第49話 盾となる家
「君は……あの、誰よりも実直だった、ライド・フォン・アーベント殿の、娘御なのだな」
二人きりになると、公爵は、静かな声で、そう切り出した。
その瞳には、どこか、懐かしむようなそして、悔いるような複雑な色が、浮かんでいる。
「はい。父の名を、ご存知で?」
「無論だ。彼は、かつて、国王陛下に、最も忠誠を誓った、気高き騎士だった。……そして、我がラスール家とも、親交が、深かった」
私は、驚いて顔を上げた。
そんな話、聞いたこともない。
「エリス嬢。君と、君の家族が、なぜ、今あのような不遇な暮らしを、強いられているか。その理由を、君はどこまで知っている?」
「……父が、アルバ公爵の、罠にはめられ、反逆者の、濡れ衣を、着せられたから、と」
私がそう答えると、公爵は、苦しげに顔を歪めた。
「……その通りだ。五年前の、あの政争。アルバは、実に巧妙に罠を張り巡らせた。我々、ラスール派もライド殿の無実を、信じてはいた。だが、アルバが提示した、捏造された証拠は、あまりにも完璧すぎたのだ」
公爵は、拳を強く握りしめる。
「我々が、下手に動けば、それは、王国全土を巻き込む、内乱へと、発展しかねなかった。多くの、罪なき民の、血が、流れることになる。……我々は、動けなかった。ライド殿を、見捨てるしかなかったのだ。臆病者だと罵られても、仕方あるまい」
彼は、私に向かって、再び、深く、深く、頭を下げた。
「君の父君を、そして、君たち家族を、救えなかったこと、このオルダス・デ・ラスール、生涯の、不覚。心より、詫びる」
私は、何も言えなかった。
目の前の、この、国の最高権力者もまた、この腐った貴族社会の、巨大な歯車の前では、無力だったということなのか。
「アルバは、君の存在にいずれ気づくだろう」
公爵は、顔を上げた。
その目には、鋭い、光が宿っている。
「ラスール家を救った、“規格外れの錬金術師”が、あの、アーベント家の娘であると、知れば。彼は、必ず君を潰しにかかる。彼の、果てなき野望にとって、君はあまりにも危険すぎる存在だからだ」
暗殺、誘拐、あるいは再びアーベント家に、罪を着せる。
あの男なら、どんな卑劣な手でも使ってくるだろう。
「だからこそ」
公爵は、私の目をまっすぐに見つめた。
「我が、ラスール家が、君と君の家族の、完全な“盾”となることを、ここに誓おう」
その言葉は、何よりも力強かった。
「君が望んでいるものを。無論、我が家が、全面的に後援する」
そして、彼は、続けた。
「改めて、君の父君、ライド殿とも、話をさせていただきたい。我々は、もう、逃げも、隠れもせん。アルバと、戦う時が来たのだ。……君が、そのきっかけを作ってくれた」
それは、ただの援助の申し出では、なかった。
打倒、アルバ公爵。
そのための、血よりも濃い、「同盟」の、申し込みだった。
私の小さな錬金術が、今、この国の歴史を大きく動かそうとしている。
私は、ごくりと喉を鳴らし、そして、静かに、頷いた。
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