第38話 未知なるダンジョンの入口
「はぁ……ミレイユに手綱の扱い方を教わっておいて、本当に良かったわ」
がたごとと揺れる馬車の中で、私は独りごちる。
もちろん運転は自分自身だ。
助手席では、ポムがきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいるけれど、私の心は不安でいっぱいだった。
一体、どこまで行かされるのかしら……。
この前のオークとの遭遇が、まだ脳裏に焼き付いている。
戦える力がついたとはいえ、リスクはできるだけ避けたいのが本音だ。
そんなことを考えていると、私の膝に乗っていたポムが、突然ピンと耳を立てて前方を指し示した。
「きゃん!」
「え、あっち?」
ポムが示すのは、いつもの森の入り口ではなく、もっと奥まった、鬱蒼とした木々が壁のようにそびえ立つ場所だった。
私は戸惑いながらも、ポムを信じて馬車を進ませる。
やがて道が途切れ、馬車ではこれ以上進めなくなった場所で、ポムはひらりと地面に飛び降りた。
「もしかして、ここから歩くの、ポム?」
私が不安げに尋ねた、その時だった。
――ぴくんっ。
ポムの長い耳が、アンテナのように、ぴん、と立った。
そして、今まで見せたことのないような、真剣な顔つきになると、くんくん、と、空中の匂いを、嗅ぎ始める。
「きゃん! きゃんきゃん!」
突然、ポムが、甲高い声で、吠え始めた。
そして、森の奥――今まで、私が一度も、足を踏み入れたことのない、鬱蒼とした茂みの方角を、前足で指し示したのだ。
「……あっちに、あるの?」
ポムは、こくこく、と力強く、頷いた。
その瞳には、一点の迷いもない。
私は、ごくり、と喉を鳴らした。
森の深き奥は、Fランクの冒険者が、立ち入るべきではない、危険地帯だ。
あの、オークのような、強力な魔物が、いつどこから現れても、おかしくない。
怖い。
だけど――。
「……行くしかないわよね」
私は、スカートの裾をぎゅっと、握りしめた。
ルートス令息を、救うためには。
そして、私自身の運命を、切り開くためには。
私は馬車を近くの木にしっかりと固定すると、ポムに向き直った。
「案内して、ポム。あなたを、信じるわ」
「きゅるん!」
私の覚悟を、受け取ってくれたのか、ポムは力強く、一声鳴いた。
そして、頼もしい案内人のように、私の前をとてとてと、駆け出していく。
私は茨の道をかき分け、ぬかるみに足を取られながらも、必死に、その小さな白い背中を、追い続けた。
どれくらい、歩いただろうか。
陽が、木々の隙間から、オレンジ色の光を、投げかけ始めている。
私の体力は、もう限界に近かった。
その時だった。
私の目に飛び込んできたのは、苔むした巨大な石造りの建造物。
蔦に覆われた入り口が、まるで古代の獣が口を開けているかのように、ぽっかりと黒い闇を覗かせている。
「……ダンジョン?」
その不気味な佇まいに、私はおどおどと立ち尽くす。
すると、ポムが私の足元で「早く!」とでも言うように、きゃんきゃんと鳴いた。
「う、嘘でしょ、ポム!? 本当に入るの!?」
「きゃん!」
どうやら、私の覚悟はもう決まってしまったらしい。
確かに、貴重な素材だもの。
そう簡単に見つかるはずないとは思っていたけど、まさかダンジョンの中に眠っているなんて……。
私がためらっていると、ポムは待ちきれないとばかりに、そそくさと闇の中へと消えていく。
「あ、待ってよポム!」
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