第26話 森に潜む脅威、現れたオーク
突然、近くの藪が、激しい音を立てて揺れた。
今まで聞こえていた、鳥のさえずりが、ぴたり、と止む。
風が、止まった。
代わりに、鼻をつくような、獣の腐臭が、森の空気に混じり始める。
「……!?」
ポムが、びくりと体を震わせ、警戒するように、唸り声を上げた。
そして、一目散に、私の足元へと駆け寄り、その背後に隠れる。
これは、ただ事じゃない。
私は、ゆっくりと立ち上がると、護身用のナイフを抜き、音のした方へと、視線を向けた。
バリバリ、と木々のへし折れる音。
そして、茂みをなぎ倒すようにして、姿を現したのは――。
「……オーク!」
緑色の、醜い肌。
豚のように突き出た鼻。
濁った小さな瞳には、飢えた獣の光が宿り、涎を垂らした口からは、黄ばんだ牙が、二本、突き出ている。
その身長は、大人の男性の倍はあろうか。
筋骨隆々の腕には、武器として、人間が使うにはあまりにも巨大な、錆びついた棍棒が握られていた。
Dランクの魔物、オーク。
スライムのような、最弱モンスターではない。
屈強な冒険者パーティーですら、時に死傷者を出す、非常に危険な魔物だ。
「グルルルル……」
オークは、私とポムを見ると、その濁った瞳に、あからさまな食欲を浮かべた。
ゆっくりと、しかし、確かな足取りで、こちらへと近づいてくる。
怖い。
心臓が、早鐘のように鳴り響く。
足が、震えて、地面に根を張ってしまったかのように、動かない。
だけど――。
私の背後で、ポムが、恐怖に震えながらも、「きゅぅ……」と、か細い声で、私を呼んでいる。
私が、守らなきゃ。
この、小さくて、温かい、最高の相棒を。
ここで逃げたら、間違いなく、ポムが先に、あの棍棒の餌食になるだろう。
私は、奥歯を、ぎり、と噛み締めた。
恐怖を、怒りで、塗りつぶす。
そして、ナイフを捨て、両の手のひらを、前へと突き出した。
錬金術の、精密な魔力操作。
来る日も来る日も、失敗を繰り返しながら、私は、自分の魔力を糸のように細く、自在に操る訓練を、無意識のうちに続けてきた。
そのおかげで、私の魔法のコントロール精度は、この数週間で飛躍的に向上していたのだ。
「錬金術は、最高の魔法訓練でもあったんだ……!」
私に使えるのは、まだ初級魔法だけ。
だけど、今の私なら、ただの初級魔法ではない、高度な魔法を放つことができるはずだ。
「グルアァァァッ!!」
オークが、雄叫びを上げて、突進してくる。
地面が、揺れる。
巨体が振り上げた棍棒が、風を切り、私めがけて、振り下ろされた。
その瞬間、私は、地面を蹴った。
「風よ、我が足に疾き翼を! 初級魔法!」
【作者からのお願いです】
・面白い!
・続きが読みたい!
・更新応援してる!
と、少しでも思ってくださった方は、
【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!】
皆様の応援が原動力になります!
何卒よろしくお願いします!




