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03 魔法師団からの取り調べです!

 

「異様な魔力を検知した」


 そう言って現れたのは、魔法師団の方々です。

 かっちりとした制服に身を包み、お一人だけ青いマントを付けています。お兄さまより年上ですが、この中では比較的お若い方ですね。

 

「なんの魔力だ、ウェインフリート伯爵。分かっていると思うが、我々は魔法師団だ。そして私は魔法師団長。くれぐれも、隠し立てするな」

 

 言葉は厳しいですが、悲しんでいるような響きがあります。まるでお兄さまを案じてくださっているような……。気のせいでしょうか?

 

「はっ! 恐れながら、そこにいる我が叔父が、ケルベロスを召喚いたしました」

「ケルベロスだと!? どこにいる!」

 

 魔法師団のみなさまの緊張感がさらに増加します。

 

「ケルベロスは、精霊アッシュさまの言葉により、いずこかへ」

「精霊!? 一体どういうことだ!」

 

 魔法師団長さまは額に手を当てました。頭が痛いようです。精霊もケルベロスも、伝承の中の存在ですものね。

 

「はいはーい、オレが精霊でエミリーの友だちのアッシュさまだ! 敬え!」

 

 私と一緒に後ろで控えていたアッシュが、偉そうに言いながら前へ出ます。

 ですが小さな体と薄い翅で飛ぶ様子は、かわいいだけですね。私は口元に手を当てて、笑いを堪えました。

 

「エミリー? エミリアーナ嬢か?」


 意外なことに、魔法師団長さまは私のことをご存知でした!

 私が前に出てお兄さまの隣に並ぶと、アッシュが肩に止まってくれます。肩乗り精霊なんて、かわいいわ!

 

「そうっ! オレの友だちだ!」

「ご紹介に預かりました。私がエミリアーナ・ウェインフリートでございます。魔法師団長閣下」

「あ、ああ……。大きくなられた」

「え?」

 

 その時、外から声がします。

 

「アレーン! エミリー! 無事なのー!?」

 

 この声は、お兄さまが先ほど婚約解消した、ルーシーお姉さまことルシアレッタ嬢です!

 もしかしてケルベロスの魔力や咆哮は、周辺のみなさまにご迷惑をおかけしたのかしら……。

 

「ルーシー!」

 

 お兄さまが窓に駆け寄ります! ああ、本当にお元気になられた!

 ルーシーお姉さまの驚きと喜びの声を背中で聞きつつ、私はメイドに彼女を案内するよう指示しました。

 

「まったく、今は取り調べ中なんだが」

「あら、そういえば!」


 魔法師団長さまの苦情に、私とお兄さまはひたすら謝るのでした。

  

 

    ◆

 

「まぁ、これが本物の精霊さま!」

「ううむ。これが精霊のお茶……持って帰って分析したい」


 ルーシーお姉さまがはしゃいだ声を上げ、魔法師団長さまが唸ります。


 今、ルーシーお姉さまと魔法師団長さまに、事の顛末をご説明したところです。

 そうそう、魔法師団長さまは、カルディマンド侯爵家令息ウィリアムさまだそうです。


 私とお兄さまは、アッシュが魔法で出してくれたお茶で、説明でカラカラに乾いた口を潤します。

 叔父が毒をどう仕込んでいたのかはっきりしないため、私からアッシュにお願いしたのです。  

 今、魔法師団の方々が、魔道具で伯爵家城内を確認してくださっています。

 魔法師団の方は、現場であるお兄さまの寝室を検め、私たちの説明が正しいかどうかも確認してくださいました。

 ついでに血の跡もきれいにしてくださいました。私が清掃の魔法を使うより早くて、さすがです。

 

 今、テーブルについているのは私とお兄さま、ルーシーお姉さま、そして魔法師団長さまの四人です。アッシュはテーブルの上に座ったり、空中を飛び回ったりしています。

 魔法師団の方はお二人だけ残り、部屋の端で直立不動しています。

 

 アッシュを召喚した詳細については秘密です。私はお話したかったのですが、お兄さまとアッシュに止められてしまいました。


「I'm cool guy, don't fall in love with me!(アイムグーガイ、ドンフォーリンラヴウィズミー!) オレがかっこいいからって、惚れるんじゃねーぞ!」

「まぁ、かわいらしいわ!」

「ちぇっ、エミリーの姉さんには敵わないな」

 

「お姉さん……」

 

 ルーシーがちらりとアレンお兄さまを見ました。

 その瞬間、お兄さまが立ち上がり、ルーシーお姉さまの前で跪きます。

 

「ルシアレッタ嬢、私は精霊さまと妹のお陰で、死の淵から蘇りました。どうかもう一度、私と共に生きることを約束してくださいませんか?」


 真剣な表情で求婚するお兄さま。私はドキドキしながら息を殺します。

 アッシュがヒューヒューなんて茶化すから、そっと掴んでひざの上に乗せます。

 その間に、師団長さまはアッシュが用意したお茶をそっと収納の魔道具に入れました。

 

 ルーシーお姉さまが、きりりとした目でお兄さまを見つめます。

 

「新しい約束なんて、しないわ!」

「えっ!」

「だって私はずっと約束してるもの! 私の婚約者は、私の伴侶は、アレンハルト・ウェインフリートさま、あなた一人よ!」

「こりゃ、参った……」

 

 お兄さまのお顔は、ちっとも参った顔ではありません。でれでれしています。

 見つめ合う二人に、魔法師団長さまがゴホンと咳払いしました。


「では、エミリアーナ嬢。あなたが精霊さまを召喚し、兄君の症状を特定し、回復させたのですね?」

「はい。アッシュのおかげです」

「では私と共に、王城へ来ていただきたい」

「王城、ですか?」

 

 まさか連行される、ということでしょうか!?

 相手は魔法師団長の一番偉い方です。尋問、解剖という言葉が頭を過ぎります、


「ええ。助けてほしい方が王城におられるのです」

 

 

      ◆

   

 伯爵家の転移の魔法陣を使って、王城へやってきました。もちろんアッシュも一緒です。

 ペガサスに乗れるのかと思っただけに少し残念ですが、転移陣を使ったほうが移動時間が短縮されるのです。使用するためには双方の同意が必要なのですが。

 

 大きな門をくぐり、広い廊下を延々と歩くと、そこは王太子殿下の居住区画です。王太子殿下の紋章を付けた近衛騎士のみなさまが、あちこちで警護なさっています。

 王城の奥まったところだと言うだけでなく、物々しい雰囲気があります。

 

「ウィリアム! 来たか!」

「王太子殿下、こちらが精霊の愛し子であるエミリアーナ・ウェインフリート伯爵令嬢です」

 

 広い応接室で待っておられたのは、このルパートランド王国の王太子デイビッド殿下です。

 王太子殿下はウィリアムさまと親しいご様子ですが、ウィリアムさまは魔法師団長としての態度を崩しません。

 私は緊張しながら、でも優雅に見えるようにスカートを持ち上げ、深々と一礼します。

 

「ご紹介に預かりました、エミリアーナ・ウェインフリートでございます。そしてこちらが精霊の」

「アッシュだ! よろしくな!」

「アッシュ!」

 

 あわててアッシュを捕まえます。もう! あれほど失礼なことはしちゃダメって言ったのに!

 

「精霊アッシュさま、そして精霊の愛し子よ、どうか我が妻、クリスティアーヌを助けてほしい……」

 

 

 王太子妃の寝室には、私とアッシュだけが案内されました。高貴な女性のお部屋ですもの、当然ですね。知り合いが一人いなくなり、とっても心細いですけれど!

 だって侍女の方々はピリピリしているし、薬草の香りはお兄さまのお部屋を思い出させるし、ああ、失敗したらどうしましょう!

 

 ですが、寝台に横たわる青白い顔の王太子妃殿下を見た途端、そんな弱気は吹き飛びました。

 そのご様子は、まるで少し前までのお兄さまのよう!

 

「アッシュ! 私、この方をお助けしたいわ!」

「いいぜ! その気持ちのまま唱えろ! Please help her!(プリィズ・ヘルプッ・ハァ!)」

「プリィズ・ヘルプッ・ハー!」

 

 白い光が、クリスティアーヌ妃殿下を包みます。でも、何だか弱い光です。息苦しさはマシになったようですが、回復したとは言えません。

 

「おーっと、さすがに三回目となると見逃してくれないか」

「アッシュ、どういうこと?」

「あのな、精霊魔法は意思と音が大事なんだ」

「気持ちと発音ってこと?」

「そうだ。今までは精霊たちがエミリーの強い意思に従ってくれてたけど、さすがに三回目だからな。いい加減、正しい音で唱えろってこった」

「正しい、音?」


「『ヘルプ』の『プッ』は良くなったけど、今、『ル』をはっきり言っただろ?」

「ええ。だってていねいに言わなきゃって思って」

「うん、いい子だ。けど「help」の「ル」は口をすぼめちゃダメだ。上の歯に軽く舌先を当てるだけでいい」

「わかったわ!」


「で、もう一つ。『her』はもっとうなるように言う。まるでケルベロスみたいにな!」

「……アッシュ、今はものまねしてる時じゃないのよ?」

「ちがうって! 真面目な話だ!」

 

 私は疑いのまなざしでアッシュを見つめます。

 王太子殿下は、クリスティアーヌ妃殿下の手を握って、お声をかけています。

 

「いいか? 『her』の『r』の音は舌先をノドの奥にやるんだ。だけどそれだけじゃ足りない。低くうなる音。それが『r』の音だ」

「……わかったわ」


「プリィズ・ヘルプッ・ハァ!」

『Please help her!』

 

 ケルベロスの咆哮を思い出しながら、そしてお兄さまのようにこの方も元気になるようにと気持ちをこめて唱えます。

 今までにないまぶしい光がクリスティアーヌさまを包みます。

 

「クリスティアーヌ!?」

 

 王太子殿下も驚いていますが、まぶしくて目を開けていられません!

 

「クリスティアーヌ? ああ、ああ!」

 

 私が目を開けると、寝台から体を起こした妃殿下を、王太子殿下が抱きしめています。

 私はアッシュと目が合うと、にっこりと笑いました。そして、侍女の方の案内で、そっとお部屋から失礼するのでした。


 

 



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