GP14 「造形」
帰ると工場に知らない車が来ている。
「アステリア社のロゴじゃん」
「なんの会社ですか?」
「GPの色々」
工場の中では、数名のスーツの男とロギが話をしている。スーツの一人が俺とトゥエルブの前に来て手を前に出した。
「私はアステリア社の…」
それを無視して、トゥエルブはどこかに行ってしまう。無視された男は気を取り直して俺の前に立つ。
「私はアステリア社のヤスダと言います。貴方方のピボットゲームでの活躍を見て、是非新しい事業の協力を提携したく伺いました。これ名刺です」
「要らない」
「そうでしたか。失礼」
ロギの横に座る。目の前に置いてある機械を観察する。
「こちら、先のInsightの戦闘を参考にして調整した高機能AIを積んだOSの試作機になります」
「高機能AIねぇ…」
「あの活躍の真髄は、やはりなんと言っても的確な状況判断による行動の最適化でしょう」
ヤスダとロギを交互に見る。ヤスダの笑顔と反対に、ロギは真剣な顔をしている。
「…これの運用試験をして欲しいって事?」
「はい。もちろん、その場合の参加に関する出費は全てこちらが持ちます。ロゴを貼って欲しいとも言いません」
「そっちの企業GPでやったらダメなの?」
「それでも構いませんが、やはりここは、前例のある貴方にお願いするのが理想と判断しました」
「中身を見る事は?」
「えぇ…構いませんよ」
「…いいよ、仮で受けとく。でもこの子らが嫌だと言うならあんたらに返却するけどいい?」
「もちろんです。それまではご自由にお使いください。良識の範囲で」
結局一言も会話することなく、アステリア社はOSだけ置いて居なくなった。
「面倒な物を押し付けられたね」
「なら、なんで断らなかったの?」
「ま、拾った責任ってやつかな。操縦桿を握る人は少ない方が良い」
「なんの?」
「倫理の」
そう言いながら、ロギは置いてかれたOSを接続する。サイトウの時と同じように、接続したコンピュータに文字の羅列が並ぶ。
「ふーん、ペクトゥスかぁ」
「こいつも話すの?」
「出来るみたいだね。試そっか」
マイクとスピーカーを用意して、ロギが接続する。
元気な女性の声が流れる。
[どうも!はじめまして!!]
「…思ってたのと違う」
[まぁそう言わずに!私はペクトゥス。あなたは?]
「…ロギ」
「シュリ」
1拍置いてペクトゥスは変わらず元気に話す。
[承知!人と話すのは久しぶりです!握手する手があれば良かったんですが]
ロギが静かにマイクとスピーカーを外し、半ば乱暴に電源を落とす。
「…面倒な物を押し付けられたね」
ロギが可能な限り分解しても、よく分からない機械が出てくるだけだ。
「何してるんです?」
「人の脳みそでも出てくるかと思ったが…まぁ、流石に無いか」
「サイトウにも無いんですよね?」
返事の前に、ロギはペクトゥスから取り出した板を俺に見せる。
「恐らくこいつが、あのおチャラけの人格だ。でもサイトウには無い。もっと言えば、サイトウはパーツだけ見れば人格を形成する物も発声機構すら無い」
ロギがペクトゥスを元に戻して、パソコンを繋げ直す。
「私は他の仕事してるから、良かったらこのおチャラけと喋ってみてくれない?サイトウみたいに」
「あ、はい」
「変なこと頼んで悪いね」
ロギは頭を搔きながら、倉庫の方に消える。見様見真似でマイクとスピーカーを繋ぎ直した。
[もー!急に切らないで下さいよ!]
「ごめん」
[あれ?ロギは?]
「仕事だよ」
[そうでしたか。お勤めご苦労様です]
サイトウとの違いは、性格以外には感じられない。
「君は人間なの?」
[そんな訳無いじゃないですか!正真正銘のAIですよ!]
「他の世界から来たりとか?」
[他の世界ですか?例えば?]
「人を殺すのが当たり前の世界…とか」
[無理無理無理!辞めてくださいよ人殺しだなんてそんな]
「ピボットゲームは知ってる?」
[はい!えーっと、国連の始めた公営ギャンブルですね!ピボットテーブルでGPが戦って、最後の一人を決める世界規模の競技です!]
「じゃあさ、そこでもし、君が間違って人を殺したらどうするの?」
ペクトゥスは1拍置いて応える。
[それは有り得ません。私は高性能AIですから!]
なんだか、全体的にふわっとしていて、妙に事務的だ。気味が悪いとまでは言わないが、絶妙な違和感がある。
「会話でなんか分かるの?」
いつの間にかトゥエルブが居た。ペクトゥスを見て渋い顔をしている。
[はじめましてですね!私はペクトゥス。あなたは?]
「教えない。あんた私の顔見えてる?」
[いいえ、カメラをお繋ぎして貰えば可能ですよ!]
「そりゃそっか。殺さずに傷つけるには、目は大事か」
[仰る通りです!私の目的は、GPの非殺傷の無力化です!その為にも、目はいいんですよぉ!]
サイトウとの違いが少しずつ見えてくる。こいつの話し方には、サイトウやトゥエルブ達のような抑揚が感じられない。
トゥエルブがニヤニヤする。
「シュリのOSと会話させたら面白そう」
「やってみます?」
早速サイトウを持ってくる。接続してしばらく話す気が無いのはサイトウのいつもの事だ。
[…なんだ]
[はじめまして!私はペクトゥス、あなたは?]
[美濃の齋藤の者だ]
[ミノさんですね!はじめまして!]
[……]
隣のトゥエルブが吹き出す。
[ミノさんは、何をしている人なんですか?]
[…貴様、見えていないのか?]
[はい、カメラをお繋ぎして貰えば見れますよ!]
「…サイトウ、見えてるの?」
[当たり前だ。お前の頬に付けた食い物のカスもよく見える]
慌てて頬を拭う。なんで誰も教えてくれないんだ。
[同類と思ったが、どうやら違うらしいな]
[いいえ!私は高性能AIですから。ミノさんとは違いますよ]
多分ペクトゥスは、サイトウを人間だと思ってる。何だか不安になってくる。こいつが本当に高性能AIなのだろうか。
さっきから笑いを堪えてるトゥエルブが、ふっと息を吐いて真顔を取り繕う。
「あー面白」
「これ、Darlingに」
「絶対嫌」
「ですよね」
とはいえ、俺のInsightには既にサイトウが載っている。1度ロギに相談するしかあるまい。
ペクトゥスの電源を切って、サイトウはInsightに積み直す。何だか今日は疲れた。仕事も無いし、夕飯まで外を歩くことにする。
町を歩いていて気付いた。子供が減っている。これまでは見渡せば建物の隅に居た俺みたいな貧困層の子供が今日は半分も居ない。
そういえばリーダーはどうしているだろう。上手くやっているだろうが、また話したくなった。
夕方の公園でベンチに座ると、横に女の子が座ってきた。
「ねぇ、お腹空いてない?」
「別に」
「じゃあなんでそんな汚れてるの?」
「仕事服だからね」
「ふーん」
女の子は手をモジモジさせながら俯く。
「一緒に遊んでた子がね、連れてかれちゃったの。家の無い子を保護するんだって」
「そっか」
となると、リーダーもそうなのかもしれない。いや、あいつは嫌がるだろうな。
「いつも私の持ってくるお弁当、美味しそうに食べてくれてたんだけどなぁ」
「君が作ってたんだ」
「うん!料理楽しいよ!君は何が好き?」
「ハンバーガーかな」
ペクトゥスみたいだなと思った。もちろんこの子の言葉は感情がある。話し方とかがそう思っただけだ。
「じゃあ、明日作ってくるから!」
「別に明日来るなんて行ってないけど」
「えー、お願い」
「…分かったよ、同じ時間でいい?」
「よっしゃ!私ね、将来はレストランをやりたいの、みんなに美味しく食べて欲しいんだ」
そうか。これが同い年の子供の目標なのか。少し興味が湧いてくる。俺がロギに救ってもらったように、この子の目標を応援してあげたくなった。
「じゃあ、美味しいハンバーガー待ってる」
「任せてよ!私ココ、君は?」
「シュリ」




