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04.5 俺の主君は、ウィリアム・カルディマンド魔法師団長

 

 魔法師団の師団長執務室には、二人の男がいた。

 俺と、部屋のあるじウィリアム・カルディマンド侯爵令息。ここでは魔法師団長だ。

 

「フフッ」

「ご婚約おめでとうございます、若様」

「フフフッ、フハハハハッ、フハハーハッハッハッツ!」

 

 ウィリアムは気がすむまで高笑いすると、黙って控える俺に向き直った。

 いや、俺も最初見た時はドン引きしたけどな? もう慣れたっつーか、ストレスためてたんだなぁと思うっつーか。

 

「若様はよせ」

「はい、師団長閣下」

 

 俺はマジメくさった顔で答える。

 俺は、ウィリアムの遠縁の者だ。貴族予備学校と王立学園では共に汗を流し、勉学に励んだ。つーか、王太子と一緒に悪さをするウィリアムを時に傍観し、時に巻き込まれ、たま〜に諌めたもんだ。

 

 今ではウィリアムの家の従士兼直属の部下だ。秘書官のような立場で支えている。公私混同? 貴族のたしなみだろ?

 

「あちらの家には年下の義理の兄だけ! 邪魔な叔父と従兄は自滅した!」

 

「まったく、変質者みたいにしょっちゅうウェインフリート伯爵領をチェックしてましたよね。商人に密偵まがいのことまでさせて。部下に言い訳するの、大変だったんですよ?」

「異常がないか、確認していただけだ」

 

 それでケルベロスの魔力を感知し、事件があったことが分かったんだけどな。

 マクシミリアン・ウェインフリート前伯爵夫妻の事故死に不審を持って調べていたとは言え、精霊の加護がなければ事件は解決しなかった。魔法師団長と言えど、理由もなく他人の領地に踏み込むことはできない。戦争になっちまう。

 

「結局、精霊に助けられたが。くそっ、あのちびすけ、いやアッシュさまには頭が上がらなくなってしまった!」

「あなたがそんな殊勝な性格とは思えませんが……」

 

 だが俺の言葉も、ウィリアムの張りのある声にかき消された。

 

「だが婚約! それも陛下に認められたもの! 勝った! 勝ったぞ、クソジジイ!」

「ウェインフリート前伯爵は、大事な恩師でしょうに」

 

「フン。見識を広めてくれたことには感謝しているが、あの人のことはクソジジイで充分だ」

「はいはい。王太子殿下と一緒によく怒られてましたもんねぇ。途中から怒られたいから悪さしてたの、ウェインフリート先生に見抜かれてましたよ?」

「フン! 若気の至りだ」

「そういうの、最近の子はツンデレって呼ぶそうですねぇ」

「なに? 最近の子はそんな言葉を使うのか。ツンデレとはどういう意味だ? 用例を書き出しておけ」

「えっ!? めんどくさっ! いやでも、エミリアーナ嬢はご存知でしょうかね。少し人見知りの気があると報告書にありましたが」

「……そうかも知れない。いつも礼儀正しい。所作が優雅だ。存在自体がかわいらしい」

 

 上司ののろけを、俺は聞き流した。ここで反応するとさらに話が長くなり、対応も面倒くさくなる。こいつはエミリアーナが四歳の頃から惚れている。もう末期だ。

 ウェインフリート先生、子煩悩のあなたが学校にエミリアーナ嬢を連れてきたせいですよ……。

 

 今日、ウィリアムは10年ぶりにエミリアーナと対面したが、成長した姿を知らないわけがない。俺も秘書官としてあの場にいたが、上司の大根芝居に笑いをこらえるのが大変だった。

 

「若者言葉って、オジサンが使うと痛々しいですからねぇ」

「うるさい。私はまだオジサンではない」

「14歳からしたら、23歳は充分オジサンだと思いますが?」

「頼りになる、おとなの男、だっ」

  

「はいはい、私が言いすぎました。そんなふうにお顔に力が入っていたら、せっかくの美形が台無しですよ?」

「……エミリアーナ嬢は美形だと思っただろうか? アッシュをやたらと愛でているのが気にかかる」

「さあ? 表情を変えませんからねぇ。怖いと思われているやもしれませんねぇ」

「くそっ!」

「今日のところは早く宿舎に戻って、ゆっくりお休みになっては? 疲れがお顔に出ていますし」

「それはいけない。だが、興奮して眠れそうにないな。精霊のお茶の分析もしなくては」


「閣下、婚約破棄された時も、眠れないって言ってましたねぇ。まぁでも、お元気になられて、よかったよかった」

「クソジジイの弟、許すまじ……! クソジジイまで害したそうではないか!」

「そうですねぇ。事故死に見せかけてご夫婦を……。恐ろしいことです」

「しっかり背景を洗い出しておけ。王太子妃殿下に毒を盛った者と繋がっている可能性もある」

「かしこまりました。念入りに」

 

 俺はさっと一礼して、上司から解放かれた。さーて、尋問尋問!

 

 

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