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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第二章

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第73話 春の訪れた学園

今、私の目の前には、待ちに待った春がやってきていた。


 窓から差し込む朝の光は、冬のそれとは比べ物にならないほど温かく、そして力強い。


 開け放った窓からは、雪解け水の匂いと、新芽が息吹く土の香りが混じった、優しい風が流れ込んでくる。


 屋敷の庭にある枯れ木同然だった木々にも、小さな緑の蕾が芽吹いているのが見えた。


 今日この日、私の待ちに待った、王立ラピスフォード学園の入学式だ。


「えっと、新しいノートとペンも……よし。それから、これも絶対に忘れちゃダメよね」


 私は今、自室のベッドの上で、荷物の最終確認をしていた。


 それから、お母様が私のために仕立て直してくれた、数枚のワンピース。


 そして、私が一番大切にポーチの奥深くにしまい込んだもの。


 それは、リアが私にくれた、少し不格好な手作りのお守りだった。


 これさえあれば、私は、どんな場所でも頑張れる気がする。


 それにしても、服装が自由なのね。


 入学案内によれば、王立学園は、一部の公式行事を除き、制服の着用義務はないらしい。


 なんだか、前世の大学みたいだ。


 貴族の学園だから、もっとカチカチに厳しい場所だと思っていたけれど。


 そういう自由な校風が、私には少しだけ嬉しかった。


 私が最後の荷物を詰め込んでいると、部屋の扉が、コンコン、と軽くノックされた。


「エリス様、朝食のご準備ができました」


「ありがとう、ミレイユ! すぐに行くわ!」


 ミレイユの、明るい声。


 彼女の声も、この数ヶ月でずいぶんとハリが出た気がする。


 私はもう一度、鏡の前で今日の服装をチェックする。


 派手なフリルやレースはないけれど、そのぶん動きやすくて、私のお気に入りだ。


「よし、完璧ね」


 私はベッドの上で小さく丸まっていたポムを、ひょいと抱き上げる。


「ポム、今日から私、学生よ。あなたも、一緒にお勉強しましょうね」


「きゅるん!」


 私の言葉に、ポムは元気よく返事をしてくれた。


 王立ラピスフォード学園では、使役した魔物を連れて行ってもいいらしい。

 

 学園内には〈テイマー〉と呼ばれる魔獣使いや、ドラゴンを扱う専門職の生徒までいるそうだ。

 

 そのため、魔獣を預けるための専用施設も整っている。

 

 授業によっては、ポムも同伴していいとのこと。

 

 私はポムと一緒に期待に胸を膨らませながら、食堂へと向かうのだった。


 ◇ ◇ ◇


 食堂の扉を開けると、そこには、いつもよりずっと温かくて、幸せそうな匂いが満ちていた。


 テーブルの上には、ほかほかと湯気を立てる、白いパン。


 黄金色に輝く、ふわふわのスクランブルエッグ。


 そして、ミレイユ特製の、具だくさんの野菜スープ。


「おはよう、お姉ちゃま!」


「おはよう、エリス。よく眠れたかい?」


 私に気づいた、リア、お父様、お母様、そしてミレイユが、一斉に笑顔で私を迎えてくれる。


 数ヶ月前、この家に転生したばかりの頃の、あの、重苦しくて、冷え切っていた食卓が、まるで遠い昔のことのようだ。


「おはようございます! お父様、お母様、リア、ミレイユ!」


 私は、元気よく挨拶を返した。


 自分の席に着くと、お父様が嬉しそうに、目を細めている。


「いよいよ、今日からだな、エリス。そのワンピース、とても、よく似合っているぞ」


「ありがとうございます、お父様」


「本当に、立派になって……」


 お母様が涙ぐみながら、私の手を、そっと握りしめてくれる。


 お父様も、深く頷いた。


 ラスール公爵様からの支援と連携が始まってから、私たちアーベント家の生活は、劇的に改善した。


 オルダス公爵は、お父様の元騎士団長としての卓越した知識と、洞察力を見込んで、非公式の軍事顧問という形で、仕事を依頼してくれたのだ。


 それは、アルバ公爵の不穏な動きを牽制するための情報収集や、分析。


 決して表沙汰にはできないけれど、お父様は再び自分の能力を国のために役立てられることを、心から喜んでいた。


 その報酬として、アーベント家には生活に困らない程度の資金が、毎月振り込まれるようになったのだ。


「お姉ちゃま、がくえんって、なあに? おべんきょう、するの?」


 リアが、小さな口で一生懸命パンを頬張りながら、私に尋ねる。


 「そうよ。リアがお勉強しているのと、同じ。でも、もっと、もーっと、難しいお勉強をする場所なの」


 「ふーん。リアもいつか……行ける?」

 

 「ええ、もちろんよ。リアが学園に入る頃には、お姉ちゃんが世界一の錬金術師になって、リアの学費なんて、ぽーんと稼いでみせるわ」


 「やったー!」


 私の、少し大げさな言葉に、家族みんなが、どっと笑った。


 この笑顔、温かい食卓。


 私が命懸けで手に入れた、何物にも代えがたい、宝物だ。


「まあ、特待生として入るのだ。他の貴族の子弟たちに、負けるわけにはいかんな」


「分かっています、お父様。アーベント家の名誉のためにも、必ず、卒業してみせます」


 私が胸を張ってそう言うと、お父様は豪快に笑った。


 その笑顔は、かつての、金獅子と呼ばれた頃の、輝きを取り戻しているように見えた。


 こうして、私たちの楽しくて温かい朝食の時間は、過ぎていくのだった。

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