05 精霊と一緒に登校します!
執事や古株の侍女たちが戻り、ウェインフリート伯爵家もすっかり落ち着きました。
私と魔法師団長ウィリアムさまとの婚約もお兄さまにご報告し、無事に認めていただきました。
「自分より年上で、エリート街道まっしぐらの義弟っていうのが、ちょっと複雑ですけどね」
「アレンハルト兄上とお呼びしようか?」
ウィリアムさまが真面目なお顔で仰るので、私はこっそり笑ってしまいました。
あら? お兄さまったらお顔を引きつらせていらっしゃるわ。きっと冗談なのに!
日常を取り戻した私は、今日から学校、王立貴族予備学校へ参ります。
10歳から14歳までの貴族の子女が通い、自分の適性を知るために幅広く勉強する場所です。家庭教師から基礎を学び、学校で集団行動を含めた知識を学び、家に戻って家庭教師に応用的知識を求める……と言った感じでしょうか。
私は基礎魔法で精いっぱいですが!
15歳からは、王立学園に進学します。あと一年もありません。
アッシュに精霊魔法を教えてもらえるので、しっかり勉強しないと!
アッシュを連れて、学校へ行きます。通学手段は、転移魔法陣です。
自分のクラスに行くとすぐ、クラスメイトの女の子たちに囲まれてしました。手乗りサイズとは言え、翡翠色の精霊は目立つようです!
「もしかして、精霊さま!?」
「すごいわ! さわってもいいかしら?」
「どうやって召喚したの!?」
「あのね、お友だちになりたいって願ったら、来てくれたのよ」
そう答えると、女の子たちはきょとんとした顔を見せました。
あら? 精霊と友だちになりたいって、おかしなことなのかしら?
アッシュがくるりとみなさんのまわりを飛んでから言いました。
「アッシュって呼んでくれ! オレがカッコイイからって、惚れるんじゃねーぞ?」
「きゃー!」
女の子たちが黄色い声を上げます。アッシュは注目されてうれしそうですが、私はちょっぴり耳が痛くなりました。
女の子たちの輪の外から、獣人族の女の子がこちらをチラチラと見ています。
彼女は、サニア・ナナイモ男爵令嬢。狐の耳とフサフサのしっぽを持った、学校でただ一人の獣人です。
私が彼女のほうへ一歩進むと、サニアさまはしっぽを揺らしながら逃げてしまいました。
私が肩を落としていると、エドモントン侯爵令嬢ジュリアさまが話しかけてきました。
「わたくし、ナナイモ男爵令嬢に悪いことをしてしまったわ」
額を出して、髪を丁寧に巻いているのがトレードマークです。いつも自信にあふれた立ち振る舞いですが、私と同じように落ち込んでいらっしゃる……?
「何かありましたか?」
「サニアさまって、なんにでも精霊が宿ってるって仰るでしょう?」
「ええ。よくお祈りしているのを見かけるわ」
「あんまり頻繁に祈るものだから、つい言ってしまったの。『精霊なんておとぎ話だし、あなたのご先祖さまもおとぎ話よ』って」
「あら……」
「言った後で、私自身がご先祖さまのことを気にしているんだって後悔しましたの」
「後悔?」
「私の家は200年前の国難の時、将軍職だったのに何もできなかったから。エミリアーナさまも勇者のお血筋だから懺悔したくなったのかしら。急にごめんなさいね」
「いいえ。お気になさらないで」
「エミリー、見てくれ。かっこいいポーズだ。シャキーン!」
「まぁ、アッシュったら!」
いつの間にか女の子たちは解散していました。
アッシュのかわいいポーズを見ても、ジュリアさまは元気をなくされたままです。
これは重症です!
「でもね、ジュリアさま。私たちと、200年前の人たちとは関係ないと思うの。血が繋がってると言うだけ。誰がなんと言っても、ご自分がどう思うかは自由よ」
落ち込むのも自由だけれど、できれば笑顔でいてほしい。そんな気持ちをこめて、伝えます。
「エミリアーナさま……」
「まぁ、あれだな。200年前に生きてたオレから言わせてもらえば」
もったいぶったアッシュが、ちらりと私の顔を見ます。
「マックス・ウェインフリートは、金持ちやエリートが大嫌いだった」
「えっ!」
ううう、確かに、元々のウェインフリート家は貧乏な子爵家で、だからご先祖さまは冒険者になったのだと聞いています。今でも裕福とは言えませんが……。
「そんでエドモントン将軍は、息子が公衆の面前でリリィアンナに求婚して振られたもんだから、ムカついていた」
「まぁ!」
「エミリアーナさま、リリィアンナって?」
「リリィアンナ・ホワイトロック。のちのウェインフリート夫人よ。私のご先祖さまなの」
「ああ、女勇者さまね!」
ジュリアさまと私は、アッシュの昔話に興味津々です。
「二人は反発しあってよく喧嘩してたけど、別に憎んでるとか敵対するってほどじゃあ、なかったぜ? リリィアンナがよく仲裁してたしな。どちらにせよ、ドラゴン相手に騎士は何もできなかった。勇者パーティも、ドラゴンを眠らせることで精一杯だったけど」
「そうだったのね」
私が手を差し出すと、アッシュがそっと着地します。それから私たちを見て言いました。
「オレは、子孫のお前らが仲良くしてるほうがいいぜ。むさ苦しい男たちのケンカは、見飽きたからな!」
「ふふふ、そうなのね!」
「エミリアーナさま。私のこと、ジュリアって呼んでくださいますか? 私もアッシュさまのように、エミリーって呼んでもいいかしら?」
「ええ、もちろんですわ、ジュリア!」
「エミリー!」
私たちの声がついつい弾んでいます。
サニアさまとも、きっと仲良くなれるわよね?