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09話 Two Month Later......

 ドゴッ! シュッ! ボンッ!!

 広大な草原に、二つの影が交錯していた。


「───さあ、3ヶ月間の力を見せてやるよ」


 3ヶ月間特訓してきた力がどこまで通用するのか。相手はホブゴブリン。

 棍棒を軽々と振り回す巨体。攻撃の重さはあるが、動き自体は単調だ。

 ただ──当たったら終わり。油断すれば即ゲームオーバー。


(クソッ、リーチ差がエグいな……!)


 弓を構える距離も取れず、近距離では小剣じゃリーチ負け。

 魔法も、相性がいい属性がない。

 要するに、今の俺は“どの手札も決め手にかける”という最悪の盤面だ。


 棍棒が横薙ぎに迫る。

 だけど、直前に身体をひねって紙一重で躱す。

 空振りしたホブゴブリンの腕へ、すかさずナイフを突き立てる。


「スパーク!!」


 切り口を伝って雷が走り、焦げた煙が立ち上る。

 焦げた肉の匂いと同時に、ホブゴブリンが吠えた。


「ガアアッ!!」


 ……あ、まだ元気そうだな。

 普通の人間なら気絶してるんだけど。


 ナイフを抜いて、距離を取る。追撃に備えた瞬間──

 奴は痛みを無視して突進してきた。


 いや、むしろスピード上がってね!?


(マジかよ!? 痛覚どうなってんだお前!)


 仕方ない。ならこっちも一か八かだ。

 逃げながら背中の弓を取り、後ろを向きざまに撃つ。


「喰らえ、この一撃!!」


 矢が走る。狙うは眉間。


「サンダーショット!!」


 雷が矢を高速で追い、直撃。

 電撃が全身を駆け巡り、ホブゴブリンの体が少し震える。


「……倒した、か?」


 一拍置いて、膝から崩れ落ちたホブゴブリンを見て確信する。


「よし、倒した……ふう」


 額の汗をタオルで拭う。

 その背後から、声が飛んできた。


「やるじゃん。一人でホブゴブリン狩れるとは思わなかったよ」


 振り返ると、如月が腕を組んで立っていた。

 いつもの余裕顔で、軽く笑っている。


「ちょっと外すね。トイレ行ってくるから三分で戻るわ」

「おっけー。解体しとくから」


 俺は少しだけ胸を張った。

 もう、こんなに戦えるようになったんだ。

 ……だけどまだ如月との差は大きいな。

 こんな戦い繰り広げた相手がホブゴブリンなんてな......


 早く追いつかねぇと。



 ──そのとき、低い唸り声が響いた。


 ……一つじゃない。

 この声はまさか......


 振り返ると、木陰から現れたのは──因縁の宿敵ホーンウルフ。それも───五体。


「いやいやいや、待て待て待て!? どういうこと!?」


 おそらく血の匂いに釣られたんだろう。

 だが、そんなこと考えてる暇はない。


 如月はトイレ中。

  俺は一人。

  持ち時間、三分。


「……ふぅ」


 よし。やるしかない。

  あの時のやり直しだ。

  今度こそ俺が、全部倒す。


 頬を叩いて気合いを入れた───その瞬間、激痛。

 見ると、角。 レバー(物理)に直撃。


「いってぇ……!? しかも速ぇ!!」


 一撃目をモロに食らい、後ろに吹っ飛ぶ。

  痛みをこらえながら、魔力に集中する。

  だが、もう容赦はしない。


「サンダーボルト!!」


 雷鳴が落ち、地面が光に包まれる。

 俺を突いたホーンウルフは感電して転げ回った。


「っしゃあ!! ざまぁみろ!!」


(……いや、別にムカついたわけじゃないぞ。戦略的判断だ。※嘘です。)


 ともかく、距離は取れた。だが――


「……え?」


 その向こうから、さらに十体。

  増援だ。


(はぁぁぁ!?!?!? 十四体!?!?!?仕方ねぇ、計画変更だ!)


 目標:現状維持。如月が来るまで耐える!


 二刀を抜き、息を整える。

  今できる限りの全力で、地獄の三分を迎え撃つ。


「サンダーボルト! スパーク! ナイフ! ……あっ矢外した!!」


 刺す、外す、撃つ、外す。 結果なんとか削れてはいる。


 突進してくるホーンウルフを紙一重で避け、脚を斬る。

  動きを止め、距離を取る。その繰り返し。

 だが、もう体力が限界だ。

  視界がぶれる。呼吸が浅くなる。


「……はあ……はあ……」


 足元がふらつき、意識が遠のく。

  残り、十一匹。

 倒れる瞬間、聞こえた。


「宮田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 如月の、叫ぶような声が――。












 ──目を覚ますと、天井。


 右のほうで聞き覚えのある声が響いていた。


「というのが、三日前の出来事だ。その間お前はずーっと寝てた」

「……まじか……」

「運ぶの、めっちゃ大変だったんだぞ。俺が……」

「寝るわ……」

「おいコラ! ……まあ、いっか」


 如月の足音が遠ざかっていく。

 目を閉じながら、ぼんやりと思い出す。


 ──如月と会ってからもう2ヶ月も経つのか。つまり今は6月。


 この二ヶ月、思ったほど強くはなっていない。

 魔力量を無理やり引き出す謎の訓練(通称・体罰)は限界がきたし、弓はようやく「当たるかも?」くらいのレベル。


 ナイフと魔法だけで、なんとか生きてきた。

 如月の鞭とも全然タイミングが合わず、ほとんど如月が狩ってたし。


 ──そりゃそうだ。()だぞ? 重要なので二度言う。()だ。

 あんなクセ強武器、どう合わせろってんだ。


「お前、Eランクに上がったら、また組もうか」


 絶望的に合わず、もはやソロでやった方がマシとかいう酷い現状に、この原因の向こうからそう言われて、俺はソロでEランクを目指している。

 今はまだ、F+。


 けど、魔法だけは成長した。

 雷・水・風、それぞれ第三階梯までは扱えるようになってきた。

 あとは、身体が理想に追いつけば──。




◆◆◆◆◆


 ──数日後、退院の日。


「宮田、元気になった?」

 如月が笑顔で現れる。


「まあ、そこそこ」

「じゃ、お前が寝てる間に“良いニュース”と“良いニュース”、それと“お前にとって重要なニュース”が二つある。どれ聞く?」

「……良いニュースで」

「了解。Dランクに上がったよ、俺」


 話す内容のお前の裁量広すぎだろ。

 でもすごい。たぶん。たぶんすごい。


「じゃ、次は?」

「俺に重要なニュース一つ教えて」

「あー、まず一つ目」


 如月がにやっと笑う。


「お前、E-ランクになったよ」

「え、マジで!?」


 超重要ニュースすぎる。てかなんで俺がそれ知らんねん?


「入院前に狩ったホーンウルフ五体分を受付に出したら、ランク上がったってさ」

「おお……じゃあ、あの地獄の時間は無駄じゃなかったのか」


 よかった。増援は無理だったけど、少なくとも五体は倒せた。最初の目標は図らずも達成されたのか。


「で、残りの良いニュースは?」

「明日休校。インフル流行ってるからだって」

「しょーもないし、興味ない」

「それ重要だろ。明日は座学だったんだぞ?」

「価値はないに等しいだろ」


 ため息をつく俺に、如月が肩をすくめた。高校窓際勉強勢の俺にとって、冒大の座学なんて自由時間に近しい。俺が無双してるからな、強いていうなら悲しい、かな。イキってるって思うだろ?その通りだ。



「……で、最後の一つは?」


 これでしょうもなかったら一旦殴る。

 そう思っていると、如月が建物の角に向かって手を振った。


「こっち来てー」

「え、誰?」


 足音が近づいてきて、現れたのは槍を背負った青年。


「新メンバーの速水昴だよ。よろしく!」


 人懐っこい笑み、手慣れた動作、そして明るい目。

 一瞬でわかった──このタイプ、絶対トラブルメーカーだ。


 でもまあ……悪くない。


 俺は握手を交わし返す。


「宮田誠だよ。よろしく!」


 新たな仲間が現れた。

 ───新たなステージが、幕を開ける。

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