第70話 特待生としての資格
「……あっ」
声にならない声が漏れた。
合格。 合格したんだ、私。
『――特筆すべきはその類稀なる錬金術の才能である。よって貴殿には特待生としての資格を付与し、在学中の学費を全額免除とする。加えて、錬金術科における一部基礎単位の取得を認めるものとする――』
学費免除。 単位の一部取得認定。
信じられないほどの、最高の条件。
「やった……!」
次の瞬間。
私は思わず飛び上がって喜んでいた。
全身の力が抜けて、涙が溢れてくる。
嬉しくて、嬉しくて、たまらない。
「おめでとう、エリス!」
「よくやったな!」
「お姉ちゃま、やったね!」
「キャン!」
背後から、家族の歓声が聞こえる。
お父様とお母様が駆け寄ってきて、私を強く抱きしめてくれた。
ミレイユも目元をハンカチで押さえている。
ポムは私の周りを嬉しそうに飛び跳ねている。
私は、前世の大学合格発表の日のことを思い出していた。
あの時も、嬉しかった。
だけど、たった一人で、狭いアパートの部屋で、合格通知を握りしめていただけだった。
こんな風に、喜びを分かち合える人がいる。
それが、こんなにも温かくて、幸せなことだなんて。
「本当に、良かった……!」
私は心の底からの安堵感に包まれ、しばらくの間、家族と喜びを分かち合っていた。
すると、妹のリアがちょこちょこと恥ずかしそうに私の元に近づいてきた。
そして、小さな手を私の前に差し出す。
「お姉ちゃま。はい、どうぞ!」
「え? なあに、これ?」
彼女の手のひらに乗っていたのは、少し不格好だけど、とても可愛らしい、小さな布製のお守りだった。
色とりどりの糸で、花のような模様が刺繍されている。
「リアが、作ったの!」
リアは頬を赤らめてもじもじしている。
「お姉ちゃま、がくえんに行っても、頑張ってほしくて……。あと、危ない目に、遭わないようにって……」
なんて可愛いんだろう。
私のために、一生懸命作ってくれたんだ。
その健気な気持ちが、私の胸をぎゅっと締め付けた。
「ありがとう、リア」
私はしゃがみ込むと、妹の小さな体を優しく抱きしめた。
「すっごく嬉しいわ。絶対に、大切にするね」
「うん!」
リアは満面の笑みで頷いた。
その笑顔は、どんな合格通知よりも、私の心を温かくしてくれた。
そんな、優しい空気に包まれていた、その時だった。
――ゴポゴポゴポ……!
部屋の隅から、何やら不穏な音が聞こえてきた。
はっとして振り返ると、そこには私がさっきまで錬金していた鉄鍋が。
すっかり忘れてた。
鍋の中では、作りかけの耐性薬が、不気味な紫色の泡を立てて、激しく沸騰している。
そして……。
――ボンッ!!!
小さな、だけど確かな爆発音。
鍋から、もくもくと、ものすごく臭い紫色の煙が立ち上った。
あっという間に、部屋中が硫黄のような、卵の腐ったひどい匂いで満たされる。
「「うわっ!?」」
「きゃっ! くさーい!」
お父様とお母様、リアが慌てて鼻をつまむ。
私も顔をしかめた。大失敗だ。
「……エリス様」
呆れたような、それでいて、いつもの響きを含んだミレイユの声。
彼女は、慣れた手つきで窓を開け、換気を始めた。
「ご、ごめんなさーい!」
「きゅ、キューン……」
私と一緒に反省しているポムは、顔を見合わせてぺろりと舌を出してみせるのだった。
合格祝いの日に、ちょっとした、おまけがついたみたいだ。
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