GP00 (012) 「人の死なない戦争」
人数 39名
座標 120° 25km
傾斜 220° 20°
斜めになったビルに乗って、下になった方角を監視する。
残り人数のUIがひとつ減った。
敵の位置を示すレーダーはおろか、詳細なマップすらない。その代わりにあるのが配信のコメントだ。
サブモニターのコメント欄は落ち着いている。鳩を飛ばしたから、戻り次第作戦を立て直す。
視界の隅に動く機体があった。方角は180°
射程外なので無視する。
続々と戻ってくる鳩がコメントを流していく。他の配信を偵察する為のリスナーだ。
「激戦区は8人位かな」
「落ちそうな奴居て草」
「この位置なら目標順位は安牌っしょ」
雑談が混じるコメントの中に、ひとつ目に入ったコメントがあった。
「35°の方に2体いる」
今上になってる方角だ。後ろを振り向く。ビル壁を踏みしめる機体の音が、誰に聞かれてるか分からない。それでも動かずに撃たれるよりもマシだ。
ビル壁を跳びながら動く影が見えた。数は1。
射程圏内に入った。照準が相手機体に合わさる。
「ドキドキ」
「タイマンか。楽勝でしょ」
「あれ誰?ランカー?」
「何故降りてきたし」
兎のように跳ねる機体を追うように照準が揺れる。左右に動くから初心者じゃない。気付かれている前提で待機する。
やっと着地点が見える所に足を着いたタイミングで、ライフルを発砲する。
着弾と同時に、相手が後ろにブーストをかけて威力を殺してきた。反応速度が良くてムカつく。
「クソが」
口から漏れた悪態を、コメント欄が茶化す。急接近してくる相手機体の射程内に入った。双方向ミサイルが飛んでくる。
少ない動きでビル壁の隙間に落ちる。斜めになった道路に足先を付けて抉りながら、落下速度を抑えて相手を視界に捉え続ける。
地面が少しずつ戻っていく。大きく蹴り上げて宙に浮いた。左からアラート音。前にブーストを吹かす。
漁夫が入った。カメラを狙撃から通常に切り替える。
2体を視界に捉えられるように後ろに下がりながら外縁を目指す。残り人数は26。少し早いけれど頃合いだ。
2体が攻撃し合ったのを見てミサイルを撃ち、結果も見ないで背中を向けて一気に飛ばす。
「来た来た」
「逃げるんだよぉ!」
「ここから本番」
「早くね?」
正面に一体、狙撃銃だ。火薬の炸裂を見て姿勢制御をする。避けるのは無理だ。山勘で着弾位置を予測する。
装甲を抉り、左肩のフレームに着弾する。この警告音は大嫌いだ。
ムカつくけど、ここでやり合っても分が悪い。地面に戻ってビルに隠れる。
コメント欄の阿鼻叫喚に舌打ちする。
「うるさい。周りにどれだけいる?」
流れるコメントの中から常連のアカウントを探す。
「後ろは5体、正面はそいつだけ」
「鹿狩りが来てる!」
「分かってるよ」
横にズレる。傾斜が下になってる方に落ちるけど、少しずつ平になっていく。UIをチラ見する。
人数 18名
座標 170° 30km
傾斜 220° 5°
何だかんだで良い人数になってきた。順調に行けば目標順位ドンピシャだ。
通信機器にノイズが入る。奇襲もしないでマイクを繋げてきやがった。
「見つけたぜ狸」
「死ね」
ランカーのノマド。鹿狩りだ。
視界にノマドの機体、Aeriallagが空中から機銃をばら蒔いてくる。私の1番嫌いな事を進んでやってきやがる。
「その感じだと、後半はあんまり倒せなかったんだ」
「だからここで帳尻を合わせるって訳よ」
「私一人で足りる?」
「足りないな」
同接が上がってくる。流れるコメントの中に面白い情報があった。踵を返して緩い傾斜を登り始める。
「…何が狙いだ?」
「リスナーに聞いたら?」
Aeriallagの攻撃を避けながらビルの間を縫う。背部に弾が当たる音が不快だ。
「…そういう事かよ」
「どうする?」
「いいぜ、乗ってやるよ」
空中を一閃が切り裂いた。さっきの狙撃だ。Aeriallagはギリギリで掠る。
振り向きこちらもライフルを構えて撃ち込む。良い感じに当たった。
正面アラート音。ミサイルと同時に撃ってきた。前方にブースト。避けられないミサイルは、機能が落ちた左腕で受け止める。
狙撃から私はビルで見えない。対するAeriallagは空中に居座っていて、双方からの射線が通る。挟み撃ちで実質2対1だ。
狙撃の良い一撃がAeriallagに入った。まだ堕ちない。
「あっちを先に潰すか」
「なら、私は逃げるね」
「何秒稼げるかな?」
再び外縁に向かって飛ばす。残り人数がひとつ減った。その直後もうひとつ減る。
Aeriallagの戦闘は派手だ。遠くからでもすぐ分かる。他の奴らが漁夫に来たんだ。
人数 15名
座標 190° 35km
傾斜 170° 8°
外縁は40km、あと少し。後ろからアラート音がした。闇雲に回避するけど、左腕フレームが吹き飛んだ。
Aeriallagだ。死んでなかった。コメントはちゃんと教えてくれてたのに、見てなかった。
「1分持たなかったぁ!狸!!」
「十分」
それでも、Aeriallagの損傷も激しい。逃げ切れる。こっちの弾数もギリギリだ。やり合う気は毛頭ない。
外縁に進みながらAeriallagを視界に捉える。相手の攻撃に合わせて左右に動いて避ける。
距離がどんどん縮まっていく。
あと2km。鳩が帰ってくる。
「後ろ、追ってきてるってさ」
「分かってるさ。お前を倒して傾けば空中の俺が有利だからよ、早く落ちろよ」
「ふーん」
追いつかれるギリギリで足を止めた。上空を通り過ぎるAeriallagと並走する。真昼の太陽が隠れた。
真下は相手の最も狙いにくい位置、ずらそうと右往左往するAeriallagの真下に張り付く。
「時間稼ぎか?いいねぇ」
「違うよ」
高く跳ぶ。すぐそこに見える別の機体の銃口がこちらを向いた。
迫ってきた弾丸が右腕フレームごとライフルを貫く。火薬が誘爆してAeriallagを巻き込んだ。
Aeriallagが怯んだ一瞬の隙に、多方向から射撃が入る。外縁まで思い切り飛びながら左右に振って巻き添えを避ける。
「クソが…」
「お互い様」
どうせフレームは両腕で買う。片方だけ残ってた所で必要ない
背部のスラスターに被弾した。推力が落ちる。その瞬間に海が見えた。
UIが測定を辞めると同時に、モニター上部に大きく文字が出る。
12th
「ふぅ…」
海面に落下しながらコメント欄を見る。
「GG」
「当たりキタコレ」
「お疲れ様!」
「流石トゥエルブ」
「次も頼む」
「…みんなありがとね」
海面に堕ちる。ゆっくりと浮かぶ機体に救護用の船が近づいてくる。
「じゃ、お疲れ様」
配信終了を押して、操縦桿から手を離して深呼吸をした。同接が減っていくのを眺める。
「ごめんね、ダーリン…」
私の機体、Darlingに謝る。返事は無い。
一目惚れだったダーリンを動かしたくて、でも傷付けたくなくて、私はこのゲームで毎回12位で降りる事にしている。
それなのに、今日は被弾が多かった。腕も無くなった。ダーリンに痛い思いをさせちゃった。
船のクレーンで引き揚げられる。コックピットから出て、傷付いたダーリンの顔を抱きしめた。
固く冷たいけれど、その奥の微かな駆動音が聴こえる。
それを受け取れるこの身体も、確かにここにある。生き残ったんじゃない。そうルールが設計されている。
上空に浮かぶピボットテーブルが傾いた。何かの破片が幾つも海に落ちた。もちろん、人はいない。




