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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

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第35話 ポムが指し示す、奇跡への道

「……だめ。やっぱり、見つからない」


深夜。

 

私は、部屋に山積みになったなけなしの蔵書を前に、頭を抱えていた。

 

治療に必要なのは、三つの効果を併せ持つ、特別な薬。


一つ、暴走する魔力を、強制的に鎮静させる、鎮静効果。

 

これなら、「静寂茸」というキノコを主成分にすれば、作れそうだ。


一つ、乱れた魔力循環を、正常に戻し体そのものを強くする、循環促進効果。

 

希少な「月光石の粉末」を、触媒にすれば、これも、不可能ではない。


だけど、最も重要な、最後の効果。

 

外部からの「魔力ノイズ」を、体内で無害化するための、フィルター効果。

 

これを持つ素材が、どうしても、見つからないのだ。


薬草図鑑にも、錬金術の入門書にも、そんな都合の良い素材は、どこにも載っていなかった。

 

魔力を「浄化する」という概念そのものが、この世界の錬金術では、あまりにも異端で、未発達な分野なのかもしれない。


だから、ダメだったんだ……。


国中の、どんな名医も、どんな錬金術師も。

 

もしかしたら、私と同じ結論に至った人は、いたのかもしれない。

 

だけど、この、最後のあまりにも高すぎる壁を、誰も、越えることが、できなかったんだ。


私は、机に突っ伏した。

 

万策、尽きた。

 

せっかく、原因を突き止めたというのに、これじゃあ、何もできない。

 

結局、私にも無理だったんだ……。


悔しさに、唇を噛み締める。

 

その時だった。


ちょん、ちょん。


私の腕を、何かが、優しく、突いている。

 

顔を上げると、ポムが、心配そうに、私の顔を、覗き込んでいた。


「……ポム」


その、無垢な瞳を見ているうちに、私ははっとして、顔を上げた。


そうよ……私には、ポムがいるじゃない!


常識が、通用しないなら。

 

常識の外にいる、この相棒に頼ればいい。


私は、椅子から飛び降りると、ポムの前に、しゃがみ込んだ。

 

だけど、どうやって、伝えればいい?

 

「魔力ノイズをフィルターするものが欲しい」なんて、言葉で言っても、伝わるはずがない。


見せるしかないわね。


私は右手にわざと、乱れた魔力を、生み出した。

 

オークと戦った時の、荒々しい闘気を思い出し、魔力を暴走させる。

 

黒っぽい、不純な魔力の塊がバチバチと、嫌な音を立てて、渦を巻く。

 

これが、「魔力ノイズ」のイメージ。


ポムが、びくっとして、後ずさる。


「大丈夫よ、ポム。見てて」


私は左手を、その黒い魔力の塊に、そっと、かざした。

 

そして、今度は、錬金術師としての、全ての集中力を使い、その不純な魔力を包み込み、浄化していく。

 

黒い色が、少しずつ、薄れていく。

 

バチバチという音が、消えていく。


やがて、私の左手から、ふわりと、綺麗な光の粒子だけが、舞い上がった。

 

私がポムに見せた、錬金術師としての、技術。


ポムは最初怖がっていたが、やがて、私の左手から生まれた、綺麗な光の粒子に、目をきらきらと、輝かせた。

 

そして、その光の粒子をぺろりと美味しそうに、舐める。


「……どう、ポム? こういうことができる、素材が、欲しいの」


私が、尋ねる。

 

「悪い、黒いものを、綺麗な、きらきらに、変えてくれるもの。分かる?」


私の言葉に、ポムはしばらくの間、じっと、私の目を見つめていた。

 

そして。


「――きゃんっ!」


全てを、理解した、とでも言うかのように。

 

一声高く、そして、力強く、鳴いたのだ。


「ポム、分かるの!? そんな、夢みたいな素材が、どこにあるのか!」


私の問いに、ポムは自信満々に、ふふん、と胸を張る。

 

そして、窓辺まで駆け寄ると、前足で、窓の外――屋敷の裏庭がある、薄暗い森の方角を、ちょん、と、指し示したのだった。


「……あっちに、あるの?」


私の心に、再び熱い光が、灯る。

 

絶望の淵から、最高の相棒が、私を引き上げてくれた。


「よし……!」


私は、立ち上がった。

 

その目には、もう、迷いの色は、どこにもなかった。


「明日、探しに行きましょう、ポム! 二人で、奇跡を見つけに行くのよ!」


私の言葉に、ポムも、力強く、「きゅるん!」と応えてくれた。

 

まだ、夜は明けない。

 

だけど、私の心の中にはもう、確かな朝日が、昇り始めていた。

 

どんな困難が、待ち受けていようとも。

 

この、最高の相棒と一緒なら、きっと乗り越えられる。

 

私はそんな確信に、満ち溢れていた。

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