11 私の価値を下げたいって仰いましたか!?
●前回分のラスト数行を加筆修正しています。
翌日の放課後、ウィリアムさまがお越しになりました。
腹心のローランド・オーウェンさまの他に、かなり大柄で筋肉質の魔法師団員さんも一緒です。2メートル以上ありそうです!
でもまずは、ウィリアムさまへのお礼です。
「ウィリアムさま、ウッドとシャルを寄越してくださってありがとうございます」
「ウッド? シャル? もしかしてあいつらの名前か?」
「はい。このチワワとこちらの護衛メイドのことです」
シャルがウッドを抱え上げて、控えめにお辞儀をしました。
それを見て、ウィリアムさまはぎこちなく頷きます。あら?
「ああ、なるほど。気に入ってもらえて良かった」
「はい!」
そうでした、ケルベロスの名前は、こちらに来てから名付けたのだから、ウィリアムさまがご存知のはずありません。
私がちょっぴり反省していると、例の大きな魔法師団員さんがぼそりと言いました。
「では俺は、キャンとでも名乗るかな」
「なんだその名前は……」
ウィリアムさまがご自身のこめかみを指で押さえ、呆れています。
名前がないということ。そしてシャルと同じ黒髪に琥珀の瞳、よく焼けた小麦色肌であることから、彼もケルベルスの一部なのでしょう。
「ではシュッドで。家名は……マイトクッド?」
「might-couldか! 無茶苦茶だな!」
「勝手にしろ」
アッシュが笑い、ウィリアムさまは突き放すような言い方をなさいましたが、シュッドは気にしていない様子です。穏やかな感じで、あんなに狂暴なケルベルスだとは思えません。
そばで腹心のローランドさまがため息をつきました。
いつも明るい方ですが、なんだかとってもお疲れのようです。ナナイモ領でのセイレーン退治の疲れが、まだ残っているのでしょうか?
「さて、エミリー」
「はい」
ウィリアムさまがきりりとした表情で私を見つめます。端正なお顔と真面目な表情が、かっこいいです!
「昨日、国王陛下にセイレーン討伐の報告をして、お褒めの言葉をいただいた。今後もエミリーは魔法師団の元で国のために力を尽くしてほしいとの仰せだ。無理をさせるつもりはないが」
「まぁ! ありがとうございます、ウィリアムさま」
国王陛下からのお言葉より、ウィリアムさまの気遣いにうれしくなります。
アッシュはテーブルの上に寝転がり、頬杖をついてウィリアムさまを見ています。今日はなんだか、機嫌が悪そうね。
「それで、次の仕事だが」
「はい!」
「そう気負わなくていい」
「はい……」
私が恥ずかしくなって俯くと、ウィリアムさまがテーブル越しに腕を伸ばし、ポンと肩を叩いて励ましてくださいました。
「やる気があってうれしく思う。だが、君を危険に晒したくはない。今後は魔法師団内で、精霊魔法の使い手を増やしたい」
「適性のあるヤツを探したいってことか?」
「そうだ。エミリー、アッシュ。協力してもらえるだろうか? 精霊魔法使いが増えれば、魔法師団員の質も上がり、魔獣討伐も楽になるだろう」
「けど、エミリーの価値が下がるんじゃねーか? せっかく魔法師になりたいって思ってんのに」
きゃー! アッシュったら何を言うの!? 魔法師団に入ることは、まだ誰にも言っていませんのに!
「むしろ私は、エミリーの価値を下げたい」
「えっ!」
思わず声が出るほど驚いてしまいました。ウィリアムさまがあわてて弁解します。
「いや、もちろん悪い意味ではない。今のままでは目立ちすぎるんだ」
「なるほどな。狙われる可能性があるのか……」
アッシュが深くうなづいて言いました。まるで物語の探偵のように思慮深い雰囲気です。
「その通りだ。アッシュやケル……シャルたちが守っていても、人間は狡猾だ」
「わかった、適性のある者を探そう。いいよな、エミリー?」
「ええ……でも」
「「ん?」」
ウィリアムさまとアッシュが私を見つめまます。うううっ、なんだか恥ずかしいわ。
「あの、アッシュがいなくなったりしないの? 契約して、他の人のところに行っちゃったり……」
「しねーよ! するもんか! そいつらは別の精霊や妖精と契約するからな」
「よかったわ!」
「んじゃあ、この種をやるよ」
アッシュはどこからが小さな布袋を取り出しました。
受け取ったウィリアムさまが中を確認すると、黒っぽい種がぎっしり入っています。
「一人一粒渡して、これを育てさせてくれ。一週間くらいで適正がわかる」
「一人一粒なのか?」
「……アンタも育てたいなら、やってみたらいい。好きなだけ試してみろよ」
「ああ、そうしよう!」
うれしげな声でウィリアムさまが答えます。
「土に埋めて、芽が出るまで土を乾かさないように水を遣る。基本はそれだけだ」
「基本は? 応用があるのか!?」
「フフン、それは自分で試してみなって」
「わかった!」
ウィリアムさまの目がキラキラして、少し子どもっぽい印象になりました。未来の旦那さまは、研究がお好きのようですね。
「あと、エミリーにも渡しとくぜ。精霊と仲良くなりたいと思ってるヤツに渡してやりな」
「ありがとう、アッシュ!」
学校のお友達のサニアさまやジュリアさま。
お兄さまやルーシーお義姉さまにも渡したいわ! 私もワクワクしてきました!
区切りが悪かったので短くなりました。
次は明日土曜日か日曜日の21時に更新します。目指せ土曜日!