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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

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第39話 聖域に咲く花

私も慌てて、その小さな後を追った。


ダンジョンの内部は、ひんやりとした湿った空気が漂い、古い石と苔の匂いがする。

 

だけど、不思議なことに、魔物の気配も、罠が仕掛けられているような殺気も、全く感じられない。


「もしかして、誰かがもう攻略しちゃった後なのかな?」


そう考えるのが自然かもしれない。

 

本来、ダンジョンというものは危険な罠で満ちているはずだ。


だけど、私とポムが歩いても、何も起こる気配はない。

 

私は警戒を怠らないようにしつつ、薄暗い通路を奥へと進んでいった。


すると、ポムが突然、目の前の壁でぴたりと止まる。


「あちゃー、行き止まりみたいね」

 

私がそう言って引き返そうとした、その時。

 

ポムが「きゃん!」と鋭く鳴いて、壁に向かって駆け寄った。

 

そして、前足で壁をかりかりと引っ掻き始める。


「きゃん! きゃん!」


その必死な様子は、明らかに「この奥に何かある」と訴えていた。

 

私はポムの元へ行き、壁にそっと手を触れてみる。


 ひんやりとした、ただの石の壁。


 見た目には、少しも怪しいところはない。

 

だけど、ポムは間違えない。


「ポム、ちょっと離れてて」


私はポムを下がらせると、壁に向かって右の手のひらを突き出した。

 

問答無用。


 こんな時は、物理的に突破するのが一番手っ取り早い。


「炎の弾よ、道を拓け――初級魔法ファイアボール!」


詠唱と共に放たれた炎の塊が、壁に直撃する。

 

轟音。

 

石壁は、まるでビスケットのように砕け散り、その向こう側に、新たな通路が姿を現した。


「ポム、すごいや。本当にあったわね」


どうやら、巧妙に隠された通路だったみたい。

 

ポムは得意げに一声鳴くと、再び私の案内役として、その闇の奥へと進んでいく。

 

ここから先は、きっと誰も足を踏み入れたことのない、未踏の領域。

 

私は、ごくりと喉を鳴らし、注意深く、その後をついていった。


コツ、コツ、と私の小さな足音だけが響く。

 

どれくらい歩いただろうか。

 

通路の先に、微かな光が見えてきた。

 

それに気づいたポムが、嬉しそうに走り出す。


「きゃん!」

 

「ちょ、待って!」


私も無我夢中で、その後を追った。

 

光は、どんどん強くなっていく。

 

暗闇に慣れた目には、少し眩しいくらいだ。

 

そして――。


目の前が、ぱっと、開けた。

 

険しい道のりの果てに、私たちは突如として、信じられないほど、美しい場所に、たどり着いたのだ。


そこは、水晶のように、どこまでも澄み渡った、小さな地底湖。

 

天井には、光る苔がびっしりと生えていて、まるで満点の星空のように、柔らかな光を投げかけている。

 

静寂に包まれ、清浄な魔力が、満ち満ちていた。

 

まるで、世界から、切り離された、聖域のよう。


そして――。


地底湖の中央に浮かぶ、小さな島。

 

そこに、一面、白い花が、咲き誇っていた。

 

月の光を、そのまま、固めたかのような、幻想的な、白い花。


「きれい……」


私は、そのあまりの美しさに、ただ、言葉を失った。

 

薬草図鑑には、載っていない。

 

全く、見たこともない、未知の花。


ポムは、迷うことなく、浅瀬をぱしゃぱしゃと渡り、その小さな島へと上陸する。

 

そして、無数に咲き誇る、同じ白い花の中から、たった一輪だけ、ひときわ清らかな光を放つ花の前で、ちょこん、と座り込んだ。

 

私も冷たい水の中へと足を踏み入れ、その後を追った。


「……この、花なの?」


私が尋ねると、ポムはこくり、と頷いた。

 

私は半信半疑のまま、その花にそっと、手を伸ばす。

 

そして、その細い茎を指先で、優しく、摘み取った。


その瞬間だった。


ふわり、と。

 

摘み取られた花から、純白の、まるで光り輝く、雪の結晶のような粒子が、舞い上がった。

 

その粒子が、私の肌に触れる。

 

すると、体の芯まで、すーっと、浄化されていくような、清らかで、そして、とてつもなく心地よい感覚に、包まれた。


「これが……フィルター効果……!」


間違いない。

 

これこそが、私が探し求めていた、最後の奇跡の素材。


私は驚愕の目で、ポムを見つめた。

 

この子は、この、無数に咲き誇る、同じ花の中から一番魔力を秘めた、特別な、たった一輪を見つけ出したのだ。

 

その規格外すぎる能力に、私は、改めて、戦慄を覚えた。


私は必要な分だけ、その奇跡の白い花を革袋に、大事に、大事にしまい込んだ。

 

これで、材料は全て揃った。


「それにしても、まさかこんな場所で咲いているなんて……。もしかして、未知の『花』かしら?」

 

私が戸惑いながらポムを見ると、ポムは「さあ?」といった顔で、可愛らしく首を傾げるだけ。

 

まあ、難しいことは後で考えればいいか。


「ポム、帰りましょうか」

 

「きゃん!」


 ◇ ◇ ◇


帰り道。

 

私は手に入れた「白い花」を宝物のように、胸に抱きしめていた。

 

安堵と、そして、これから始まる、大仕事への期待感。

 

私の心はその二つで、いっぱいだった。


私たちは急いで、馬車のもとへと戻り、王都へと引き返す。

 

陽はもう、ほとんど沈みかけていた。


王都に到着し、屋敷へ。


屋敷の自室に戻った私は、机の上に今日、命懸けで手に入れた、三つの素材を、並べた。

 

強力な鎮静効果を持つ、「静寂茸」。

 

魔力循環を整える、「月光石の粉末」。

 

そして、奇跡の浄化能力を秘めた幻の、「月光花」。


「……材料は、全て、揃ったわ」


窓の外では、一番星がまたたき始めている。

 

ルートス令息に残された時間は、もう、いくらもないのかもしれない。


私はフラスコを手に取り、いつもの、古びた鍋に、火をかけた。


「失敗は、許されない。私の、初めての、人の命を救うための、錬金術……!」


これから始まる、最高難易度の錬金。

 

そのあまりのプレッシャーに、私の背中を、冷たい汗が一筋伝っていった。

 

私の小さな手の中で、これから一つの命の、そして、この国の運命が決まろうとしていた。

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