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【書籍化決定】転生処理ミスで貧乏貴族にされたけど、錬金術で無双します!~もふもふとお金を稼いで家を救います~  作者: 空月そらら
第一章

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第30話 奇跡のポーションと、緊急公示

「して、このポーションは、一体、何なのだ? この前の回復薬とは、明らかに、性質が違うようだが……」

 

「はい。師匠が言うには、これは『治癒・魔力活性ポーション』だと」

 

「なにぃ!?」


私が、咄嗟に考えた名前を口にすると、今度は周りの魔術師たちから、驚愕の声が上がった。


「治癒と、魔力活性を、同時にだと……!?」

 

「馬鹿な! 相反する性質の魔力を、一つの液体に、安定して封じ込めるなど、不可能だ!」


ドルガンさんは、そんな周りの雑音を、一喝で黙らせた。


「黙れ、貴様ら! 不可能を可能にするからこその、“規格外れ”よ!……して、小娘。その効果、まことか?」

 

「はい。深い傷を癒すと同時に、失われた魔力も、わずかながら回復させることができる、と」


私の言葉に、ドルガンさんは、ゴクリと、喉を鳴らした。

 

その意味を、誰よりも、彼が一番、理解しているのだろう。

 

戦闘で、傷を負い、魔力が尽きかけた、絶体絶命の状況。

 

そこで、この一本のポーションがあれば、どれほどの冒険者が、命を救われることになるか。


「……素晴らしい。ブラボーだ! 貴様の師匠に、心からの賛辞を!」


ドルガンさんは、再び、高らかに笑った。


「して、値段だが……。この前の回復薬が、銀貨十枚。ならば、銀貨十枚では、安すぎるだろう。……だが」


彼は、一度、言葉を切った。


「まだだ。まだ、儂の鑑定は、終わっておらん」


ドルガンさんは、真剣な顔になると、今度は、小瓶の蓋を開け、その匂いを、くん、と嗅いだ。

 

そして、ほんのわずかな量を、指先につけると、それを、ぺろり、と舐めたのだ。


「ギルドマスター!?」


ミミさんが、悲鳴のような声を上げる。

 

だが、ドルガンさんは、そんな彼女を手で制すると、静かに、目を閉じた。


数秒後。

 

彼の口から、驚嘆のため息が、漏れた。


「……なんと。治癒効果、魔力活性……それだけではない。このポーションには、精神を安定させ、集中力を高める効果まで、付与されておる……!」


その言葉に、今度こそ、ホールは、完全な沈黙に、包まれた。

 

三つの効果を持つ、魔法薬。


「……エリス。これを、後、何本持っておる?」

 

「……四本だけ」


私が、おずおずと答えると、ドルガンさんは、決断したように、頷いた。


「よかろう。その五本、全て、ギルドが買い取ろう。一本につき、銀貨二十枚。合計、銀貨百枚だ!」


「「「ぎ、銀貨百枚ぃぃぃ!!?」」」


もはや、それは、誰の声だったのか。

 

ホールにいた全員の、心の叫びが一つになって、ギルドの天井を揺るがした。

 

私自身も、その金額に、頭がくらりとする。

 

銀貨、百枚。


私が、呆然としていると、待ちきれないとばかりに、冒険者たちがドルガンさんに殺到した。


「ギルドマスター! そのポーション、俺に売ってくれ!」

 

「馬鹿野郎! 俺が先だ! 金なら、いくらでも払う!」

 

「頼む! 次のダンジョン探索で、絶対に必要なんです!」


ホールは、一瞬にしてオークション会場のような、熱気に包まれる。

 

ドルガンさんは、そんな彼らを一喝で黙らせた。


「静まれ、ハイエナども! このポーションは、ギルドの管理品だ! 本当に、これを必要とする者にしか、売らん! ……それから、エリス」


ドルガンさんは、こちらを振り返った。


「貴様の師匠は、やはり、本物だ。心から、尊敬する、と、そう伝えておけ」

 

「は、はい!」


私は、震える手で、ずしりと重い、銀貨の入った袋を受け取った。

 

懐で、ポムが嬉しそうに、そして、少しだけ誇らしげに、「きゅるん!」と鳴く。

 

ミミさんが、信じられない、という顔で私の懐を、じっと見つめている。


「……この子、何?」

 

「私の、最高の相棒です」


私が、胸を張ってそう言うと、ミミさんは、ますます、訳が分からないという顔をした。

 

冒険者たちは、まだ興奮冷めやらぬ様子で、私とドルガンさんが持つポーションについて、口々に、噂話をしている。


そんな、熱狂と、喧騒の、真っ只中。

 

その場の空気を、一瞬で、凍り付かせるように。


ぎぃ、と、ギルドの扉がゆっくりと、開かれた。


入ってきたのは、王城の騎士の紋章が入った、豪奢な鎧に身を包む、一人の伝令兵。

 

その顔は、血の気が引き、ひどく憔悴している。


彼は、ホールの中心まで進み出ると、震える声で、一枚の羊皮紙を掲示板へと張り出した。


そして、ギルド中に響き渡る声で、叫んだ。


「――緊急公示! 緊急公示である!」


そのただならぬ雰囲気に、ホールにいた全員が、息を呑む。


「ラスール公爵家ご令息、ルートス様、原因不明の奇病に倒れ、ご容態、悪化の一途!」


その言葉が、私の心に、冷たい氷の矢のように、突き刺さった。

 

あの時、本屋で耳にした、ただの噂。

 

それが、今、最悪の形で現実のものとなって、私の目の前に、突きつけられたのだ。

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