第37話 二つの素材と、最後の難題
私が、それを指差すと、店主の顔から笑みが消えた。
その目は、驚愕に見開かれている。
「……馬鹿な。なんで、分かった。それは、今朝方、特別なルートで入荷したばかりの、極上品だぞ……」
「素材の声が、聞こえるんですよ」
私が、師匠の受け売りのようなセリフをにっこり笑って言うと、店主はがっくりと肩を落とした。
そして、約束通り、市場価格の半値で、最高の『静寂茸』を、私に譲ってくれたのだった。
◇ ◇ ◇
次に私が向かったのは、貴族街の近くにある、高級な鉱石や宝石を扱う専門店だった。
きらびやかな店内には、目も眩むような宝石が、ずらりと並んでいる。
ここで買うのは、「月光石の粉末」
月の魔力を宿すと言われる、美しい鉱石を細かく砕いたものだ。
魔力循環を整える効果があり、高位のポーションには、欠かせない素材の一つ。
「いらっしゃいませ、お嬢様。本日は、どのような……」
優雅な物腰の店員が、私に気づき少し驚いた顔で、近づいてくる。
私が求める品を告げると、彼は奥から、ビロードの布に包まれた小さな小瓶を、持ってきた。
「こちらが、最高品質の、月光石の粉末でございます。お値段は、銀貨三枚になりますが……」
「……これを、いただきます」
銀貨、三枚。
私は代金を支払う。
これで二つ目の材料が、手に入った。
問題は、最後の一つ。
幻の「フィルター効果」を持つ、素材。
私は、その足で、王都中の薬草屋を片っ端から、見て回った。
大通りに面した、大きな店から路地裏の個人経営の小さな店まで。
その全てで、私は店に置いてある、ありとあらゆる薬草を、懐のポムに見せて回った。
「ポム、どう? 何か、感じるものはある?」
だけど、ポムの反応はどこでも、同じだった。
くんくん、と匂いを嗅いでは、ぷいっ、と興味なさそうに、そっぽを向いてしまう。
何十軒、見て回っても、結果は同じ。
「……はぁ。やっぱり、お店で売っているような、ありふれたものじゃ、ないのね……」
陽が、空高く昇り正午を知らせる鐘が鳴る頃。
私は、完全に途方に暮れていた。
王都中を探しても、ない。
だとしたら、一体どこにあるというの?
ポムが、私の服の裾をくんくん、と引っ張った。
そして、前足で王都の外――森のある方角を、ちょん、と指し示す。
「そうよね。やっぱり森に行くしかないわよね」
私は、ため息をついた。
正直、危険のため、あまり気は進まなかった。
だけど、もう他に選択肢は残されていない。
そうして、私は王都の馬車停留所で馬車を一台借り、街の門を抜けて森へと向かうのだった。
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