第29話 新たなる衝撃、師匠の名は轟く
冒険者ギルドは、早朝だというのに、すでに活気に満ちていた。
これから依頼に向かうパーティーが、武器の最終確認をしたり、仲間と作戦を練ったりしている。
その熱気は、以前の私なら、気圧されてしまっただろう。
だけど、オークを倒した今、不思議とその喧騒が、心地よく感じられた。
私は、まっすぐに受付カウンターへと向かう。
カウンターの向こうでは、猫人族のミミさんが、眠そうに大きなあくびをしていた。
「んあ……あら、エリスちゃん。おはよう。今日も早いのね」
「おはようございます、ミミさん」
「今日は、どんな依頼?」
「いえ。今日は、依頼じゃありません。……“師匠”からの、納品です」
私が、そのキーワードを口にした瞬間。
ミミさんの眠そうだった黄色い瞳が、カッ!と、見開かれた。
だらしない姿勢で椅子に座っていた彼女が、シャキン!と、背筋を伸ばす。
「な、納品ですって!? ま、まさか……あの、ポーション……!?」
「はい。これです」
私は、ポーチから、翠色に輝く小瓶を、一本だけ、取り出した。
そして、それを、そっとカウンターの上に、置いてみせる。
その瞬間、カウンターの周りの空気が、変わった。
小瓶から放たれる、尋常ではない、清浄で、そして力強い魔力のオーラ。
それは、もはや隠しようもなく、ギルドホール全体に、波紋のように広がっていった。
「な、なんだ……!?」
「この魔力……この前の、あのポーションか!?」
「色が違うぞ! 前のは赤かったはずだ!」
近くにいた冒険者たちが、次々と、私たちのカウンターへ吸い寄せられるように、集まってくる。
ミミさんは、目の前の小瓶を信じられない、という顔で、ただ呆然と見つめていた。
「う、嘘でしょ……。この前の、あのルビーのポーションですら、奇跡だと思ったのに……。これは、それ以上じゃない……!」
彼女は、わなわなと震える手で、小瓶を掴もうとして、寸前で思いとどまる。
そして、カウンターの奥に向かって、裏返った声で、絶叫した。
「ギルドマスター!! お師匠様の、新作ですーーーっ!!」
その叫び声は、ギルドホール中に、こだました。
もはや、ごまかしようがない。
私と、私の“師匠”は、今日この瞬間からこのギルドで、最も注目される存在になってしまったのだ。
「――儂を呼んだか、ミミ!」
地響きのような足音と共に、ギルドマスターのドルガンさんが、執務室から飛び出してきた。
その手には、まだ読みかけだったであろう、羊皮紙の報告書が握られている。
彼の鋭い眼光は、カウンターの上の、たった一本の小瓶に、釘付けになった。
「……ほう。これは、また……」
ドルガンさんは、冒険者たちを、その威圧感だけで押し黙らせると、カウンターまでやってきた。
そして、先日と同じように、鑑定用のモノクルを目に装着し、小瓶を、慎重に、手に取る。
彼の大きな手が、わずかに、震えているのが見えた。
長い、長い、沈黙。
ホールにいる誰もが、固唾を飲んで、彼の鑑定結果を待っている。
私の懐の中で、ポムが少しだけ、得意そうに「きゅる」と鳴いた。
やがて、ドルガンさんはモノクルを外し、天を仰いで、深々と、息を吐く。
「……はっはっは。はーっはっはっはっは!」
突然、彼は、腹の底から、楽しそうに、笑い始めた。
その豪快な笑い声に、ホールにいた全員が、あっけにとられている。
「面白い! 実に、面白い! まさか、儂が生きているうちに、これほどの“業物”を、二度も目にすることになろうとはな!」
ドルガンさんは、興奮で、顔を真っ赤にしている。
「小娘! 貴様の師匠は、天才だ! いや、天才などという、ありふれた言葉では、到底足りん! 神に愛された、真の“錬金の求道者”よ!」
「は、はあ……」
なんだか、私の師匠がとんでもないことになっている。
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