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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

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第68話 アルバ公爵の視線、盤上の駒 

朝廷での、実に退屈極まる議論がようやく終わった。


議題は、来年の予算配分と、辺境で発生した小規模な魔物のスタンピードへの対応。


どちらも、些末な問題よ。


他の愚鈍な貴族どもは、己の領地の利益誘導や、取るに足らぬ体面にばかり固執し、長々と時間を浪費しおる。


儂の貴重な時間を、無駄にするでないわ。


儂は内心で舌打ちしながら、深紅の絨毯が敷かれた長い廊下を、ゆっくりと歩を進める。


背後からは、媚びへつらうような貴族たちの追従する気配。


誰もが、儂の顔色を窺っておるわ。


それで良い。それが、この国の、あるべき姿なのだから。


玉座の間から続く、私室へと戻る。


重厚な樫の扉を閉めれば、ようやく忌々しい喧騒から解放される。


儂は、侍従に命じて、上質なローブに着替えると、そのまま最上階に設けられた、ベランダへと足を運んだ。


ひやりとした冬の風が、火照った儂の頬を撫でていく。


空気が澄んでいて、心地が良い。


眼下には、王都ラピスフォードの全景が、まるで箱庭のように広がっていた。


「ふむ。ここからなら、全てをこの手で握っていると実感できるわ」


儂は欄干に、片肘をつき、その絶景を眺めながら、満足げに呟いた。


きらびやかな貴族街も、そして、貧民たちが蠢く旧市街の薄汚れた屋根すらも。


全てが、この儂の、足元にある。


この景色を見るたびに、儂は己が登りつめた、この絶対的な高さを、再確認するのだ。


この宰相の地位。


手に入れるまでには、実に、多くのものを切り捨ててきたわい。


邪魔な者は、容赦なく排除し。 利用できる者は、骨の髄まで、しゃぶり尽くす。


綺麗事だけでは、この腐りきった貴族社会の頂点には、決して立てん。


儂は、己の手を汚すことを、一度たりとも、躊躇いはしなかった。


そうしなければ、儂の望む、理想の国は築けんのだからな。


よくぞ儂は、ここまで来たものよ。


だが、まだだ。


まだ儂の目的は、終わってはおらん。


この国を、儂の望む、完璧な秩序の下に、完全に作り変える。


そのためには、まだ、成すべきことが、山のようにある。


そんなことを考えていると、ふと、数日前に、腹心の部下から受けた些細な報告が、儂の脳裏をよぎった。


「……アーベント家が、動いた、か」


儂は小さく、記憶を探るように、そう呟いた。


あの、没落した、反逆者の家系。


ライド・フォン・アーベント。


かつては『金獅子』などと持て囃された、愚直な男。


儂の計画の、最初の、そして最大の、障害だった男。


奴を排除するには、実に、骨が折れたものよ。


まさかあの泥の中から、再び、何かが芽吹こうとはな。


情報によれば、エリスという名の、あのライドの娘が、近頃、妙な動きを見せているそうではないか。


ラスール家の、あの病弱な跡継ぎの小僧を救ったとか。


それも、あの習得が困難とされる、錬金術の力で、だと?


ふん。あのライドの血筋か。どこまでも、しぶとい。


錬金術とは、また予想外の、そして、少々厄介なものを選んだものよ。


儂はそう思いながら、再び頬を撫でる。


冬の冷たい風を感じた。


王都にも、本格的な冬が訪れようとしている。


冬は、好機でもある。


人も、物も、自然と、その動きが鈍くなる。


水面下で、事を進めるには、実に、都合が良い季節よ。


「じゃが……」


儂は、口の端に、冷ややかな嘲笑を浮かべた。


「まだまだ、小さいのう」


しょせん、八歳の小娘一人。


いくら、あの食えぬ男、オルダス・デザー・ラスールが、後ろ盾についたとて、儂のこの盤石な権力の前に、何ができようか。


オルダスも、あの小娘の奇妙な力に、利用価値を見出したのだろう。


儂への牽制のつもりか? 笑わせる。


確かにあの娘の錬金術の腕は、報告によれば、尋常ではないらしい。


あの堅物のラスール家の執事長ゼドリックまでもが、その力を認め、公爵に進言したとか。


冒険者ギルド経由で、何やら妙なポーションが出回っているという噂も、耳にしておる。


おそらく、あの娘の仕業であろう。


だが、それがどうした。


錬金術など、しょせんは裏方の技術。


それで、多少の金を得たところで、この国の巨大な権力構造を、ひっくり返せるものでは断じてない。


それに、あの娘はまだ若すぎる。


世の中の、本当の恐ろしさを知らぬ。


潰すのは、赤子の手をひねるよりも容易い。


ベランダから背を向け、暖炉の温かい火が燃える、私室へと戻っていく。


小娘のことなど、もう頭の片隅にもなかった。


今は、もっと、ずっと重要で、そして、心躍る計画があるのだから。


「さて、あの研究は、どこまで進んでおるかのう?」


あれこそが、儂の野望を完成させる、最後の切り札。


莫大な資金と、多くの犠牲を払い、ようやく、実用化の目処が立ってきた。


究極の、生物兵器。


どこかの辺境の村あたりで、小手調べと、いくか。


あるいは、目障りな貴族の領地に放ってみるのも、一興か。


儂は、壁に掛けられた王国全土を示す、巨大な地図を、冷たい爬虫類のような目で見据えた。


その地図の上で、儂の指がゆっくりと、ある場所をなぞっていく。


組織との連携も、さらに密にせねばなるまい。


奴らの持つ禁断の知識は、さらに進化させる鍵となるかもしれん。


儂は満足げな、そして、どこまでも冷徹な笑みを、深く深く、刻みながら。


闇の中へと、その身を、沈めていくのだった。


完成は、近い。


この国が、儂の絶対的な支配の下に、ひれ伏す日も、もうすぐそこまで来ているのだ。


あの小娘がどれほどの奇跡を起こそうとも。


この儂の巨大な計画の前では、塵芥に等しいわ。


せいぜい、盤上で踊るがいい。


儂が全てを終わらせる。


その、瞬間までな。

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