065〜戦の介入者
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ガキィッ!という金属音と共に私の腕は止められた。
それは闇色が深い剣。
見ただけで不快感が押し寄せてくる。
「ジェーイルゥ……なぁにヤラれそうになってんだァ?」
「勇者様……」
コイツが勇者か。
目の前に来るまで気配を感じなかったな。
私は一足飛びで少し距離を取る。
「エリーもバルキスもヒューゴもヤラれてんじゃねぇか!お前ら使えねェな!!女神サマの力を貰っておいてよ!」
苛ついた様子で叫ぶ勇者。
「追加だァジェイル。」
「ぇあ……うぎっ!?」
いきなりジェイルに闇色の剣を突き刺した。
「アガガガガガガッ!」
「ヒャハハハッ!!」
白目を剥いて叫ぶジェイルとそれを見て笑う勇者。
コイツは本当に勇者なのか。
やっていることは狂人のそれだ。
だが、この機を逃がすわけにはいかないね。
こちらに背を向けている勇者は隙だらけだ。
「一瞬で首を落として切り刻む………」
私は足に力を入れて一瞬で勇者の背後まで迫る。
私の手刀は勇者の首元へすんなりと届く……はずだった。
「……っ!?」
寸前に何か見えない壁のようなものがある。
いや、壁というよりもこちらを押し返そうとする何かだ。
「残念だったなァ、斥力だァ。つってもこの世界の低能なお前らには分かんねぇかなァ!!」
押し返す力が一気に強くなって、弾き飛ばされる。
斥力……押し返す力か?
「俺様の出番はまだ先だからなァ、ジェイルと遊んでやってくれェ」
ジェイル?
「ウガァアマァァ!!」
勇者を飛び越えて巨大な影が迫ってくる。
長い槍をもった獣……か?
いやジェイルを改造したのか?
面影は残っているが髪は伸び、牙と角が生えている。
元々巨躯だったが、更に大きくなり筋肉も膨張して三割程大きく見える。
意識はあるのか?
「ウガァァァ!!」
涎を撒き散らしながら叫ぶジェイル。
「残っているのは戦う本能のみか」
身構える私に勇者の言葉が聞こえた。
「さァて王国軍、こんな化け物達の侵攻開始だァ」
そんな勇者の姿は見えないが、遠くから獣の叫び声の様なものが聞こえた。
このレベルが大量に来るのはマズイ。
私の騎士団でも対処出来るのは数人だぞ。
他の陣営であればもっと少ない。
悪いが早々にジェイルを退場させる。
私の力が変わりすぎて流水十剣ははもう古くて使えない。
「水鏡転身」
前よりも遥かに速い高速移動が可能になった私の新たな剣技。
それは鏡に写ったように見える、四方向からの同時攻撃。
手刀から放たれる斬撃がジェイルの四肢をバラバラにする。
「塵旋風」
身動きが取れなくなったジェイルを粉微塵にして消し去る。
「よし、陣に戻らねば!……?」
踵を返した私だったが、不意に感じた気配に振り向くと……
「ウゴァァァァ!!」
ジェイルが復活し始めている。
「バカな!?どうなっている!?」
確実に粉微塵にしたはずだった。
だが、周囲に散った塵が集まって身体を形成していく。
核が存在しない……?
それとも別に核があるというのか?
「塵旋風!!」
ひとまず復活される前に再び粉微塵にする。
離れた所では既に化け物達が別の陣営に到達してしまったようだ。
視線の先には砂埃が立っていて、こちらにも到達しようとしているのが分かる。
「ここで私が持ちこたえるしかないか……」
復活し続けるジェイルと化け物達を同時に相手をすることになった。
「どこまでやれるか……」
私は砂埃の舞う場所へ高速移動を始めた。
復活し始めたジェイルの頭を持って。
ーーー
俺達が修行している所に紅い服を身に纏った男が来た。
「ナミト、アミナ。連絡が遅くなった、とうとう戦争が始まってしまったようだ。」
「何っ!?」
「もう始まってるの!?」
声をかけてきたのは、炎を司る真焔龍のアグニだ。
俺達の修行が煩いと言って怒鳴り込んできたが、そのまま何故か修行を手伝ってくれている。
「『牙龍纏』はまだ完全には使いこなせてねぇけど……」
「行かないとだね、ナミト!!」
「あぁ、当たり前だ!親父のやつ、早まってねぇといいけど……」
俺達が間に合わなくて親父が死んだらお袋に合わせる顔がねえ。
クロムさんも恐らく来るはずだ。
『牙龍纏』状態なら魔王配下装備も余裕で扱える。
「今から行くのか?」
「あぁ!アグニさんも俺達の修行手伝ってくれて助かった!!ありがとう!!」
「ありがとうございました!!」
アグニさんが来なかったら、多分俺達の強さは前より少しマシ位で終わっていただろう。
「気にするな、まだ若い者が強さを極めんとするなら、手伝わねば真龍の名折れだ。コレは私からの餞別だ、闘いに役立てると良い」
アグニさんが俺に渡してきたのは、二つのイヤリングだ。
「それは絆の耳飾りと言って、一対を二人で分けて付けることで効果を発揮する物だ。『牙龍纏』維持の補助をしてくれる。言うなれば初心者用のお助けアイテムだな。」
こんなものがあったのか。
確かに、アグニさんからしたら初心者な俺らにはうってつけの物だ。
「負けるなよ、二人共」
「「はい!!」」
“互いに向き合い”イヤリングを二人で付けた。
もうアミナも少女ではなく、俺と同じくらいの背丈の女性だ。
勇者の事件後のショックで小さくなっていたようで、それもアグニさんに師事することで解消された。
「さぁ、急ごう!!」
「行きましょう!!」
俺とアミナは黒龍の里を飛び出した。
戦場に二人が向かう。
ナギ達はどうなったのか…。
基本的に、属性を司る真龍達は人間のイザコザには手を出しません。
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