表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/73

第31話 誰も解けぬ呪い、最後の望み

――緊急公示。

 

伝令兵が張り出した、たった一枚の羊皮紙。

 

それが、先ほどまでの熱狂と喧騒を、まるで嘘だったかのように、一瞬で凍り付かせた。


『――ラスール公爵家ご令息、ルートス様、原因不明の奇病に倒れる――』


しん、と静まり返ったギルドホール。

 

誰もが掲示板に張り出されたその公示を、信じられない、という顔で見つめている。

 

私の懐で、さっきまで得意げに鳴いていたポムも、この重苦しい空気を察したのか、きゅっと体を固くして、静かになってしまった。


 本当、だったんだ。


あの時、本屋で耳にした学園の生徒たちの噂話。

 

まさか、それが、こんなにも早くこんなにも絶望的な形で、現実のものとなるなんて。


やがて、伝令兵が慌ただしくギルドを去っていくと、凍り付いていた空気が少しずつ、人々のざわめきによって溶かされていく。


「おい、マジかよ……」

 

 冒険者たちの声は、いつものような野蛮な響きではなく、困惑と、そして得体のしれないものへの恐怖の色を、濃くにじませていた。


公示には、こうも書かれていた。

 

『――王都内の全ての医師、神官による治療も及ばず、病状は悪化の一途を辿る』


つまり、この国の最高峰の医学も、神の奇跡ですらも、この病の前では全くの無力だった、ということだ。

 

聖女も、神官も、そして、高名な錬金術師や薬師たちも、誰もが匙を投げてしまった。

 

だからこそ、最後の望みを託すように、この、荒くれ者たちが集う冒険者ギルドにまで、助けを求めてきたのだ。

それだけ、事態は、絶望的に切迫している。


「……見ろよ。褒賞の額が、書いてあるぜ……」


誰かが、ゴクリと喉を鳴らして、呟いた。

 

公示の下の方に、小さな文字で記された一文。


『――ご令息を救った者には、ラスール公爵家の家名に懸けて、望むだけの富と名誉を、生涯にわたって保証する――』


「望むだけの、富と名誉……」


その言葉に、ホールにいた何人かの冒険者の目が、ギラリ、と欲望の光を宿した。


「おいおい、まじかよ……。これ、もし成功すりゃ、一生遊んで暮らせるどころの話じゃねぇぞ……!」

 

「貴族にだって、なれるかもしれん……!」


だが、そんな下卑た声は、すぐに別の現実的な声によって、かき消された。


「馬鹿言え。国中の天才たちが束になってダメだったんだぞ。俺たちみたいなもんに、何ができるってんだ」

 

「そうだぜ。下手に手を出して、もしご令息の容態を悪化させでもしたら、一族郎党、首が飛ぶぞ」


富と、破滅。

 

あまりにも巨大な、ハイリスク・ハイリターン。

 

ほとんどの冒険者は、関わるべきではない、と判断したようだった。


「呪いだ……。これは、古代の王族が遺した、解けない呪いに違いねぇ……」

 

「いや、俺は古代の疫病だと思うぜ。大昔に、エルフの国を滅ぼしたっていう……」


誰もが、好き勝手な憶測を口にする。

 

だが、そのどれもが、確信には、ほど遠い。

 

私は、その喧騒を、少し離れた場所からただ、黙って聞いていた。

 

ついさっきまで、私の未来を照らす希望の光だったはずの、このお金。

 

それが、今、なんだか、ひどくちっぽけなものに、思えてならなかった。


私が、その場の空気に押しつぶされそうになっていた、その時だった。


「……なあ、小娘」


すぐそばから、低い声がした。

 

見上げると、ギルドマスターのドルガンさんが、腕を組み難しい顔で、掲示板を睨みつけている。


「……お前の、師匠さんじゃあ、なんとかならねぇもんかねぇ」

もしよければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ