GP10 「理想」
人数 69名
座標 70° 18km
傾斜 70° 10°
「いいね、距離の詰め方も悪くない。才能か?それとも優秀な先生でも居るのかい?」
そう楽しそうに言いながら、Overdoseは距離を離す。俺の散弾の有効射程の外側から、バーストライフルを的確に当ててくる。
「受け身も凄いな。目がいいんだな」
「…話しかけんなよ!」
「おっと、それは失礼」
後ろからOverdoseを狙うDarlingの射撃すら余裕で避けられる。詰めるInsightの目線から消えた。
「シュリ!上!」
すかさず前に進みながら反転する。勢いを殺さずにOverdoseが接近してきた。
「…行ける!」
踏み込んで格闘を入力する。銃剣の突きは、呆気なく避けられてOverdoseの蹴りを食らう。
「判断は悪くない。少しタイミングが早いね」
「そりゃどうも!」
Insightの姿勢を戻して、直ぐに前に出る。そこにもうOverdoseは居ない。後ろから衝撃が来てよろける。
「先輩からのアドバイスだ。視界から相手が外れた時に位置を予測出来るようになった方がいい」
「おちょくって!」
「まさか。面白い新人だからレクチャーを」
「うるせぇな、望んでねぇよ!」
黙るOverdoseに散弾を撃つが呆気なく避けられる。
「気取ってんじゃねぇ!俺はお前みたいな善意のフリして殴ってくる奴は大嫌いだ!」
いつだってそうだ。直接手を差し伸べてこない大人の口からは、大概優しそうな雰囲気だけある。こいつも同じ匂いがする。
「それは失礼。では壊しに行くよ」
1歩引いたOverdoseの銃撃が来る。それを避けたと思ったら、横から来たミサイルに当たってしまった。
「面白い動きをするね、なるほど鳩が騒ぐわけだ」
盾で防ぐので精一杯だ。俺の入力にサイトウが的確に防御をしてくれていが、捌ききれてない。
Darlingの援護射撃が殆ど意味を成さず、Overdoseは俺しか見てない。
「その動きが出来るOSと、さぞ息の合った入力。これが新時代か」
[盾がもうじき壊れるぞ]
「Insight。君の中に何が入ってるんだい?」
「…!」
動きが遅れた。受け止めた盾が割れる。まだOverdoseまでの距離は遠い。
銃口が俺を向いた。その視界を塞いだ何かが目の前に来た。
GPだ。重装備で派手な色でペイントしてある。Insightを護るように構えたそいつから女性の音声が入る。
「間に合ったね」
「…ははっ、面白くなるタイミングまで待っていたんだろ?Melt」
「Darlingの仲間は助けるわ。久しぶりね、Overdose」
「悪いけど、その子は僕が教えなきゃいけない。今までサボってた癖に僕に勝てるのかい?」
「こっちは3人よ」
「…いいね。やろうか」
「…Insight、動ける?」
「はい」
「私はMelt。妨害には入ってあげるから、頑張って」
「…ありがとうございます」
「気にしないで」
MeltがOverdoseに詰める。お互いが3次元的な動きをして相手の銃撃を避け続ける。
遠目で見て初めて分かる、上澄みの戦い。直線的で機械らしい挙動のはずなのに、その動きに無駄が無い。
サイトウがどれだけ優秀だろうと、今の俺にこんな指示は出来ない。
「シュリ、逃げるよ」
トゥエルブに声をかけられて我に返る。後ろを向いてブーストを吹かす。
「待てよ」
同じくOverdoseが飛んできた。重いMeltは少し遅れている。
Darlingがライフルを撃つが、Overdoseは容易く躱す。Meltが追いつく。
「そんなにあの子が好きなの?らしくない」
「あれは今後のピボットゲームを左右する鍵になる。ここで潰すか、近くに置いておきたい。Meltもそう思うだろう?」
「私は別に気にしないわ」
「私呼び、似合ってないよ」
「シュリ、行きな」
DarlingがOverdoseに突っ込んでいく。Meltを相手しながら、Overdoseは後ろに下がる。
「君が詰めて来るのは予想外だった!Darlingを壊したく無いんじゃ無いのかい?」
「…ロギに言われてんの。下がってくれない?」
「なら断る。あれはダメだ、危険すぎる」
Darlingの配信画面に映るOverdoseが俺を見た気がした。
[引くぞ、シュリ]
「……」
そのまま背中を向けて逃げた。
最悪だ。
倉庫らしい所にInsightを隠して、コックピットで丸まっている。
配信ではDarlingがMeltと一緒にOverdoseとやり合っている。ハーフタイムになる機体数まで残り僅かだ。
コメント欄はDarlingの激励に混じって、俺への言葉が散見する。
「シュリ大丈夫?」
「Insight機体負荷やばい?」
「芋ってるな 萎えたか」
「シュリドンマイ!ナイスファイト」
批判的な意見は無かった、それが悔しい。今俺は、間違いなく護られるお荷物になっている。それをみんな取り繕っている。
Overdoseは危険だと言った。サイトウの事だ。その意図は分からなかったが、その時のOverdose声に最初の優しさは感じなかった。
「…なぁ、俺、どうすればいいかな?」
コメント欄に話しかける。
「ランカーに勝てないのはしゃーない 生きてるだけすげぇよ」
「経験を積むしかないね」
「そこら辺の新人よりよっぽど強い」
「勝てる相手とやり合って、とっととハーフタイム終わらせようぜ」
配信画面のDarlingは、今尚Overdoseとやり合っている。多分ハーフタイムまでやるつもりだ。
ランカーを舐めてた訳じゃない。それでもいい勝負位は出来ると思ってた。俺が逃げてからぐんぐん伸びる同接がそれを否定してくる。
悔しかった。俺は活躍したい。でもランカーとはやり合えない。
残り65人。ハーフタイムまであと3人だ。
「…なぁ、1番近い敵はどこかな!?」
「戻ってもいいんやない?」
「南でランク圏外がタイマンやり合ってる」
「いちばん近くて南かな」
「どうせ壊れるなら派手にやっちゃえよw」
「Overdoseのとこ戻らないの?w」
くだらない野次は放っておけ。俺のやりたい事はなんだ。活躍して、トゥエルブにハンバーガーを奢ってもらう事だろ。
「ありがとう。俺、やれる事をやるよ」
そう言い残してマイクを切る。コメント欄は応援の声一色になった。Darlingと、俺への。
「サイトウ。行ける?」
[シュリ次第だ]
「じゃあ行くよ」
Insightを動かす。南に舵を切って飛ぶ。
[シュリ、ひとつ学んだ事がある]
「奇遇だな。俺もだよ」
[俺はどうやら危険らしい]
「らしいね!お前ばっか人気でムカつく!」
[…ひとつ、言っておかなければならない事がある]
「何?」
[俺は元人間だ]
何となく予想はしていた。ロギにAIを見せてもらった事があるけれど、サイトウは全く似てない。
ロギはサイトウの事をよく調べていた。その顔に他で見せる好奇心の目は無く、恐れすらあったのを覚えている。
「で?それが何?」
[俺も薄々勘づいてはいた。同じような奴を知らないからな。俺が危険だと言われる理由は、俺の真似をする奴が出てくる事だろう]
「それの何が問題なの?」
[いいかシュリ、俺は元人間だ。そして、俺はこの世界とは別の所から来た]
言ってる意味が分からない。
「は?別の世界?」
[そうだ。俺は刀で人を斬る事が当たり前だった時代で死んだ。次に気付いた時、俺はこの箱の中に居た]
「…それを真似するって事?」
[俺とて箱の中の生活で学んだ。そんな神秘はこの世界でも実現出来ない。それを人間の技術で無理やりにでもやろうとする馬鹿を、あいつは恐れている]
「…どう真似するの?」
[さあな。だが、馬鹿は大体視野が狭い]




