GP11 (012) 「警鐘」
人数 65名
座標 70° 18km
傾斜 70° 5°
ダーリンとOverdoseは一定の距離で撃ち合う。MeltがOverdoseに接近して圧をかける。
2対1なのに全く有利な気がしない。本当にこいつは化け物だ。
「あれの危険性をロギは分かってるのか?」
「当たり前じゃん」
「だったらゲームには出さないはずだ。あんなのが世に知られたら、あれの模倣品がどうなるか予測がつくだろう?」
「…人間をOSに詰めるんだろうね。マルスコ強いし、お似合いだよ」
「トゥエルブ、あれは人間なのか?」
「さぁ?逆になんで人間だと思ったの?」
「シュリと言ったか?誰かと話しながらやってるそうじゃないか。それも声が乗らない状態にしているらしいな」
「さぁ?」
「隠すなよ。うちの視聴者はもう勘付いてる」
「あの中に内臓は入ってない。もしも入ってたら、ロギだって止めたよ」
「違うな、ロギは他の目的がある。あいつはそういう口だ」
「詳しいんだ、ロギの事。元カノ?」
「少なくとも君よりは古い付き合いだ」
ロギの顔の広さは聞く度に驚かされる。小さな工場で独立してる癖に、やたら大きい所に顔が効く。
お陰でダーリンもこうしてずっと戦えてる訳だけど。
配信画面のシュリは、単独で他の機体と戦っている。実際、あの挙動はあまりにも人間すぎる。動かしてるシュリの視点だとただ小刻みに動いてるだけに見えるけれど、外から見たらすぐ分かる。
コメント欄も不穏な会話を聞いて、少し取り乱している。特にこれまで口にしてこなかったロギという名前にひっかかっている。
「トゥエルブ。僕はピボットゲームが大好きだ。この戦いの高揚感に病みつきになってる」
「へぇ、じゃあ尚更」
「だからと言って、戦争を肯定する気は無い。このゲームと戦争の違いはなんだ?」
「人の命とか?」
「この戦争には目的がない。領土が欲しい、国を守りたい、そういう国と国の目的が一切無い」
Overdoseがお喋りなのは知っているが、いつになく真剣だ。
「目的が無いからこそ、このゲームは成り立ってる。戦争をしない為と言うのは建前だ。形は立派な戦争だが、人は快適に暮らせている。だがそこに強い目的があったら、人は人を殺すぞ」
「だったら既に手遅れだよ。シュリは貧困の出だ。ただ飯をたらふく食べたいからここに居る。何も言えないガキを捨てて、放置してたツケが回ってきたんだ」
「その子供に、あんな物は持たせられないって話さ」
「それって、権利の剥奪じゃん」
大きなサイレンが鳴り響く。UIは残り人数62人を示した。参加人数が半分になり、補給を兼ねたハーフタイムに突入する。
「…また会おう、トゥエルブ。このまま行けば、君のDarlingの未来も危ういからね」
「………」
Overdoseは余裕な背中を見せて消えていく。Meltと二人残された。
「ありがとね。Melt」
「共に戦えたこと、光栄に思います。では」
GPが律儀にお辞儀をして飛んでいく。あれはプログラムされたエモートパターンだ。Insightとは違う。
Meltは何も口を挟むことなく共闘していた。相変わらず、あいつの思想は分からない。
配信画面のシュリに話しかける。
「お疲れ様。シュリ」
「はい…ありがとうございました」
「気にしないでいいよ。補給ヘリがこっちに来てるから、座標から飛んでおいで」
「はい」
深く息を吐いた。短い期間だけれど、シュリの事は見てきたつもりだ。
あいつは、Overdoseが危惧するガキだ。シュリ自身も含めて死に対して怖がってない。明日の飯の為に今ここで全力の殺意を出せる。
初めてシミュレーションに乗ってるシュリの目は、紛争地域での兵士の目によく似ていた。でもシュリは、口元は笑ってた。
「Darlingお疲れ様!」
「これアーカイブ残る?」
「すげぇバトルだったわ」
「話の全容が掴めない…」
過去最高の同接は、望んだような理由じゃない。そもそもそこまで気にしていないけど。
コマンドを開いてダーリンの状況を確認する。いつもより負荷をかけすぎた。今日は早めにリタイアした方がいいかもしれない。
補給ヘリが頭上に来た頃、シュリのInsightが戻ってきた。Overdoseとの戦闘後に目立った損傷は無さそうだった。
「…おかえり」
「はい。戻りました」
弾薬を補充し、予備の装甲を付け直す。フレームの交換は行えないので、関節の負荷は引き継ぎだ。
コメント欄は、ハーフタイム終了と共に、順位を予想する賭け金を打ち切られる競械をどうするかで盛り上がっている。
マイクを1度切り、Insightと通信を繋げる。
「シュリ、そのOSと話せる?」
「あ、はい。今繋ぎます」
ガサゴソと音がした後、低い男の声が聴こえる。
[なんだ?]
「あんた、紛争地域でテスト機やってたって言ってたじゃん?」
[そうだな]
「その時、どういう扱いだった?」
[イレギュラーだ。同じものが造れないか試行錯誤していたが、結局失敗に終わった]
「あんた的に、同類が居たらどう思う?」
[どうでもいい]
こいつもこいつで、考えが常人じゃない。話してて噛み合わない感じがめんどくさい。
「紛争地域とピボットゲーム。どっちが好き?」
[このゲームはくだらない、形だけの戦いだ。そこに何の矜恃も無い]
「…紛争地域なら、それがあったの?」
[あれも眉唾だ。誰かの為だ、国の為だ、己の意思はまるで無い。だがまぁ、お遊戯よりはマシだ]
意味が分からない。こいつはマジモンのバーサーカーだ。
「…あんたは、やっぱりダーリンに付けて制御するべきだった」
[断る]
「…拒否権があるとでも?」
[シュリは腕こそ甘いが、こいつなりの矜恃で戦場に立っている。お前とは違う]
ムカつく。こいつもOverdoseも。
「その、俺は別に」
「シュリ。黙って」
「あ、はい」
ロギはなんて言うだろう。これも想定通りなのかもしれない。
私がダーリンに惚れて、市場で物理的に身体を売ろうとしてた頃から、ロギは変わった奴だった。
『ねぇ、私の眼、幾らで売れる?』
『それじゃあれは買えないよ』
『なら、腕も付けたら買える?』
『無理だね』
『なら、脚もいいよ』
『馬鹿だね、あんた。それじゃ操縦出来ないでしょ』
『いいの、彼が私の傍に居てくれれば』
『…それじゃ、私が買ってあげる。その代わりあんたは、あのゲームに出な』
『…嫌。あんな戦争ごっこで彼を傷付けたくない』
『壊れない用に戦いな。それに、あれだって自由に走りたいはずさ』
ダーリンの補給が終わった。ハーフタイム終了までまだ時間がある。
ダーリンはあの時から、手脚こそ何度か交換しているけれど、胴や内部機構はずっとそのままだ。
もしもそれも壊れてしまったら、ダーリンは本当にダーリンなのか。違う。それはダーリンじゃない。
ダーリンと同じになりたくて、私が私の身体を捨ててみても、やっぱり私だった。それは私の中身があるからだ。
でもInsightはどうだ。例えフレームを全て変えても、中身の自我を持ったOSがある限り、それはInsightだ。
ズルい。




