第28話 翠色の奇跡、ギルドへ
オークとの死闘から、数日が過ぎた。
あの日の出来事は、私の心に、大きな変化をもたらしている。
Dランクの魔物であるオークを、討伐した。
それは、私の魔法が、もはやただの子供の火遊びではない、本物の力であることを、何よりも雄弁に物語っていた。
そして、私の手元にはポムが見つけ出してくれた、奇跡のような最高品質の薬草たちが、山のようにある。
これだけの素材があれば、あの時ギルドを驚かせた回復ポーションを、何本も作ることができるのだ。
「ふふ、ふふふ……」
夜。自室にこもり、机の上に並べられた薬草たちを眺めていると、思わず笑みがこぼれてしまう。
まるで、宝の山を独り占めした、強欲な竜のようだ。
だけど、これは誰かから奪ったものではない。
私とポムが、危険を乗り越えて手に入れた、正当な戦利品なのだ。
その日から、私の夜は、錬金術一色に染まった。
夜は、部屋にこもって、ポーションの量産に励む。
オークとの戦闘で、ほとんど空になってしまった魔力も、数日休めばすっかり回復した。
それどころか、一度魔力を使い果たしたおかげか、体内の魔力の器そのものがほんの少しだけ、大きくなったような気がする。
錬金のプロセスは、もうすっかり体に染み付いていた。
魔法陣を展開し、材料を調合し、魔力を注ぎ込む。
ポムは、私の最高の相棒として、常に私の傍らにいてくれた。
彼が選んでくれた素材を使えば、失敗することなど、ありえない。
それどころか、作るたびにポーションの品質は、どんどん向上していった。
最初に作ったポーションが、ただの「宝石」だとしたら。
今、私が作っているものはもはや王冠を飾る「至宝」とでも言うべき、神々しいまでの輝きを放っている。
そして、オークを倒したあの日から、五日が過ぎた朝。
私の机の上には、五本の小さな小瓶が、ずらりと並んでいた。
そのどれもが、息を呑むほどに美しい、翠色の液体で満たされている。
今回は、少しだけレシピを変えてみたのよね。
前回は、治癒効果を重視したルビーレッドのポーションだった。
だけど、今回は治癒効果に加えて、魔力の回復を助ける効果も、ほんの少しだけ、付与してみたのだ。
オークとの戦いで、魔力切れ寸前になった、あの経験から得た教訓。
冒険者にとって、魔力は命そのものなのだから。
「よし、これでいいかな」
五本の、翠色の奇跡。
私は、その小瓶を、一つ一つ丁寧に布で包むと、冒険者用のポーチに、大事にしまい込んだ。
今日こそ、これをギルドに持って行き、私の未来を、切り開くのだ。
私が、そっと部屋を出ようとすると、足元でポムが「きゅん!」と、寂しそうな声を上げた。
その黒い瞳が、「私も連れて行って」と、雄弁に物語っている。
「もう、ポム。ギルドはあなたが行くような場所じゃないのよ? 荒くれ者の、おじさんたちばっかりなんだから」
私がそう言って、頭を撫でてやると、ポムは、ぷいっ、とそっぽを向いてしまった。
そして、私の足にしがみついて、離れようとしない。
どうやら、本気で拗ねてしまったらしい。
「……はぁ。分かったわよ。一緒に行きましょう」
「きゅるん!」
私の言葉に、ポムはぱあっと表情を明るくし、嬉しそうに一声鳴いた。
本当に、現金な子なんだから。
私は苦笑しながら、ポムをフードの懐にそっとしまい込むと、今度こそ、誰にも見つからないように、早朝の屋敷を、静かに抜け出すのだった。
もしよければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




