第42話 魔力調律薬、完成
この三つの、規格外れの力を、完璧な調和へと導く。
膨大な魔力制御の負荷に、私の八歳の小さな体が、悲鳴を上げている。
意識が、遠のく。
目の前が、白く、霞んでいく。
だめ……ここで、倒れるわけには……いかない……!
指先が震え、魔力のコントロールが、乱れる。
私は鍋の中の、荒れ狂う、光の奔流へと、叩きつけた。
私の、魂の叫び。
それが、通じたのか。
暴れ狂っていた、純白の光が、すぅっと、その輝きを、収束させていく。
そして、鍋の中の液体はまるで、奇跡のグラデーションを描くように、その色を、刻一刻と、変えていった。
夜空の、藍。
生命の、翠。
そして、希望の夜明けを告げる、黄金。
その全ての色が、一つに溶け合っていく。
やがて、全ての光が完全に収まった時。
部屋には、雨上がりの、朝の森のような、どこまでも、清浄で、そして生命力に満ちた、芳しい香りが満ち満ちていた。
鍋の中にあったのは、もはやただの液体ではなかった。
それはまるで、夜明けの空をそのまま切り取って、閉じ込めたかのようだった。
見る角度によって、夜の静けさのような「青」にも、森の生命力のような「緑」にも、そして、希望の夜明けのような「金色」にも見える。
一つの、オーロラそのもの。
「……できた。できちゃった……」
私はその場にへなへなと、座り込んだ。
汗で全身、びしょ濡れだ。
指一本、動かすのも億劫なくらいに疲れ果てていた。
だけど私の心は、今まで人生で、一度も、感じたことのないほどの圧倒的な、達成感で、満たされていた。
私は最後の力を振り絞って、そのオーロラ色の奇跡を用意しておいた、一本の、小さな小瓶に、移し替えた。
そのたった一滴、一滴が、あまりにも、尊いものに感じられた。
机の上で、その小瓶は、自ら発光しているかのように、神秘的な輝きを、放っている。
私が持てる知識と、技術と、そして、魂のすべてを注ぎ込んで生み出した、奇跡の薬。
《魔力調律薬》。
全ての作業を、終えた。
私は、もう限界だった。
ふらつく足で、ベッドにたどり着くと、そのまま、そこに倒れ込む。
隣には、ポムがとろんとした目で、私を待っていた。
私はその小さな体を、ぎゅっと、抱きしめる。
「ありがとう、ポム。あなたがいなかったら、絶対に、できなかったわ……」
ポムは私の胸に顔をうずめて、すり、と甘えてくる。
その温かさを感じながら、私の意識は、心地よい、深い、深い、眠りの底へと、落ちていった。
これで、ルートス令息を助けられるかもしれない。
だけど、どうやって公爵様にこれを信じてもらえば、いいんだろう……?
そんな、次なる課題を頭の片隅に浮かべながら。
◇ ◇ ◇
翌朝。
私が目を覚ましたのは、窓から差し込む日差しが、すっかり高くなってからだった。
あれだけ消耗したはずの魔力も、一晩ぐっすりと眠ったおかげで、すっかり、回復している。
「……夢じゃ、なかったのね」
机の上でオーロラ色の小瓶が静かな輝きを放っているのを見て、私は、昨夜の成功が、現実であったことを、再確認した。
隣では、ポムが、まだ、すうすうと、可愛らしい寝息を立てている。
よほど、疲れたのだろう。
「よし……!」
私はベッドから勢いよく飛び起きた。
やるべきことは、分かっている。
「これをドルガンさんのところに持っていき、ラスール公爵家への仲介をお願いしなくちゃ……!」
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