第54話 だらしない天才教授
ここがQ棟。
錬金術や魔道具の研究に使われる、特別な校舎らしい。
廊下には見たこともないような、複雑な機械やガラス器具がずらりと並んでいた。
まるで前世の大学の研究室に、迷い込んでしまう感覚
やがて私は「研究室」と書かれた、扉の前にたどり着く。
扉に手を掛け、ゆっくりと中へと引き戸を開いた。
その瞬間。
私の目に飛び込んできた光景に、私は思わず絶句してしまった。
「……ひどい」
そこは研究室というよりは、まるで巨大な竜巻が通り過ぎた後のようだった。
床には割れたフラスコや、正体不明の液体が散乱している。
壁際には崩れかけた、本の山。
机の上には様々な薬草や、鉱石が無作法にごちゃ混ぜに置かれていた。
そして、そのカオスの中心。
実験台の上に頬杖をついて、こっくりこっくりと居眠りをしている一人の女性がいた。
黒いとんがり帽子。黒いローブ。
だけどその着こなしはひどくだらしなく、あちこちが薬品のシミで汚れている。
「……あら? お客さん? いらっしゃーい」
私が呆然と立ち尽くしていると、その女性はゆっくりと顔を上げた。
眠そうな目をこすりながら、にへらーっと気の抜けた笑みを私に向けてくる。
この人が私の、試験官……?
私は不安に思いながらも近づいていき、自分の持っているカードを提示した。
「えっと、受験者のエリス・フォン・アーベントです」
「んー? ああ、エリスちゃんね。はいはい、オッケー。私の名前はメアリー、見ての通り、錬金術の担当教授だよー。この学園では、結構、人気者なんだからね?」
メアリーと名乗った彼女は、ニヤリと悪戯っぽく笑う。
そして机の上に、さらにごちゃごちゃと材料を並べ始めた。
そこら辺に転がっていた薬草や、引き出しから取り出した怪しげな色の液体など。
やがて準備が終わったのか、彼女はぽんと手を叩いた。
「はい、じゃあこれにて、試験かーいし! 頑張って何かすごいのを錬金しちゃってねー」
「えっ!?」
私は思わず、素っ頓狂な声を上げた。
「あ、あの! レシピとかは……!?」
「んー? レシピ?」
私が戸惑っていると、カリス先生はてへぺろ、というポーズで首を傾げた。
「それがさー、見てよこの部屋。散らかってるでしょ? 昨日ちょっと、派手な実験をやらかしちゃってさー。その時にレシピ、どこかに吹っ飛んでっちゃったみたいなんだよね。だから、頑張ってね!」
……こ、この人。
かなりヤバいタイプの大人かもしれない。
だけどこれは、試験だ。
レシピがないという、この無茶ぶりそのものが、試験官の意図的な課題。
面白いじゃない。
私は、ごくりと喉を鳴らした。
レシピがないなら、私が作ればいい。
最高のレシピを。
最高の錬金術を。
このだらしない天才に、見せつけてやる!
私はまず目の前の、材料の山を注意深く観察することから始めた。
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