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【一般】現代恋愛短編集

幼馴染と一緒におみくじを引いたら告白しろと書いてあったので勇気を出したけれど、彼女のおみくじにはちょっと待てと書いてあったらしくて告白させてくれない

作者: マノイ

 俺、松本まつもと 浩太郎こうたろうは幼馴染の清水しみず 紗希さきのことが好きだ。

 そして紗季もまた恐らく俺の事が好きなはずだ。


 毎日一緒に登下校し、夜は遅くまでスマホでメッセージをやりとりする。

 お昼の弁当を作ってくれて、あ~んもしてくれる。

 休日は二人っきりで遊び、時にはお互いの部屋に遊びに行くことすらある。


「あけましておめでとう、こうちゃん」

「おめでとう。振袖似合ってて可愛いよ」

「えへへ、ありがとう」


 今日だって二人で神社に初詣に行く。


 友達やクラスメイト、そしてお互いの家族からも早く結婚しろと揶揄からかわれるくらいには、誰が見ても俺達の関係は恋人なんだろう。


 だが実際はまだ幼馴染のまま。

 デートっぽいことは何度もやっているのに、キスすらしていない。


 ただの幼馴染から恋人へと変わりたい。

 お互いにそう思っているのに一歩を踏み出せない。

 そんな物語でよくある関係が俺達の現状だ。


 なんで告白しないのかって?

 だって『幼馴染としか見れないよ』なんて言われたらショックで立ち直れないじゃん。

 ほぼ間違いなく両想いだと思うけれど、『ほぼ』なんだよ『ほぼ』。

 百パーセントじゃないわけ、分かる?

 断られる可能性が微レ存だったとしても、存在することに変わりは無いんだ。

 世間はそんな俺の事をチキンと呼ぶ。

 うっせ、分かってるわ。


 もう告白なんてしなくても流れで自然に恋人に変わるんじゃないかって?

 バッカ、お前。

 ちゃんと付き合って早くエロいことしたいじゃん。

 こちとら健全な男子高校生なんですけど。

 毎日紗季を脳内でひんむいて頂いちゃってるんですけど。

 紗季の胸やスカートが気になって息子が暴走しないように必死なんですけど。

 最低だなんて思うなよな。

 自分のことを好いてくれる美少女がいつもそばにいるのに手すら握れないんだぞ!

 うちに遊びに来て俺のベッドの上で下着チラ見せしながらゴロゴロしてるんだぞ!

 悶々とするに決まってるじゃねーか!

 むしろ今までよく耐えたと褒めて欲しいくらいだ。


 とまぁそんなこんなで紗季と付き合いたいけれどもチキンハートゆえに踏み出せない日々を悶々と過ごしていた。


 だが今年の俺は一味違うぜ。


 高校一年生の一月いちがつ

 今年こそは紗季と恋人になり、花の高校二年生でイチャイチャしまくると決意したんだ!


 毎年決意している気がするけれど今年こそは絶対に告白するんだ。

 絶対だぞ。

 本当だからな。


「こうちゃん、真面目な顔してどうしたの?」

「いや、その、おみくじで大吉が出る様にって気合入れてたんだ」

「あはは、気合入れたからって変わるものじゃないでしょ。変なこうちゃん」


 紗季への告白について考えていたなんて言えるわけもなく誤魔化したが強引だっただろうか。

 気にしてないようで朗らかに笑っているから大丈夫か。


 はぁ……それにしても振袖の紗季が可愛い。


 めっちゃ可愛い。

 超可愛い。

 抱き締めたい。

 そして願わくば帯を俺の手で外して……


 ほらぁ、拗らせすぎてこんな妄想ばかりするようになっちゃったんだよ。

 早く告白してなんとかしないと。


 これから引くおみくじがそのきっかけになってくれると良いが。


「ここのおみくじって良く当たるって評判だもんね」

「らしいな」


 特に恋愛運に関しての的中率が高く、周囲にはカップルさんがとても多い。


「えへへ、楽しみだねこうちゃん」

「だな」


 人気のおみくじということで長蛇の列が出来ていたが、ようやく俺達の順番が回って来た。


 恋愛運恋愛運恋愛運恋愛運……


 祈りをこめておみくじ箱を強く振り、みくじ棒を取り出して巫女さんに手渡した。

 

 巫女服も良いなぁ。

 紗季着てくれないかな。

 脱がす手順を調べておかないと。


 ダメだダメだ。

 神聖な神社でそんな邪なことを考えていたらバチが当たってしまう。

 もう手遅れとか言うなよな。


「こちらになります」


 巫女さんからおみくじの結果が書かれた紙を受け取った。


 頼む!


 結果は『吉』。


 あれ、『吉』ってどのくらい良いんだったっけか。

 まぁ今回はそれは良いか。

 問題は恋愛運だ。


 どこだ、どこに書いてある。


 ……

 …………

 ……………………


 恋愛運

 今が吉。想いを告げよ。


 いよっしゃああああああああああ!

 いける、これはいけるぞ!

 神様のお墨付きを貰った俺に怖い物は無い!


 さっそく今日にでも告白しよう。

 恋人になったら何をしようかな。

 今まで我慢してたアレとかアレとか……


 おいこら息子よ、準備運動するのはちと早いぞ。

 お前がたつと俺が立てなくなるからちょっと落ち着こうか。


 そういえば俺は最高の結果だったけれど、紗季はどうだったのだろうか。

 なんか眉間に皺を寄せて小難しい顔をしているな。

 あまり良くない結果だったのだろうか。


「俺は吉だったけど紗季はどうだった?」

「え?私?」


 なんでそこで驚くんだよ。

 一緒におみくじ引いたんだから普通は聞くだろ。


「私も吉だよ。一緒だね」

「おお、俺達やっぱり相性が良いんだな」

「そ、そだね~」


 なんか反応が不自然だぞ。

 やっぱり悪い事でも書いてあったのかな。


 だがここは押す。

 せっかくのきっかけを逃してなるものか。


「思えば紗季とも長い付き合いだな」

「いきなり何言ってるのよ」

「こうやって今も一緒にいるってことはおみくじ通りに相性が良いんだろうなって思ったんだよ」


 意味深なことを言ってみた。

 紗季ならば俺がこれから何を言いたいのか察してくれるはず。


『なぁ、紗季。幼馴染から恋人になろうぜ』


 これを告げればエロエロタイムが待ってるぜ!


「なぁ、紗季。幼馴染からこいび」

「私おみくじ結んでくるね!」

「え、ちょっ」


 告白してる途中だったんですけど!

 おーい紗季ちゃーん。

 行っちゃった……


 何故だ。

 まさか回りくどすぎて意図が通じなかったというのか。


 あぶねぇ。

 俺達の仲なら何でも通じると思い込んでいた。

 確か仲がかなり良くてもこういう些細なことがきっかけで亀裂が生じることがあるんだよな。

 今のうちに気付けて良かったわぁ。


 まぁ話の流れで自然に告白に繋げられるチャンスなどこれからいくらでもあるだろう。

 だって今までもそうだったもん。

 毎日のように告白しようとして諦めてたからな。


 はっはっはっ……虚しい。


 そしてやはりチャンスはすぐにやってきた。


「はぁ~楽しかったね」

「おう」


 それは神社からの帰り道のことだった。


「改めて今年もよろしくお願いします。こうちゃん」


 ここだ。

 ここで『今年は紗季と恋人として過ごしたい』って言うんだ。


「ああ、よろしくな。それで、だ」

「!」


 一旦間を空けて、真面目な空気を作った。

 紗季は顔が真っ赤になっているから、何の話をしようとしているのかを察してくれているはずだ。


「今年は紗季と」

「あ~!私用事があるんだった。ごめんねこうちゃん、私先に帰るね」

「え、ちょっ」


 マジで!?

 話を完全にぶった切って帰っちゃった。


 なんで。

 まさか俺から告白されたくない?

 やっぱり俺とは恋人じゃなくて幼馴染の関係が良いとか?


 そんなの嫌だああああ!


「はぁっ、はぁっ、こうちゃん!」

「え?」


 ショックを受けて肩を落としていたら紗季が慌てて戻って来た。


「別に私、こうちゃんが嫌ってわけじゃないからね!」


 そしてそれだけを告げてまた走り去った。


 どういうこと?


 俺と付き合うのが嫌じゃないってこと?

 それとも俺は嫌じゃないけど恋人関係は嫌ってこと?


 誰か教えて!

 幼馴染の気持ちが分からないよ!


――――――――


 正月が明けて三学期最初の登校日。

 いつもは紗季が俺の家に迎えに来てくれるのだけれど今日は来なかった。


 それどころか初詣に行ったあの日以来、連絡しても一切返事が無かった。  

 何かあったのか心配だったけれど紗季は普通に登校していた。


「紗季、置いてくなんて酷いよ」

「ごめんねこうちゃん。一番に教室に行ってみたくなったの」

「小学生かよ!」


 絶対嘘だ。

 やっぱり俺と一緒に登校したくないってことだよな。 

 何故だ。

 俺が嫌じゃないって言ってたのに、何故俺から距離を取ろうとするんだ。


 距離を取ると言えば、アレも確認しないと。


「なぁ紗季、送ったメッセージが未読のままなんだけどスマホに何かあったのか?」

「え、ええと、最近スマホ中毒な気がしてデジタルデトックスしようかなって」

「なんだよそれ。そもそも紗季ってあまりスマホ使ってないじゃん」


 紗季はゲームもやらないし、ネットも見てないし、学校で大半の女子がスマホ弄っている時に友達と会話をしている。

 そんな紗季がスマホ中毒なんて言ったら世の中の大半が中毒だわ。


 それにいくらなんでも俺が告白しようと決意したタイミングでメッセージをガン無視するか?


「こうちゃんの見てないところでスマホばかり見てるんだよ」

「ふ~ん、それじゃ何に使ってるのか教えてくれよ」

「それは…………」

「やっぱり見てないんじゃないのか?」

「違うもん、こうちゃんに言えないだけだもん!」

「言えないってなんでだよ」

「こうちゃんのえっち!」

「な……ば、ばか。分かった。俺が悪かった。この話は止めにしよう、な」


 俺がどうとかじゃなくて、紗季がエロいサイト見てるなんてクラスメイトに勘違いされるじゃねーか。

 無理矢理嘘つかせて紗季を困らせるのはアカン。


 俺はエロいサイトをガンガン見てるけどな。

 もちろん幼馴染モノオンリーだぜ。


「何アンタ達ケンカしてるの? ラブラブ夫婦でもそんなことあるんだ」


 俺と紗季が言い合っていたら紗季の友人の倉田くらたさんが弄りに来やがった。


「ケンカしてねーし。まだ夫婦じゃねーし」


 いずれ夫婦になるのは俺の中で決定事項だけどな。


「そうだよ。私はこうちゃん一筋だもん」

「ぐっ……」

「はいはい、相変わらずってことね」


 ほら、分かっただろ。

 紗季は素でこういうこと言うんだ。

 どう考えても俺の事が好きとしか思えないだろ。


 チキンハートな俺じゃ無ければとっくに告白してただろうな。

 だが今の俺はおみくじブーストがかかっているから告白する気満々だぜ。

 なのになんで俺をけるんだ、紗季いいいい!


 冷静になってまとめよう。


 紗季は俺と距離を取ろうとしている。

 でも俺の事が嫌じゃない。

 もっと言えば俺の事が好きなままのように思える。


 ……うん、意味が分からない。

 分からないが、おみくじが告白しろと示しているのだから強引にでも告白してやる。


「こうちゃんお弁当食べよ」

「今日も作ってくれたんだ」

「もちろんだよ」


 弁当を食べるのは避けないのか。

 くっくっくっ、ならばこれはチャンスだ。


「うん、紗季の弁当は今日のも美味しいな」

「えへへ、ありがと」


 くー、可愛い。

 弁当なんかじゃなくて紗季を食べちゃいたい。


 そのためにあの定番台詞で告白してやるぜ。


『紗季が作る味噌汁を毎日飲みたいな』


 告白というよりプロポーズだが俺達の関係なら何も問題無いだろう。


 よし、行くぞ。


「紗季が作る味噌汁を毎日」

「こうちゃん、ご飯食べてるときにお話しするのはお行儀悪いよ」

「毎日話してたじゃん!」

「だーめ」


 賑やかな食卓の方が好きなタイプの癖に。

 この封じ文句があったから遠慮なく弁当を食べに来たのか。


「…………」

「…………」


 話が出来なくて寂しそうにするくらいなら言うなよな!

 仕方ないなぁ。


 ほら、なでなで。


「!!」


 スキンシップはダメだと言われてないからな。

 恋人同士ならもっと際どい所を触れ合えるのに、チクショウ。


「ごちそうさまでした。それじゃね」

「あ、おい、紗季!」


 くそぅ、ご飯を食べたら逃げられてしまった。

 いつもは昼休みが終わるまでずっと駄弁ってるのに。


 それなら帰り道に仕掛けてやる。


「ごめんねこうちゃん。私今日用事があるから先に帰るね」

「あ、おい、紗季!」


 くー逃げられた!


 しかも次の日もそのまた次の日も紗季は俺と一緒に登下校してくれない。


「…………」


 もう、寂しそうな顔するなら一緒に登校しようぜ!


 こうなったら考え方を変えるしかないか。

 逃げられない状況で仕掛けてやる。


 例えば授業中ならどうだ。

 紙を回してもらって……いや、それは読まずに捨てられそうだ。

 それならいっそのこと堂々と宣言してやろうか。

 先生に怒られてクラスメイトに囃し立てられるだろうが、紗季と付き合うためならやってやる。


 丁度タイミング良く今日の英語の授業で『I love you, Nancy』の部分を朗読させられるはずだ。

 ここのナンシーの部分を紗季に変えてやる。


「それじゃあ次のところを……」


 来た。

 先生、俺を指してくれ俺を指してくれ俺を指してくれ俺を指してくれ俺を指してくれ。


「(なんか松本君がめっちゃ睨んでるわね。そんなに読みたいのかしら)松本君」


 よっしゃああああああああ!

 必死に目で訴えかけたのが功を奏したのか、先生が俺を指してくれた。

 これで作戦を決行できる。


 俺は立ち上がり、英文を読み始める。

 そしてついにその場所に辿り着いた。


「…………」

「松本君?」


 あっぶねぇ。

 ここにきてチキンハートが蘇ってしまって躊躇しちまった。

 先生に怪訝な顔で見られてしまい、このまま止まっていたら次の人に回されてしまうかもしれない。


 覚悟を決めろ、俺。


 チラリと紗季を見たら目が合った。


「I Love You,紗」

「先生、私体調悪いので保健室に行ってきます」


 おいいいい!

 しまった、さっき目が合った時に俺の作戦がバレてしまったのか。

 バレたにしても授業さぼってまで回避するか!?


 作戦失敗。


 しかし授業中がダメだとなると、他にどんな手段が……


「松本、何気を抜いてんだ!」

「すいません!」


 悩んでいたら体育で手を抜いてしまい怒られてしまった。


「まったく、授業終わったらお前がアレらを倉庫に片付けてこい」

「は~い」


 罰として授業で使った三角コーンなどの道具を体育倉庫に片付けるよう言われてしまった。

 はぁ、めんどい。


 しかしこれは予想外のチャンスだった。


「あれ、紗季?」

「こうちゃん?」


 なんと紗季もまた俺と同じように道具を片付けに来ていたのだ。

 薄暗い体育倉庫に二人っきり。

 出口は俺が塞いでいるから紗季は逃げられない。


 こんな大チャンスが来るなんて!


「紗季……」

「こ、こうちゃん。外に出たいからそこどいて欲しいな」


 どくわけが無い。


 体操服姿の紗季は柔らかな布で覆われた柔らかな部分や健康的な太ももが目に毒だ。

 更にはチラりと見えるお腹の肌色が俺の息子を刺激する。


 体育マットが目に入り俺の『恋の予習』が脳裏をよぎる。

 襲いたくなる気持ちをどうにかして抑え込む。


 そういうのは恋人になってから存分にやれば良い。

 紗季ならば俺が望めば間違いなく体操服プレイをやってくれるからだ。


 そのためにここで決める!


「紗季、俺は紗季の事が」

「きゃああああああああああ!」

「!?」


 今度は悲鳴だって。

 ヤバイ、この状況で悲鳴をあげられたら……


「おい、大丈夫か!?」

「何があった!」

「松本と清水。まさか松本てめぇ!」


 やっぱり俺が紗季を襲っているように見えるよな!

 これって退学もある流れだぞ。

 もちろん紗季がそうはさせなかったが。


「違うんです、ネズミがいてびっくりしちゃったの」

「なんだ。そういうことか」

「まぁお前らだったら悲鳴なんてあげねーよな」

「騒がせやがって」 


 集まって来た人達はすぐに解散した。

 俺の評判も悪くはならず、そして紗季は自然に体育倉庫を脱出した。


 まさかこんな方法で逃げるとは。




 結局どれだけ策を弄しても、紗季は絶対に告白させてくれなかった。


「はぁ……どうしてだよ」


 今日もまた一人肩を落としてトボトボと登校する。

 紗季が隣に居ないだけで、こんなにも人生が灰色に感じるだなんて。


 改めて俺にとって紗季は無くてはならない存在なのだと実感したよ。

 そして居ないからこそ紗季の事をこれまで以上に強く想う様になった。

 このままだと家のティッシュの減りが早すぎて親に怒られそうだ。


 せめてなんで俺から距離を取ろうとしているのかの理由が知りたいよ。


「って馬鹿か俺は!」


 そうだよ、最初にそれを聞けば良かっただけの話じゃねーか。

 告白はさせてくれないけれど、そっちなら教えてくれるかもしれないだろ。

 そしてその問題を解決してから告白すれば良いんだ。


 なんということだ。

 こんな単純なことに一か月も気付かなかったなんて。


「なぁ紗季、話があるんだ」

「!?」


 俺は登校するや否や紗季に話しかけた。

 紗季は真面目な話をしようとしたことを察してすぐに逃げようとする。


「今回は違う話だから安心してくれ!」

「…………」


 良かった、逃げるのを止めてくれた。

 やっぱり告白以外の話ならば聞いてくれそうな雰囲気だ。


「だから放課後一緒に帰ろうぜ」

「…………うん」


 だが俺が不意打ちで告白する疑いがまだあるのだろう。

 紗季は迷っていたけれど、どうにか頷いてくれた。


 そしてその日の放課後。


「…………」

「…………」


 俺達は無言で肩を並べて歩いていた。

 いつものように楽しく会話をしながらではなかったけれど、紗季が隣にいるだけでとても幸せな気分に感じられた。

 きっと紗季もそうなのだろう。

 今の顔を見れば誰だってそう思うさ。


 ここで告白したら面白いかな。


「!?」


 ちょっとしたいたずら心が脳裏に浮かんだだけなのに、紗季は反応しやがった。

 幼馴染とはいえ察しすぎでは。


「(紗季、大好きだ!)」

「!?」


 脳内で叫んでみたら、今度は慌てて後方に飛び退った。

 なんかおもろい。


「どうしたんだ?」

「こうちゃんのいじわる」


 素知らぬ顔で聞いてみたがダメらしい。

 ご不満そうな顔だ。


 でも何もしてないのにここで謝るのも変だよな。

 よし、スルーだ。


「何のことか良く分からないな。それよりもさ、紗季に聞きたいことがあるんだよ」

「…………うん」


 紗季はまた俺の隣に並び、俺達は歩きながら話をする。


「最近どうして俺の事をけてるんだ?」

「それは……」

「言いにくいことなのか?」

「そんなようなそうでも無いような……」

「なんじゃそりゃ」


 紗季は説明するかどうか迷っているようだ。

 こんなときは黙って待つのが男ってもんだろう。


 はぁ~紗季可愛い。

 はぁ~紗季可愛い。

 はぁ~紗季可愛い。

 はぁ~紗季脱がしたい。

 はぁ~紗季とえっちなことしたい。


 なんだよ、黙ってる間に何考えても良いだろ。

 脳内で何を考えても表に出さなきゃ犯罪じゃないからな。


「こうちゃんのえっち」

「なんで!?」


 まさか脳内を読み取られたのか。

 そんな馬鹿な。

 いつもはどれだけエロいこと考えても無反応だったのに。


 いや、気付いていてスルーしてたのか。

 なんて、まさかね。

 ははは……


「もう、しょうがないなぁ」


 そんな呆れた風に言わなくても良いだろ。

 俺はまだ何もしていないのだから。


「私もそろそろ我慢の限界」

「ん、何か言ったか?」

「ううん、なんでもない」


 かなり小声だったから聞き取れなかった。

 とても大事なことを言っていたのだと俺の直感が囁くのだが、聞こえなかったのだからしょうがないじゃないか。


「分かったよ。何があったか教えるね」

「おお」


 やったぞ。

 これでようやく俺達の関係を先に進めるかもしれない。


「初詣に行った時におみくじ引いたの覚えてる?」

「もちろんだ」


 おみくじパワーで告白する勇気が出て今も必死に頑張ってるのだから。


「その時の恋愛運が悪かったんだ」

「そうなのか」


 だからあの時、少し様子が変だったんだ。


「なんて書いてあったのか聞いて良いか」

「うん。『今は危険。時を待て』だって」


 なんだって!


 だから紗季は俺からの告白から逃げてたのか。

 神様酷いよ!

 俺には攻めろと書いて紗季には逃げろと書くなんて。

 あんまりだ!


「ごめんね。不安にさせたよね」

「ああ」

「前にも言ったけど嫌じゃないの。でも……」

「おみくじが心配なのか」

「うん」


 みんな分かるか。

 もうこれ、おみくじの件が無ければ告白受けますって言ってるようなものだよな。


 これで俺達付き合ってないんだぜ。

 馬鹿みたいだろ。


 そしてやっぱりこれでもまだ俺達は幼馴染のまま。

 俺達が次のステップに進むには告白という儀式が絶対に必要なんだ。


「ならさ、もう一度引きに行こうぜ」

「え?」

「だってもう一か月も経ってるんだぜ。『今は危険』なんだろ。だったら効果切れてそうじゃん」

「確かに!」


 今度こそ頼むぜ神様。

 紗季に前向きな結果を示してくれよ。


 俺達はそのまま神社に向かい、念のためお参りしてからおみくじを引いた。


「おねがい神様!」


 祈るようにおみくじを引く紗季。

 俺も強く神様に祈った。


「はい、こうちゃん」

「俺も?」

「もちろんだよ。こうちゃんのおみくじ効果だって切れてるかもしれないでしょ」

「確かに」


 俺としてはおみくじの内容はそのままで良いのだけれど、効果が無いかもと言われたら途端に告白する勇気が無くなって来た気がする。


 神様今回もお願いします!


 巫女さんプレイがしたいです!


「巫女服ってどこで買えますか?」

「え?」

「なんでもないです」


 危ない。

 妄想が漏れて思わず巫女さんに変なこと言ってしまった。


 奇妙なものを見る目つきになった巫女さんからおみくじの結果を受け取った。


『吉』


 またかよ。

 まぁそこは良いや。

 肝心の恋愛運は……と。


 ……

 …………

 ……………………


 なるほど、そうきたか。


「やった!」


 紗季の喜ぶ声が聞こえた。

 どうやらおみくじの呪縛から解放されたようだ。


「その様子じゃ良かったようだな」

「うん、『この人となら幸福あり』だって!」

「そうか!」


 まったく神様め、最初からこうしてくれれば良かったのに。


「あの、それでね、こうちゃん」


 神社の御神木の下で、紗季は顔を真っ赤にして俺に告げる。

 心配事が無くなった途端に行動するということは、この一か月の間一緒に居られなかったのが相当堪えていたのかもしれない。


「折角こうちゃんが勇気を出してくれたのに待たせちゃってごめんね」


 これまでずっと悶々としてきたんだ、少しくらい延びたからってどうってことないさ。

 紗季が気にすることではない。


「だから、その、お願いします!」


 もう逃げない。

 俺の告白を受け止める覚悟があると紗季は宣言した。


 紗季、好きだ。


 今だけはエロいことは考えない。


 俺は胸に宿る純粋な想いを強く意識して告げた。




「俺おみくじ結んでくるわ!」

「ええええええええ!」




 だって俺のおみくじの恋愛運に『今は危険。時を待て』って書いてあったんだもん。


 神様めええええ!


「こうちゃん待ってよ!」

「俺は何も言わないぞおおおお!」

「どうしてこうなっちゃうのよ!」


 それは俺の方が言いたいわ!

神様「だってお前ら付き合ったらすぐに子供が出来て苦労するぞ」


よろしければ評価を入れて頂けると嬉しいです。

(久しぶりに催促してみた)


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― 新着の感想 ―
[一言] おみくじを気にしてると一生つき合えなさそうだな。
[良い点] めっちゃテンポが良くて、二人の仲が良いんだなーとわかる描写の数々。 [一言] 今度は彼女が「もう一度おみくじを引きにいこうよ」とでも誘うのでしょうか?w
[良い点] 神様「だってお前ら付き合ったらすぐに子供が出来て苦労するぞ」 これは全知全能。
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