪い人じゃない。でもそれは人に寄るかな」
「何それ、適当じゃん」
「善悪は適当なもん」
ロギはコーヒーを飲みながら、その顔はどこか嬉しそうだった。
「…なんだよ」
「シュリも意外とウブだなって」
「…俺に出来ることってなんだろ」
「辞めてよ、青少年の色恋に口出しする気は無いよ。シュリの一挙手一投足で勝負しな。恋愛は人の死なない感情勉強だし」
人の死なない。人が死なないのならば、それは良いことなのだろうか。
「でも、これだけは守って。相手を恨まないこと。男なんでしょ?」
「…分かった」
何だか眠れないので、夜遅くまでシミュレーションをした。
何戦目かの終了と共に、やっとサイトウが口を開いた。
[粗いな]
「…別にいいだろ」
[付き合わせておいて、貧相な操縦をするな]
「気分を紛らわす為に鍛錬するとか、お前には無かった訳?」
[無いな。その心意気では刀が鈍る]
そりゃそうかと、勝手に腑に落ちて、リトライを押す。サイトウは何も聞いてこない。
「…なぁ、家族っていたの?」
[どうでもいい]
「応えろよ」
[居たな]
「え?お前に?」
[随分と大きな口を聞くようになったな]
そもそも、サイトウはどんな顔をしていたんだろう。普段何をしていて、戦の時はどんな気持ちで、家族とはどう接していたんだろう。
多分、聞いても答えてくれないだろうな。
「…今日は辞めるか」
[やっと終わったか]
「ありがとな。付き合わせちゃって悪い」
[気分は晴れたか?]
「なんだよ、意外と気にかけてくれるんじゃん」
[…そういう時期は、俺にもあったからな]
サイトウのこういう所が、ペクトゥスに無いところだと思う。だから話してて楽しい。
「また明日な」
[そうか]
シミュレーションを落として伸びをする。明日ココに会った時の会話を空想しながら洗面台に向かった。




