第62話 最後のオーブは女神のもとに
私が《ファイアウォール》を解除した、その瞬間。
闇の槍は、音もなく放たれた。
そして、巨大蜂の硬い外殻を、まるで紙でも貫くかのように、いとも簡単に貫通する。
蜂は、悲鳴すら上げる間もなく、その巨体を内部から、黒い闇に飲み込まれ、塵となって消滅した。
後には、焦げ臭い匂いと、地面に落ちた、大きな魔石だけが、残されている。
「……はぁ、はぁ……」
私はそのあまりの威力に、呆然としていた。
これが、Sランクの、魔力……。
「あ、あ、ありがとうございました……!」
我に返った、紫髪の少女が、私の元に駆け寄ってきた。
そして、深々と、頭を下げる。
「えっと、私の名前は、ユリ、と申します。森を、探索していたら、突如として、あの魔物が、現れまして……。その、私、昔から、虫が大の苦手で……」
「……そうだったの。私はエリスよ。さっきまで、あそこの木陰で、休んでいたんだけど」
私がそう言うと、ユリさんは申し訳なさそうに、もじもじとしてしまった。
「ご、ごめんなさい! 私のせいでお休みを邪魔してしまって……!」
彼女は、魔法帽子を胸の前でぎゅっと握りしめる。
まあ、あの魔物が突然出てきたら、誰だって驚くだろう。
同情はする。
だけど、ただで助けてあげたわけでもないのよね。
私は、ちゃっかり頭の中でそろばんを弾いていた。
「ユリさん。一つ聞きたいことがあるんだけど、赤いオーブはどこかで見なかったかしら?」
「赤いオーブ、ですか?」
私の問いに、ユリさんは少し考えるように首を傾げた。
そして、あ、と、何かを思い出したように顔を上げる。
「えっとですね、確か、ここを、真っすぐ行った先に、古い石像がたくさんある広場があります。その、一番大きな石像のすぐ近くに、赤いオーブが浮いていました。私はそこで赤いオーブを手に入れましたので」
「本当!? 助かったわ、ありがとう!」
探す手間が省けた。
魔力は、ほとんど空っぽになってしまったけれど、これなら、十分にお釣りがくる。
「エリスさん! その、また、いつか、必ず、このお礼は、させていただきます! ですから、学園で、またお会いしましょうね!」
「ええ。あなたも頑張ってね。虫には、気をつけて」
私が少しだけ意地悪く笑うと、ユリさんは顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
私とユリさんは、そこでお互いに別の方向へと向かう。
彼女は、次のオーブを探しに。
そして、私は彼女が教えてくれた石像のある場所へと。
◇ ◇ ◇
「ここら辺、かな?」
私はユリさんが言っていた通りの道を歩き、石像がないか注意深く周囲を見ながら、歩を進める。
魔力も、体力も、まだ完全には回復していない。
だけど、休んでいる時間はない。
陽はすでに、西の空へと大きく傾き始めている。
しばらく進んでいくと、木々の密度が、ふっと、低くなった。
そして、目の前に苔むした石畳が広がる、円形の広場が、姿を現した。
その、中央にあった。
天を仰ぐように、立つ三体の石像が。
「これは……女神、かしら?」
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