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GP13 「金」

ダイニングのモニターの動画サイトで、1年ぶりに縦になったピボットテーブルのサムネイルが沢山並んでいる。


横のロギが半ば退屈に下にスクロールする。


「これ以外の話題無いわけ?」


昼食を食べるトゥエルブは、いつもみたいに黙っているが、今日は少し居心地が悪い。

チラリと目が合うトゥエルブは、いつもより殺気立った目付きをしている。


「…シュリ、行くよ」


「え?何処に?」


「ハンバーガー、食べに行くんでしょ?」


「今お昼食べましたよ?」


ロギが気になってチラチラ見るが、配信で話していたことだと察し、笑って立ち上がる。


「じゃあ私は仕事片付けようかな」


シンクに食器を置いて工場の方に消えていくロギを、トゥエルブと見送る。


「どこのハンバーガーがいい?」


「いちばん高いので」


「そんな変わらないでしょ」


そんな事は無い。と言いたいが、いちばん高いハンバーガーがどんな味なのかは知らない。今食べたばかりだけれど、食べたくなってきた。




トゥエルブが車庫からバイクを引っ張り出してくる。


「後ろ」


「あ、はい」


ヘルメットを受け取り後ろに乗る。腰に落下防止のベルトを巻いて、トゥエルブのお腹に手を回す。機械とは思えない柔らかい肌と、機械としか言えない固い感触がある。


勢いよく飛び出したバイクは、GPでは感じない風を感じた。


着いたのはショッピングモールだ。駐輪場にバイクを停めて、ヘルメットを脱ぐ。

周りの視線が痛いのは、俺らが有名だとかじゃなく、トゥエルブの肌の露出と、腹部に付いている機械が珍しいからだ。


「気になってたんですけど…それ、何なんですか?」


「内緒」


こんなので身バレなんてしたらどうするんだと不安になっているのは俺だけだ。


入口の向こうは綺麗な電飾が光る、人の多い空間だった。見ればわかる。これは高級な所だ。


「やっぱ混んでるなぁ」


「こんなに金持ち居るんだ…」


「あんたの金持ちライン低すぎでしょ」


トゥエルブが胸のポケットから何かを取り出した。


「これ、あんたの通帳。こないだの配信の収益の半分の4,000,000Ш」


「……まじっすか?」


「まぁ、こないだはちょっと異常値だけど」


最初にロギが俺のOSを買うと言った時の30倍だ。気味が悪いとすら思った。

つい先月まで1文無しだった俺に、その数は目眩すらする。


「ここの連中の中じゃ、シュリは金持ちのトップ層かもね」


「はは…」


「税金は引いてあるし、今回はロギが全部持っていいってさ…その話をしに来たけど、まずは買い物でもしよっか」


色鮮やかな服の並んだ店で、トゥエルブは真剣に悩んでいる。

どう考えてもトゥエルブの大きさの服じゃない。


「…俺こんなの着ないよ?」


「せっかく可愛い顔してるのに、試着だけ」


「嫌だ。自分で着れば?」


「私は似合わないし、あんたそんな汚い作業着でいいの?」


見られている感覚は、トゥエルブのせいだけじゃないらしい。露出高めの機械女と、汚ったない作業着のガキが並んで歩いているからだ。


チラリと値札を見る。さっき見た自分の所持金らしい金額よりもかなり低い。

これが果たしてどれくらい服として高いのかどうかは全く分からないが、少なくともかっこよくない。


ほかの店を見渡すと、かっこいい服の並んだ店がある。


「俺あっちがいい」


「えぇ…あれはダサいよ、流石に」


「いいじゃん!髑髏かっこいいだろ!」


「ないない。他はギリ許すけどあれは辞めて」


結局服は特に買わなかった。俺自身そこまでこだわりが無いし、今買った所で着替えられない。


「おもちゃとか興味ないの?」


「何それ」


「あー言うの」


トゥエルブが指さすお店には、俺と同じか少し下位の子供が家族で回っている。


「…無い」


「そういうもんか」


ふと考える。俺はロギに拾われてから、人付き合いが狭くなった気がする。

家の無い頃はもっと色んな同世代の奴らと出会い、情報を交換したり互いに助け合ったりしていた。


あのおもちゃ屋さんに居る子供達は、何を目指して生きているんだろう。




より人の多いフードコートで、トゥエルブと列に並ぶ。


「いちばん高いバーガー屋さん。忙しそうだね」


派手な服を着た店員が慌ただしく動いているのが僅かに見える。


「あれでも、私たちの収入の半分も無いんだから、金ってのは残酷だよね」


「なんで?」


「食べ物は全員が必要とするでしょ?お金が少ししか無い人でも買えるようにしてる。でもそうすると、利益率は低い」


何となく分かる気がする。


「でもGPなんかは、みんなが買う必要は無い。金持ちは多少高くても買う。だから利益率も高い」


なるほど、このハンバーガー屋さんが1日100人に売るのと、GP整備士のロギが一日に一件仕事をするのが殆ど同じという訳だ。


「じゃあ、俺が沢山買えば儲かるかな」


「そういう問題でも無いかなぁ。あんたが一人でそんなに食べれる?」


「じゃあどうすれば?」


トゥエルブが顎に手を当てて進む行列と足並みを合わせる。


「例えば、あんたがゲームでこのバーガー屋のロゴを付けて参加する。あんたのファンはこのバーガーに興味を持ち、食べに来る」


そういえば、戦った相手の中には、似つかわしく無いマークを付けた機体も居た気がする。


「うちらみたいなGPと違って、彼らは人の数が勝負になる。それをなし得るのがピボットゲームって訳」


注文カウンターに着いて、トゥエルブが注文する。番号の書いた紙を貰った。


「席探してきてくれない?空いてるといいけど」


「うぃ」


沢山の机が並ぶこの広間は、人の多さで狭く感じる。少なくとも、パッと見で座れそうな所は見つからない。


適当に歩きながら席を探す。時折誰かと目が合う気がして、それが勘違いだとすぐに分かる。


丁度2人掛けのテーブルを見つけて座る。何をするでもなく周りを見ていると、向かいの席に知らない男が座ってきた。


「…何?あんた」


「…Insightは大丈夫だったかい?」


こいつは俺のことを知っている。身構えるが、男は指を立てて口に当てる。


「Meltから忠告だ。次のゲーム、君を狙う奴が居る」


「…別に前もそうだったじゃん」


「違う、殺しにくる。これは比喩じゃない」


外の喧騒が静かになった気がした。自分の気のせいだと分かった途端音が戻る。


「…トゥエルブには秘密にしててくれ」


そう言い残して、男は立ち去っていった。立ち去り際に家族連れと肩が当たった男は、姿勢を正してお辞儀をして消えた。


「おまたせー。席あって良かった良かった」


トゥエルブが2人分のハンバーガーを机に置いた。ロギと食べた時よりも大きい包み紙に興奮するが、心に引っかかったあの男の背中がチラつく。


Meltは女性だったけど、あの人はロギみたいな立ち位置何だろうか。


何にしても、純粋な気持ちでハンバーガーが食べれない事に苛立ちを覚えながら、その包みを剥がす。


鮮やかな野菜に光を反射する脂。相変わらず俺の口に収まらないその存在感に、脳裏に過ぎる男の影は見えなくなって行く。

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