ただの男は聖剣祭を満喫する②
06
今ではその意味合いが薄くなってきているとはいえ、本来聖剣の儀は次代の勇者を選別する神聖な儀式である。つい先ほどまで祭りに沸いていた人々が詰め寄る中央区は、厳かな雰囲気に支配されている。
誰もが神妙な面持ちでプレンハウン教会の門が開く瞬間を固唾を吞んで待っていた。
僕は他の勇者候補者と庭園にある大きな噴水を囲むように並んでいる。
勇者候補者は僕を含めて全部で十名。七名が男性で三名が女性だった。皆緊張しているのか、落ち着きなく体を揺らしていたりあちらこちらに視線を動かしていた。
そして、僕たちに背を向ける格好でルカス教の幹部と思われる人たちが噴水からプレンハウン教会へ続く石畳の通路に横並びで三列に並んでいる。
「なあ、緊張するな」
隣の男が我慢しきれなくなったのか、僕に耳打ちしてきた。
「そうだな。こんなに人の注目を浴びるのは初めてだから落ち着かない」
これだけの聴衆の前でこれから行われることを考えれば、その反応も仕方がない。僕も似たようなものだった。
自分がここにいることが場違いのような気がして、今更ながら帰りたくなってきた。
──ゴーン……ゴーン。
離れたところにある鐘楼に吊るされた鐘が鳴る。同時に閉じられていた教会の門が開き、なかから二列に並んだ女性たちが現れる。
女性たちは皆純白の法衣に身を包んでおり、頭にヴェールをつけているため顔は見えない。先頭を行く二人の女性が紙吹雪を撒きながら歩き、後に続く女性たちは手にした花を一輪ずつ地面に落としていく。
その光景だけでも僕には異質に映るが、列が近づくにつれて更に目を引くものがあった。それは女性たちに守られるように囲まれている一人の女性だった。
背中まである深緑の髪を一つに編み込み、頭には白のカチューシャをつけている。体の線がわかる白のワンピースドレスに九つの白薔薇があしらわれたショールを羽織っていて、丈の長いグローブをつけた手を胸のした辺りで組んでいる
喉元と右眼球には薔薇をうえから見たような模様が浮かびあがっている。
一目でわかった。あの列の中心にいる人物こそ聖女なのだ。
「聖女ノヴァ・エメラルド様」
列の先頭の女性が聖女の名を告げる。すると、幹部を始め、中央区にいる全ての人が跪く。僕も慌てて周りに倣う。
聖女を守る列が噴水の前までくると二手にわかれた。女性たちの列のなかから聖女がしずしずと歩み出て、そのまま衣服が濡れるのも構わず噴水のなかに入り透き通った声で高らかに宣言する。
「聖女ノヴァ・エメラルドの名において聖剣の儀を執り行う」
聖女が両手を天に掲げる。すると噴水の水が止るのと同時に台座がせりあがり始め、岩に刺さった剣が姿を現した。
一目見てわかった。あれこそが聖剣なのだ。
聖剣は一般的なロングソードと呼ばれるものよりも刀身が少し長く、薔薇を横から見たときのような形をした鍔の根元から伸びる深紅に染まった剣身には文字のようなものが彫られているが、僕の位置からでは読みとることはできない。
隣にいた男性が息を呑むのが聞こえた。横目で様子を伺うと目を輝かせながら恍惚とした表情で聖剣を見つめている。
勇者候補としてここにいるものであれば、憧れの聖剣を間近にすればこうなってしまうのも無理はない。目立たないように他の候補者を見ると全員も似たような反応を見せていた。かくいう僕も、聖剣から放たれる威圧感というか神聖な雰囲気に飲まれつつある。
「勇者ルカス・ヴィンセントが遺した聖剣フェフリンピオーダス。これを手にし、次代の救世主となる勇者を我は求めん。勇者候補よ。勇を示し、真の心を聖剣に移して儀に望がよい」
聖女の言葉が終わると聖剣から眩い光が空に向かって放たれる。それに光に呼応して、プレンハウン教会が七色の光りを放ち空に虹をかけた。
その光景にどこからともなく感嘆の溜息が聞こえてきた。
「さあ、勇者候補よ、私の隣に」
聖女の視線が僕らに向けられる。
これからが本番だ。聖剣を手にし、勇者の力を受け継ぐのは一体誰なのだろうか。
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