表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/83

第44話 最後の賭け、ラスール公爵家

ドルガンさんの足は、凄まじい速さだった。

 

馬車よりも、ずっと速い。

 

王都の石畳の上を、まるで一陣の風のように、駆け抜けていく。


そして、私がもっと驚いたのは、ポムだった。

 

あの小さな体で、ドルガンさんの猛スピードに少しも遅れることなく、ぴったりと、ついてきている。

 

時々、楽しそうに「きゃんきゃん!」と鳴きながら。


流石は、魔物……なのかしら?


身体能力が、異常すぎるわ……。


もしかして、いつも私に合わせて、ゆっくり走ってくれてたのね。


そんなことを考えているうちに、周りの景色は、見慣れた平民街や商業区から、明らかに違う、荘厳な雰囲気を帯び始めていた。

 

一つ一つの家が、まるで小さなお城のように、大きく、そして豪華になっていく。

 

ラスール公爵家が居を構える、本物の貴族街。


私の知らない、世界の道。


やがて、その中でもひときわ巨大で、そして美しい、白亜の壁に囲まれた壮麗な屋敷が、目の前に、姿を現した。


「着いたぞ、エリス」


ドルガンさんは、屋敷の巨大な正門の前で、ようやく足を止めると私を、そっと、地面に降ろしてくれた。

 

ポムは少しだけ疲れたのか、はぁはぁ、と可愛らしく、息を切らしている。


私は、目の前の光景に、息を呑んだ。

 

天まで届きそうなほど、高い壁。

 

金と黒で彩られた、威圧的な鉄の門。

 

その両脇には、ラスール公爵家の紋章が刻まれた盾を構え、微動だにしない屈強な門番たちが、何人も、立っている。


ここが、ラスール公爵邸。

 

私のような名ばかり伯爵令嬢が、本来であれば、一生足を踏み入れることすら、許されない場所。


「何者だ!」


門番の一人が、私たちに気づき、槍の穂先を、鋭く、こちらへと向けてきた。


「冒険者ギルドが、ギルドマスター、ドルガン・ブラストハンマーだ! 公爵閣下に、至急、お目通りを願いたい!」


ドルガンさんが、名乗りを上げる。

 

だが、門番たちは、少しも怯まなかった。


「ギルドマスター殿であったか。だが、アポイントメントのない者を、通すわけにはいかない。お引き取りを」

 

「緊急の要件だ! ご令息の、命に関わる!」

 

「いかなる理由があろうとも、規則は規則。通すことは、できん」


鉄壁の守り。

 

これが、公爵家の、威光。

 

ドルガンさんですら、突破できないのか……!


私は、思わず前に出た。


「お願いします! ルートス令息の薬が出来たんです! どうか、通してください!」


私の、必死の叫び。

 

だが、門番は冷たい目で私を一瞥しただけだった。


「お嬢ちゃん。ここは、遊び場ではない。早く、お帰りなさい」


くっ……!

 

子供だからと、まともに、取り合ってもらえない!

 

どうすれば……!


私が、唇を噛み締めた、その時だった。


「――騒がしいな。何事だ」


門の内側から、静かだが、よく通る、老人の声がした。

 

ゆっくりと、現れたのは、完璧な仕立ての、漆黒の燕尾服に身を包んだ、白髪の執事。

 

その隙のない佇まいと、冷徹で、理知的な灰色の瞳は、執事長のようだ。


彼がこの屋敷のただならぬ地位にいることを、物語っている。


「これは、ドルガン殿。朝早くから、一体、どのようなご用件で?」


執事長は、ドルガンさんには、丁寧な一礼をしつつも、その視線は、明らかに私を値踏みするように、見ている。


「セドリック殿。この小娘が、ご令息を救うための、薬を持ってきた。すぐに、閣下にお繋ぎいただきたい」

 

「……薬、ですと?」


 執事長――セドリックさんは、私を見て、ふっ、と、鼻で笑った。

 

その目には、あからさまな、侮蔑の色が浮かんでいる。


「ギルドマスターともあろう方が、このような子供の、戯言にお付き合いになるとは。お戯れが、過ぎますぞ。医師団も、神官様方も、匙を投げられたのだ。この少女が、一体、何に……」


「戯言かどうかは、この薬が、証明します」


私は、彼の言葉を、遮った。

 

そして、一歩、前に出る。


「あなた様が、ここで、時間を無駄にしているほんの数秒の間にも、ご令息の、命の灯火は、消えかけているのですよ」


私の、子供らしからぬ、その言葉。

 

そして、私が差し出した小瓶から放たれる、尋常ではない魔力のオーラに、執事長の眉が、ぴくり、と動いた。

 

だが、彼はまだ信じようとはしない。


「……小生意気な。どこの馬の骨とも知れぬ、小娘が」


彼が私を追い払おうと、手を上げた、その時だった。


「――セドリック、もうよい」


屋敷の奥から聞こえてきたのは、威厳と、そして、深い、深い、疲労に満ちた男性の声だった。


現れたのは、ラスール公爵、オルダス様、ご本人。

 

その顔は、数日前の、ギルドの公示で見た、肖像画よりも、ずっとやつれ、その目には絶望の色が浮かんでいた。


「君は……見たことがあるな……」


公爵は、私の素性を、すでに、知っていた。

 

そして、私のことを、じっと、見つめている。


「して、嬢君。君は、息子の病を、治せると、申すか」

 

「はい。治せる、と、私の師匠は、申しておりました」


私は、臆することなく、公爵の目を、まっすぐに見つめ返した。

 

そして、一世一代のプレゼンテーションを、始める。


「ご令息の病の原因は、呪いでも、疫病でもありません。それは、この王都に満ちる、魔力の不純物――“魔力ノイズ”と、ご令息の、生まれ持った、繊細な魔力体質が引き起こす、魔力の不協和音マナ・ディスコードにございます」


 私の言葉に、公爵の後ろに控えていた、医師団の老人たちが、ざわめき立つ。


「馬鹿な! 魔力ノイズなど、聞いたこともない!」

 

「子供の、妄想だ!」


だが、私は一歩も引かなかった。


「皆様が、常識に囚われている間に、ご令息は、死に瀕しているのです! この薬は、暴走する魔力を鎮め、乱れた循環を整え、そして、体外からのノイズを遮断する三つの効果を併せ持つ、唯一の、治療薬! これを、信じてはいただけませんか!」


私の、魂の、叫び。

 

公爵は黙って、私の言葉を、聞いていた。

 

その顔には、深い、深い、葛藤の色が、浮かんでいる。

 

常識か。

 

それとも、目の前の小さな少女がもたらした、万に一つの、可能性か。

 

やがて、彼は苦しげに息子のいる屋敷の奥を見やり、そして、ゆっくりと、天を、仰いだ。


「……よかろう」


絞り出すような、その声。


「信じるには、あまりにも、荒唐無稽な話だ。だが……もはや、我々には、祈るか、あるいは、奇跡に賭けるかしか、残されてはおらん」


公爵は、決断した。

 

そして、氷のように、冷たい目で、私を、見据えた。


「この少女を、息子、ルートスの、元へと、案内する」


医師団の、反対の声を、その一言で、ねじ伏せて。

 

彼の、父親としての、最後の、賭け。


「……ただし、嬢君。もし、これが、偽りであった場合。君の命は、ないものと、覚悟するがいい」


その言葉のあまりの重さに、私の背中を、冷たい汗が、一筋、伝っていった。

 

これから、私が、足を踏み入れるのは、後戻りの許されない、運命の、舞台。

 

私は、ゴクリと、乾いた喉を、鳴らし、そして、大きく頷いた。


「――覚悟は、できております」

【作者からのお願いです】


・面白い!

・続きが読みたい!

・更新応援してる!


と、少しでも思ってくださった方は、


【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!】


皆様の応援が原動力になります!

何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ