第60話 業火に散る、洞窟の主
「ギシャアアアアッ!」
巨大蜘蛛は、怒りの咆哮と共に、その口から白い粘着性の高い糸を、まるで銃弾のように吐き出してきた。
ヒュンッ、と風を切る音。
「きゃっ!」
私は、咄嗟に地面へ転がる。
さっきまで私がいた場所に、蜘蛛の糸が突き刺さった。
ジュウウウッ!
嫌な音と共に、洞窟の岩肌が、まるで強酸をかけられたかのように、溶けて白い煙を上げる。
ただの、糸じゃない……!
溶解性の、毒液を含んでるんだわ。
掠めただけで、大火傷じゃ済まない。
私は、冷や汗をだらだらと流しながら、蜘蛛の次の攻撃に備えた。
蜘蛛は、天井や壁をまるで地面を這うかのように、自在に、動き回っている。
その動きは、巨大な体躯からは想像もつかないほど、素早い。
「くっ……!」
私は、反撃に《ファイアボール》を放つ。
だけど、蜘蛛はひらりとそれを回避。
炎の弾丸は、空しく洞窟の壁に着弾し、小さな爆発を起こすだけだった。
動きが、速すぎる……!
このままじゃ、ジリ貧だわ……!
狭い、洞窟の中。
立体的に動き回る相手に対して、私のような地面しか移動できない人間は、あまりにも不利すぎる。
ならば――!
私は、作戦を切り替えた。
狙うのは、蜘蛛本体じゃない。
逃げ場そのものだ。
「一度にたくさんいくわよ!《ファイアボール・乱》!」
私は、両の手のひらに複数の小さな魔法陣を同時に展開させる。
そして、そこから散弾銃のように、数十発の小さな《ファイアボール》を乱射した。
狙いは、蜘蛛の周囲の壁と、天井。
ドッドッドッドッ!!
連続する、小さな爆発。
洞窟内が、一瞬で熱気と爆風に包まれる。
蜘蛛の足場が、炎に焼かれ、次々と崩れ落ちていった。
「ギシャッ!?」
蜘蛛が、焦ったような鳴き声を上げた。
その動きが、明らかに鈍る。
熱気が苦手なのかもしれない。
「まだまだ!」
私は、さらに追撃を加える。
今度は、地面に向かって水の魔法を発動させた。
「初級魔法!」
私の手元から大量の水が溢れ出し、洞窟の床があっという間に水浸しになる。
ぬかるんだ、泥の海。
これで、もし蜘蛛が地面に降りてきても、その動きは、大きく制限されるはずだ。
「ギ、ギギギギ……!」
動きを封じられ、苛立った蜘蛛が、私を睨みつける。
そして、意を決したように、最後の手段に出た。
天井から、その巨大な体を、私めがけて直接飛びかかってきたのだ。
追い詰められて、本能に突き動かされたように。
「――待ってたわよ!」
全ては、私の計算通り。
私は、それを予測していた。
飛びかかってくる、巨大な蜘蛛のその真下で。
私は、今までで最大火力の魔法を練り上げる。
「燃え盛る地獄の業火! 我が敵を、焼き尽くす、炎の檻と、なれ!」
私の詠唱に呼応して。
足元の、水浸しの地面から、ごぼり、ごぼりと、音を立てて、何かが噴き上がり始める。
水じゃない。
炎だ。
「――喰らいなさいッ!《ファイア・プリズン》!!」
私の足元から、巨大な炎の柱が、螺旋を描きながら何本も、何本も天へと噴き上がった。
そして、空中で落下してくる蜘蛛の巨体を捕らえ、絡め取り、巨大な炎の檻を形成する。
「ギシャアアアアアアアアアアアアッッ!!」
炎の檻の中で、蜘蛛がもがき苦しみ、断末魔の絶叫を上げた。
だけど、もう遅い。
炎は、その体を容赦なく焼き尽くしていく。
そして、私はとどめの一撃を放った。
「これで、おしまい!《スパイラル・フレア》!!」
炎と、風の、灼熱の螺旋が檻の中の蜘蛛を、完全に飲み込んだ。
一瞬の、閃光。
そして、後には何も残らない。
ただ、巨大な黒い魔石だけが、からんと音を立てて、地面に落ちる。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
私は、その場にへなへなと座り込んだ。
全身の魔力をほとんど使い果たしてしまった。
だけど、心は不思議と晴れやかだった。
私は、勝ったのだ。
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