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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

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第46話 一滴の奇跡

ポーションの、コルクの栓をゆっくりと、抜く。

 

ふわり、と、雨上がりの、朝の森のような、清浄な香りが部屋に広がった。


私は、令息の頭をそっと持ち上げると、その、乾いた唇に、小瓶の口を、近づける。

 

飲み込む力も、弱っている。

 

だけど、私は焦らず、一滴、また、一滴とその命の雫を、彼の口の中へと、注いでいった。


オーロラ色に輝く、最後の、一滴が、彼の喉を通り過ぎていく。

 

私は、全てを飲み干させたのを確認すると、そっと、彼の頭を枕へと戻した。


そして、その場から、一歩、下がる。


「……効力が出るまでには、少し、時間が必要だと、思います」


私がそう告げると、公爵様はこくりと頷き、固唾を飲んで息子の顔を見守っている。


「そうか、ご苦労だった。お前は別の部屋で待機していろ。ゼドリック、案内してやれ」

 

「はっ」


私は、公爵様の言葉に従い、ゼドリックさんに促されるように、ルートス令息の部屋を出て行こうとした。

 

私の役目は、もう終わった。

 

後は、奇跡が起こるのを信じて待つだけだ。

 

私が、重い扉に、そっと手をかけた、その時だった。


「……お……お父……さま……」


か細い、だけど、はっきりとした声が静かな部屋に、響いた。

 

その瞬間、部屋にいた、全ての人間が、凍り付いた。


私も、振り返る。

 

声は、ベッドの上の、ルートス令息から聞こえてきていた。


次の瞬間、静寂を破ったのは、公爵様の、絶叫だった。


「なっ!? ルートス!? ルートス! 私の声が、聞こえるか!?」


オルダス公爵は、信じられない、という顔で、何度も、何度も、息子の名前を呼ぶ。

 

その手を、まるで宝物のように、両手で強く、強く、握りしめながら。


執事長のゼドリックさんも、普段の冷静さが嘘のように、私のことなど忘れて、主の元へと駆け寄った。


「ルートス様! おお、ルートス様!! お分かりになりますか!?」


二人は、もう、ルートス令息の傍を離れようとはしない。

 

部屋は、遅れて状況を理解した医師団の驚嘆の声と、メイドたちの、喜びのすすり泣きで、満ち満ちていく。

 

歓喜の、渦。


私はその輪の中心で、ただ一人、呆然と立ち尽くしていた。

 

そして、誰にも気づかれないように、そっと、部屋の扉を開け、廊下へと滑り出る。


扉の外では、多くのメイドたちが、詰めかけていたらしい。

 

彼女たちは、中の騒ぎを聞きつけ、心配そうに、ずっとここで待機していたのだろう。

 

だけど、部屋から出てきた私には、誰も目をくれない。

 

彼女たちの視線は、開かれた扉の、その向こう側。

 

主の息子が、奇跡の生還を果たした、その歓喜の光景に、釘付けになっていた。


私はルートス令息が、どれだけ、この屋敷の人々に愛されているのかを、改めて、思い知った。

 

そして、少しだけ前世の、孤独だった自分を、思い出してしまった。

 

私には、あんな風に心配してくれる家族なんて、いなかったから。

 

今の私には、温かい家族がいる。


お父様も、お母様も、リアも、ミレイユも、私のことを大切に思ってくれている。

 

それは、分かっている。

 

だけど、やっぱり心のどこかで、あの歓喜の輪の中心にいるルートス令息が、少しだけ羨ましいと、感じてしまった。


私は、そんな感傷を振り払うように、歩き始める。

 

あのゼドリックさんが、すっかり私の案内役を忘れてしまっているのだから、仕方ない。

 

メイドたちも、まだ奇跡の余韻で硬直している。


私はメイドたちの間をすり抜けるようにして、どこか休める場所を探すことにした。

 

広すぎて、出口も分からない、壮麗な廊下。

 

そこに、私の小さな足音だけが、ぽつん、ぽつんと、響いている。

 

まるで、世界に私一人だけが、取り残されてしまったかのようだった。


私が、寂しさに胸をきゅっと締め付けられながら、廊下の角を、曲がった、その時だった。


「――きゅるん!」


聞き慣れた、愛しい声。

 

廊下の向こうから、小さな白い弾丸が、まっすぐに、私に向かって飛んでくる。


「ポム!?」


いつの間にか、門兵を抜け出してきたのだろうか。

 

ポムは、私の胸に思いっきり飛び込んできた。


「心配してくれたの? ありがとう」


「キャン!」


私は、その温かくて柔らかな体を、ぎゅっと、抱きしめた。

 

そうだ。

 

私は、一人じゃない。

 

私には、この最高の相棒が、いてくれる。

 

それだけで、十分すぎるくらい幸せだ。

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