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第7話 見習いデビューしました!

その声がした途端、さっきまで騒がしかったホールが、水を打ったように静かになる。


 ぎぃ、と音を立てて、奥の扉が開いた。

 

 現れたのは、私の身長の倍はある、巨大な戦斧を肩に担いだ、一人のドワーフ。

 

 筋骨隆々とした体躯。


 胸元まで伸びた赤茶の髭は、見事に編み込まれている。

 

 その威圧感は、ホールにいるどの冒険者よりも強烈だった。

 

 この人が、ここの主。


 王都冒険者ギルドの、ギルドマスターに違いない。


「ギ、ギルドマスター……!」


 受付嬢が、慌てたように立ち上がる。

 

 ギルドマスターは、彼女を手で制すると、ずしん、ずしんと重い足音を立てて、私の前に立った。

 

 見上げるほどの巨体。


 その眼光は、まるで猛禽類のように鋭い。


「貴様のその目、気に入った」


 ギルドマスターは、ニヤリと口角を上げた。


「ただの貴族のガキたれとは、違う目をしている。傲慢なだけの連中が多い中で、貴様の目には、まだ燃え残った熾火が見える」


 私は、彼の言葉の意味を測りかねて、ただ黙って見つめ返した。


「小娘、お前、何ができる?」

 

「……魔法が、少しだけ使えます」

 

「ほう。ならば、実力を見せてもらおうか。ついてこい」


 ギルドマスターはそう言うと、私に背を向け、ギルドの裏手へと歩き出した。

 

 私は、呆然としている受付嬢と、固唾を飲んで成り行きを見守る冒険者たちを一瞥し、慌ててその大きな背中を追う。


 ◇ ◇ ◇


 ギルドの裏庭は、土と汗の匂いがする、だだっ広い訓練場になっていた。

 

 そこには、無数の傷が刻まれた訓練用の木人や、矢が突き刺さった的が並んでいる。


「あそこの木人、見えるか」


 ギルドマスターが、顎で指し示した先には、一体の木人が立っていた。


「あれに、お前の全力の魔法をぶつけてみろ。この俺が、お前に冒険者になる資格があるか、見定めてやる」


 願ってもないチャンスだった。

 

 私は木人から十メートルほど距離を取り、深く息を吸う。

 

 失敗は許されない。

 

 体内の魔力を練り上げ、右腕へと集中させていく。


「灯せ――小さき炎よ。初級魔法ファイアボール!」


 詠唱と共に、私の手のひらから、リンゴほどの大きさの火の玉が放たれた。

 

 それは、決して大きくはない。

 

 だけど、私の意思を寸分の狂いもなく反映し、一直線に木人へと飛んでいく。


 ドスッ!


 鈍い音と共に、火の玉は木人の中心――心臓があるあたりに正確に着弾した。

 

 じゅう、と木が焦げる音と、わずかな白煙が上がる。

 

 木人には、表面が黒く炭化した、小さな窪みができていた。


「…………」


 ギルドマスターは、黙ってその結果を見つめている。

 

 正直、自分でも驚いていた。

 

 屋敷の庭で練習していた時よりも、威力も、速度も、そして何より精度が格段に上がっている。

 

 これが、本番での集中力というやつか。


「フン……」


 長い沈黙の後、ギルドマスターが鼻を鳴らした。


「魔力量は、ヒヨコ以下だな。だが、コントロールの正確さだけは、そこらの半端な魔術師よりも上かもしれん」


 彼は私の隣まで戻ってくると、その大きな手で、わしわしと私の頭を撫でた。

 

 あまりの力強さに、首が折れそうなんですけど……。


「及第点だ。面白い。貴様のような小娘が、この世界でどこまでやれるか、見てみたくなった」


 ギルドマスターは、楽しそうにガハハと笑うと、懐から一枚の金属プレートを取り出した。

 

 何の変哲もない、銅製のプレート。


「Fランクの登録だ。一番下の、見習いだな。死んでも、ギルドは一切関知せん。文句は言うなよ、小娘」

 

「……はい!」


 私は、震える手でそのプレートを受け取った。

 

 ずしりとした、重み。

 

 それは、私がこの世界で、自分の力で生き抜いていくための、最初の証だった。


「俺の名前はドルガン・ブラストハンマーだ。小娘、貴様の名は?」

 

「私の名前は、エリスです」

 

「ではエリス、冒険者として励むがいい」


 こうして私、エリス・フォン・アーベントは、冒険者になったのだった。

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