第56話 クリスタルに映る、私の可能性
第一試験を終えた興奮が、まだ頬に熱く残っている。
講堂を出て、長い廊下を歩きながら、私はさっきすれ違った不思議な少女のことを考えていた。
女神の香り……。
一体、何のことかしら。
彼女の全てを見透かすような、透き通った翠の瞳。
彼女がただ者ではないことだけは、確かだった。
そんなことを考えているうちに、次の試験会場へと、足が向かう。
案内書によれば、次なる試験場所は「魔法館」と呼ばれる特別な建物らしい。
第二試験の課題は、魔力測定。
それぞれの受験者が、学園の定めた平均基準を越えなければならない。
平均は、B、だったわね。
特別推薦で集められた、天才たちの中の、さらに平均。
割と、厳しい条件かもしれない。
まあ私なら、流石にBランク以上はあると信じたいけれど。
錬金術をアマチュアながらもあれだけ使えているのだ。
多少の魔力はあるはずだ。
そう考えながら歩を進めていると、やがて、目的地である魔法館がその壮麗な姿を現した。
天を突くかのような、いくつもの尖塔。
壁面を彩る、美しいステンドグラス。
まるで、古の魔法使いが建てたお城のような、巨大な建物だった。
ここが、魔法館……。
ここはどうやら、学園が所蔵する大図書館でもあるらしい。
私はごくりと喉を鳴らし、意を決して、その重厚な扉を、押し開けた。
しん、と静まり返った、空間。
高い天井からは、柔らかな光が降り注ぎ、古い木の匂いと、インクの香りが私の心を不思議と落ち着かせてくれる。
周囲を見渡すと、壁という壁が、床から天井まで、巨大な本棚で埋め尽くされていた。
何万冊、いや、何十万冊あるのだろうか。
これだけの魔法の知識が、ここに眠っている。
そう思うだけで、私の心は興奮に高揚した。
「――受験者の方は、こちらへ」
私がその光景に圧倒されていると、ローブをまとった試験官らしき人が、静かな声で、私に手招きをした。
私はその人についていくと、魔法館のさらに奥にある特別な一室へと案内された。
そこは、円形の、だだっ広い部屋だった。
壁際には、歴代の偉大な魔術師たちのものらしき肖像画が飾られている。
そして部屋の中央には、四つの巨大な水晶玉が、厳かな台座の上に置かれていた。
あれが、私たちの魔力を測定するための魔道具なのだろう。
私は案内された一つの水晶玉の場所で、静かに待機した。
やがて、私以外の受験生たちも、部屋に入ってくる。
あの聖女っぽい人も、もちろんいた。
私たちは言葉を交わすことなく、それぞれの水晶玉の前に立ち、これから始まる、運命の審判を待った。
やがて、部屋に一人の老魔術師が入ってきた。
長く白い髭をたくわえ、その瞳は、我々の魂の奥底まで、見透かすかのように鋭い。
彼が、この第二試験の試験官らしい。
「――これより、第二試験、魔力測定を、開始する」
その声は静かだったが、部屋の隅々までよく通った。
「ルールは、単純明快だ。目の前にある、その『マナ・クリスタル』に、手を触れ。己が、持てる全ての魔力を、注ぎ込むのだ」
試験官は、ゆっくりと私たちを見渡した。
「クリスタルの色は、汝らの、魂の格、そのもの。Cランク以下であれば、色は変わらず。Bランクであれば、青。Aランクであれば、赤。そして、天才の才能を示すSランクは、気高き紫に、輝くであろう」
彼の言葉に、部屋の空気が、ぴり、と張り詰める。
「合格基準は、平均とされる、Bランク。だが、心得ておくがいい。ここで示されるランクは、今後の、学園生活、ひいては、貴君らの人生そのものを、大きく、左右することになる、と。……では」
試験官は、すっと、右手を上げた。
「――始めよ!」
その声が、合図だった。
私の逆転劇は、まだ、始まったばかり。
その最初の関門が、今、目の前に立ちはだかっていた。
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