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10 かわいい護衛がやってきました!?

 

「これがナナイモ領の工芸品かぁ! ユニークだね」

「神秘的なおもむきだわ」

 

 ここはウェインフリート伯爵家の、湖のほとりにあるお城の一室。

 アレンお兄さまとその婚約者のルーシーが、私のお土産をにこにこしながら受け取ってくれました。

 ナナイモ領のお土産は、木彫りのトーテムポールです。もちろん本物はとっても大きいのですが、この複製品は棚に飾るのに丁度いい大きさです。

 

「本物はもっともっと大きくて、それぞれのお家の前に建っているの。一番上に一番古いご先祖様がいて、その下にその子どもたちが続くんですって」

「そうなのね。ナナイモには獣人が多いとは聞いていたけれど、ご先祖を大切にしているのね」

「そうなの! サニアさまも勇者だったご先祖さまをとても大切になさっていたわ!」

 

 私の言葉に、お兄さまが大きく頷いてくださいます。ご先祖さまが勇者だったのは、我がウェインフリート伯爵家も同じです。

 

 そんなふうに久しぶりの家族団欒をしていたのですが、ふとアッシュを見ると思案気な顔をしています。さっきまで私と一緒にナナイモ領での活躍を話していたのに、一体どうしたのかしら。

 

「アッシュ? 何かあったの?」

 

 私が問いかけると、アッシュが私の肩に乗りました。翡翠色の体はとても軽くて、でも温かいのです。

 

「いやー、この間のケルベロスがさ」

 

 ケルベロス。三つ首の大きくて黒い魔獣です。

 叔父が召喚して、私とお兄さまはあやうく襲われるところでした。精霊魔法とアッシュの制止がなければ、今頃は魂と肉体が離れ離れになっていたことでしょう。

 

「あー、ごめんな。怖いこと思い出させて」

 

 私が自分の手首をつかんで震えると、アッシュが謝ります。

 

「ちょっと思い出しただけなの。大丈夫よ」

「んー、けどなぁ」

 

 いつも明るく元気なアッシュなのに、妙に歯切れが悪いわ。どうしたのかしら?

 

「アッシュ?」

「いやぁ、それがさ、来てるんだよ」

「どなたが?」

「ケルベロスが」

「えっ!!?」

 

 私は飛び上がりました! どこかへ逃げようと辺りを見回して、ふと気づきました。

 アッシュは気まずそうですが、少しも怖がってはいません。

 

「アッシュ、危険じゃないの?」

「別にー。あいつは門番だから、あいつが守るものを奪おうとしたら危ないけどよ。向こうから来たってことは、何か用があるんだと思うぜ」

「どんなことかしら?」

「さあ? それが気になってな」

 

 私はお兄さまたちにお声がけして、三人で階段を降ります。アッシュが先導するように前を飛んでくれます。きらきらとした翡翠色の光が、とってもきれいです。

 お城の玄関ホールでは、執事がお客さまの対応をしていました。 

 

「旦那さま、お嬢さま」

「セバス、お客さまかい?」

 

 お兄さまがおっとりとした態度で問いかけます。執事の態度から、危険はないと判断したのでしょうけれど……。私はぎゅっとお兄さまの背中の裾を握ります。

 

「ちょうどよろしゅうございました。こちら、カルディマンド魔法師団長さまから派遣された方だそうです」

「カルディマンド卿から、かい?」

「ウィリアムさま?」

「あらー、かわいいわね」

 

 お城のエントランスに現れたのは、黒いチワワと黒髪の美人魔法師団員さんです!


「おいおいおいー!」


 アッシュが美人さんとチワワのまわりをぐるぐると飛び回ります。そういえばアッシュはケルベルスが来たと言っていました。これって……?

 

「アッシュ、どうしたの? まさか」

「なんっでケルベルスが、こんな格好をしてんだよ!」

「えっ」

 

「我々がウィリアムさまと契約したからですよ、アッシュ」

「ワンワン!」

 

 美人さんはアッシュの名前を殊更丁寧に呼びました。なんだか不思議な迫力があります。さすがケルベルスということのなのでしょうか。見た目はほっそりした中性的で美人な団員さんなのに。


「ふむ。カルディマンド卿からの紹介状はあるだろうか?」

 

 お兄さまの言葉に、美人さんは首を振ります。

 

「うーん、紹介状がないとこちらで雇うことは難しいな」

 

 お兄さまのごもっともな言葉に、チワワがクーンと鳴いてこちらを上目遣いで見つめてきます。


 私は膝をついて手を差し出します。チワワがちょこちょことやって来て、鼻先をこすりつけました。かわいいわ!  ふわふわの毛と、つぶらな瞳。黒と白のコントラストがはっきりしていて、凛々しくも見えます。

 

「あなたって、ケルベロスなの?」

 

 私が小声で尋ねると、チワワは琥珀色の瞳でパチンとウィンクしました。

 

「エミリアーナさま」

 

 黒髪の美人さんが、私を呼びます。彼女も琥珀色の瞳をしています。私の前で膝をついて、うやうやしい態度を見せます。

 これがケルベロス? 本当に? だって三つ首の時は大きくてすごい迫力で吠えていたのです。

 精霊アッシュの言葉とはいえ、姿形も雰囲気も違いすぎます。

 

「わたくし共は、カルディマンド卿の元より、エミリアーナさまをお守りするために参りました」

「その言葉に嘘偽りはありませんわね?」

「もちろんでございます」

「じゃあ、お友だちの契約をしてくださいますか?」

「かしこまりました」

「ワン!」

 

 私はチワワを抱えた美人さんと向き合い、三人同時に言いました。


「ビマイフレンッ!(Be my friend!)」

 

 私たちの胸から魔力があふれ、パイプのようなもので繋がりました。

 

「お兄さま、これで大丈夫ですわ」

「……大丈夫、なのかい?」

 

 お兄さまがちらりとアッシュの様子を窺います。


「あーあ! あーあ! 言っちゃった! 契約しちゃった!」

 

 アッシュがまたぐるぐると飛び回ります。それをチワワがジャンプしながら追いかけます。かわいいわ!

  

「アッシュ? まずいのかい?」

「でも、ちゃんとお友だちになったわよ……?」


「でもまぁ、先にウィリアムと契約してんだから、エミリーがどうやっても仕方ないっつーか……。オレ、知~らねっ!」

 

「それがいいでしょうね、アッシュ」

 

 美人さんがにっこりと笑いました。アッシュが私の肩に戻って来て、隠れるように()まります。


「よろしくお願いね。では、私のお部屋へ参りましょう」 

「はい」

「ワン!」

 

 私はお兄さまとルーシーお義姉さまにご挨拶してから、自分のお部屋に戻ります。アッシュは私の肩に乗ったままです。まだ元気がありません。大丈夫かしら……。

 

「それで、どうしてケルベロスが味方してくれるの?」

「それはねー!」

 

 チワワがぱっと少年の姿になって言いました。10歳くらいでしょうか。半ズボン姿でかわいいわ!

 

「おれたち、ウィリアムと友だちの契約をしたんだ。それで、あんたの護衛に来た。ホントだよ?」

「エミリアーナさまの身辺が危険だと、ウィリアムさまは心配されておられます」

「わかりました、信じます」

 

 対等の絆を繋いだので、彼らが嘘を言っていないのは確かです。なにか強い決意を秘めていることも……。

 

「話が早くて助かるね! よろしく、お嬢さま!」

「ええ、よろしくね。私のことはエミリーでいいわ。私はあなた方をなんと呼べばいいのかしら?」

「んー、別に何でもいいよ? 本当の名前は秘密だからねっ」

 

 少年はまたチワワの姿に戻り、フリフリとしっぽを振りながら話します。

 うーん、犬がしゃべるなんて、なんとも不思議です。でも、かわいいわ!

 

「じゃあ、たとえばー、ウィルとかどう?」

「あら、ウィルは……」

 

 ウィルは、ウィリアムという名前の愛称です。ウィリアムさまの前で呼んだら、ちょっとややこしいかもしれません。それにいつか、私がウィリアムさまのことをそう呼ぶ日が来るかもしれません。想像するだけで恥ずかしいわ!

 

「エミリー? 顔、赤くないか? 疲れたか?」

「大丈夫よ、アッシュ」

 

 私はコホンと咳払いして、思考を切り替えます。

 

「イマイチ? じゃあウッドはどう?」

「ウッドならいいわ! でも、あなたはこんなに小さいのに……いえ、ケルベロスですものね」

「うん? もしかして木材のwoodだと思ってる?」

「あら、ちがうの?」

「一応、WillとWouldに引っかけたんだけど。まあ、いいや!」


 ウッドがふさふさのしっぽを揺らして言いました。

 

「では私はシャルでどうでしょう?」 

「Shallか! いいじゃん、いいじゃん!」

 

 ウッドがうれしそうに跳ねます。元気だわ!

 

 その後の話し合いで、ウッドは普段チワワの姿で護衛してくれ、シャルは護衛とメイドも兼ねることになりました。

 当家は叔父に乗っ取られかけた時に、信頼できるメイドの数が減りました。叔父が辞めさせたせいです。その後、若い人たちは戻ってきてくれましたが、年配の者たちはそのまま引退してしまったのです。

 

「分かった、オレも腹を括る。ウッド、シャル、死ぬ気でエミリーを守れよ!」

「もちろんだよ!」

「あなたに言われるまでもありません」

 

 シャルがまたにっこりと笑いました。

 

「私はそれでいいとして、またお兄さまが狙われたりしないかしら?」

「お兄さま? ああ、あの細木のような体の弱っちいやつか」

「ウッド!」


「え、何? 何を怒っているのさ?」

「お兄さまは私の大切な家族よ! そんな風に言わないでちょうだい!」

「わ、分かったよ……」

 

 ウッドは尻尾を股の下に入れ、項垂れます。

 反省した姿に、私は体の力を抜きました。


「怒ってごめんなさいね。でも、私を優先してお兄さまを(ないがし)ろにしてほしくはないの」

「うん……」

「お嬢さま、ご安心ください。兄君やこの城も、きっちりお守りいたします」

「本当!?」

「ええ。我らの本質は番犬ですから」

 

 シャルが綺麗な顔を笑顔にして、力強い言葉をくれました。うれしいわ!

 

「家族の話は、エミリーには地雷だな」


 アッシュがぽつりと呟きました。

 

 

 

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