073〜幻影の支配者
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この世で最初に魔王を倒して伝説となった男。
子どもが読む絵本の勇者はアルヴァンが元になっているのではないかと言う人もいたらしい。
「アルドミアが仮初めの神として立っていたから、そこまで神としての知名度は低いだろうけどね」
まさか神となっているとは思わなかった。
「アルドミアは出来損ないの失敗作だったし、それが呼び出した勇者なんてたかが知れているよね」
笑顔で淡々と言葉を発するアルヴァン。
確かに神と勇者なんて肩書の割には最期は呆気なかった。
ただ……
「失敗作……?」
アルヴァンは確かにそう言った。
「そうさ。アルドミアは私が造った人造神だね。いや、私は神だから神造神かな?どうでもいいね。」
神を造り出した……?
アルドミアは確実に命を持っていたし、感情もあった。
とても造られた存在には感じられなかった。
そんな技術があるのか?
俺の疑問はお構いなしにアルヴァンは続ける。
「試しに感情や性格を付け足してみたんだけど、邪魔になるだけとわかったからね。その後からは止めたんだ。その結果、出来たのが『神聖騎士』だ」
「なっ!?」
オレの固有結界が別の力によって侵食されて消えていく。
そしてアルヴァンの背後に四人の影が立つ。
その中には外で拘束したはずのアストンの姿もある。
あいつ、どれだけの事を隠していたんだ?
感情が無いはずなのにそんな素振りも無かった。
「さて、クロムウェル君。君の顔は私が最も忌み嫌う者の顔そっくりなんだよ。」
アルヴァンが笑顔のままそんな話をしてきた。
「だから何だというんだ?」
「死んでくれ」
その顔からは笑顔が消えている。
一瞬で神聖騎士がオレを取り囲んだ。
「相変わらずせっかちなやつだねぇ」
「!?……この声は、レナだね」
そして、その声と共にオレを囲むように立った神聖騎士達の背後には魔王達の姿があった。
「下がれ神聖騎士」
アルヴァンの声で短距離転移に近い速度で、消えたように移動する四人。
「やっと来てくれたんだね、レナ。ずっと会いたかったよ、私のレナ。」
「気持ち悪いからそういうのはマジでヤメテ、このストーカー。ボクが心に決めているのは一人だけなんだよ。いい加減気付け変態。」
いつの間にかアルヴァンの前に、立っているレナ様。
そしてレナ様の口から聞いたことのないような暴言が吐き出されている。
いつもと雰囲気が違うと感じる。
怒っている?
あと、ストーカーとは一体?
「邪神様は会った時からあの神に付きまとわれているのだ。」
ディオスが察して答えてくれたが、神としてそれはどうなんだ?
「あぁ、そうやって私を突き放して愛を試しているんだろう?」
自分を抱きしめるようにして歓喜の声を上げているアルヴァン。
あぁ、確かに気持ち悪いわ。
「私も鳥肌なんだけど……」
「見るに堪えないな」
「邪神様がかわいそうですね」
ニール、エリック、アルティアと辛辣な意見が続く。
「あぁ、そうか。レナがクロムウェアに肩入れしているのはアイツに似ているからだね?やっぱりここで消しておかないとダメだよね。アイツがいるからレナが私の所に来れないんだ。いつまでもいつまでもレナを縛り付けている男め。レナは私の物だ。お前の物じゃない。」
アルヴァンが早口な上にギラギラした目をオレに向けてきた……が、
「気持ち悪い!!」
レナ様にぶん殴られてた。
ちなみに、命令されないと動かない神聖騎士達は動かない。
「ちっ……幻影か……」
殴った後でレナ様が舌打ちをしていた。
「アイツと戦うなら、アイツ本体を見つけられないと、幻影を見破らないとダメだからね。」
その言葉は自分ではなく、オレ達に言って聞かせているようだった。
『幻影の支配者』という意味も分かった。
オレ自身、そこにいたアルヴァンは本物だと思っていた。
だが、それは幻影だったという事実は衝撃だ。
たった今幻影だと知らされたアルヴァンだが、気配も存在感も魔力の流れすら……全てが“そこにいた”のだから。
「ボクですら幻影かどうかは、殴らないと分からないんだ。まぁ、本体の強さはそこそこだから当たれば終わりなんだけど。」
「ふふふ、レナの愛が重いですよ。まさかレナから触れてもらえるとは。いいですねぇ、クロムウェアにちょっかいを出せばレナから来てくれるのですね。」
再び現れたアルヴァンは恍惚とした表情を浮かべている。
その光景とセリフに、オレですら鳥肌が立った。
「マジ……キモ……」
レナ様はそれを見て吐きそうな顔をしている。
「あぁ、それではクロムウェア君が本気で私に向かってくるようにすれば良いですかね?」
オレを指差し、イヤな笑みを浮かべるアルヴァン。
その口から発せられた言葉は。
「ーーーーーーーーーーー。」
「ぶっ殺す!!」
オレの感情を爆発させるには十分だった。
この章の終わりが近づいております。
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