064〜銀の刃は風を断つ
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ナギと風斬の奥の手………。
どこからか風が巻き起こりナギの周囲で渦巻く。
それは激しさを増し、砂塵を巻き上げ竜巻のように空へ登る。
「オイオイ……何をやってやがっ!!」
その竜巻に伸ばしたジェイルの手は弾かれる。
「なら、私が……っ!?」
腐蝕の力を持つエリーの手も弾かれる。
その腐蝕すら効果を出さない。
砂塵の細かい粒子は腐蝕しているのだろうが、微々たるものだ。
「逆回転の竜巻をぶつけて相殺してやるよ!!螺旋風陣!!」
バルキスの起こした魔法の竜巻が、ナギの周囲を囲うものとぶつかり合う。
その瞬間にバルキスの竜巻はそよ風に代わり周囲へ流れていった。
「相殺どころかお前の方が消されてんじゃねぇか!!」
ジェイルが爆笑する。
「うるさいなぁ!!」
そんな何もできないと悟った三人に声が聞こえた。
「………あぁ、待たせたね。」
その声と共に周囲に拡散されるように竜巻が晴れていく。
そこに立っていたのは、来ている服こそ同じだが印象や雰囲気は全く違う別人だった。
赤い長髪は銀髪のショートカットに変わっており、頬にあった傷も無くなっている。
どこぞの王子だと言われても納得出来る。
「てめぇ、誰だ………?」
ジェイルが放った一言は三人全員が同じように思ったことだった。
ーーー。
“私”を囲む竜巻の中で、魂が混ざり合っていくのを感じる。
ナギという魂と、風斬に刻まれた魂。
刀身一解はその魂を融合させて、人としての魂の限界値を更に“上の段階”へ解放する。
だが、ナギという人格と、風斬としての感情は混ざり合い別物へと変化していく。
記憶はあるが全くの別人。
もうヒトとは呼べないのだろう。
そして元に戻ることは出来ない。
竜巻の外であの三人がどうにかしようとしているのを感じる。
融合はほぼ完了した。
この姿を見たら、ナミトとクロムはどう思うだろうか。
その前に、外の三人を“処理”しないといけないね。
取り巻く竜巻が緩んでいく。
「……あぁ、待たせたね。」
私が放った声で竜巻が霧散していく。
ジェイルが目を見開いている。
「てめぇ、誰だ………?」
その言葉がやっと絞り出せただけのようだった。
「ナギ・ウェイド……と名乗りたいところだけど、既にナギとしての人格は消えてしまったからね。記憶はあるけれども……」
「何を言ってやがる……?」
ジェイルには分からないようだ。
私は彼の疑問を無視して続ける。
「そうだね、ナギ・ウェイド・カザキリとでも名乗ろうか。その名の通り、この王国に吹きあれそうな暴“風”を“斬”り裂き、平和と言う風の吹かぬ“凪”を取り戻そうか」
私は一足飛びでエリーと名乗る腐蝕の女性の目の前へ。
「えっ……?」
「さよなら」
私の持つ風斬は無くなってしまったが私自身が風斬のようなもの。
その手刀はエリーの首を胴体から切り離した。
「エリーッ!?」
仲間を一瞬で失ったバルキスの絶叫が響く。
「まず一人だね」
でもジェイルのように復活されても面倒だ……。
「風斬との融合で流水十剣は進化した。粉微塵にしておこうか、塵旋風!!」
手刀を振れば一つの刃が飛ぶが、手には全部で十本の指がある。
その一つ一つから斬撃を飛ばすことが出来れば、高速で腕を振るえる今の私なら……。
「あっという間に粉微塵だよ」
ここまでやればジェイルも復活出来ないだろうから、次はそうしよう。
「テメェェェェアァアァァァァ!!」
バルキスが叫びながら魔力を集めている。
極魔導と、言ったね。
なるほど、空中にある魔力も集めて使えるのか。
でも少し遅いね。
「どこを見ているのかな?」
「何ッ……!?」
私は既にバルキスの横に立っている。
私がいた方向に手を伸ばしている態勢だ。
無防備なその首を掴んで持ち上げる。
「ウグッ!」
力を込めて首を締めていく。
どうやらバルキスは詠唱しないと魔法を使えないようだからね。
「喋れないなら魔法は使えないですよね?」
手足をバタつかせているが、力が弱すぎて全く意味をなさない。
「離せよ」
おや?
バルキスを掴んでいる私の腕を狙ってジェイルの槍が振り下ろされる。
だが、私の身体は既にヒトの体組織とは異なる。
叩きつけられた槍は私の腕に当たって、金属音を響かせながら弾き飛ばされる。
「気配を消すなんてことも出来たのですね、ジェイル。」
「完っ全に化け物かよ……」
槍を弾かれたジェイルは持っていた両手が痺れているようだ。
そろそろ彼の相手もしてあげないといけないね。
「ガッ!………」
ゴキッと言う音がしてバルキスの身体から力が抜ける。
「バルキス!!」
私はバルキスを放り投げ、
「はい。………塵旋風」
エリーと同じように消し去った。
「さぁ、一騎打ちを続けようか?」
私は一歩前へ出る。
「……………。」
ジェイルは何も言わなかった。
その代わりに、その巨躯は小刻みに震えている。
「あぁ、怯えているのかい?」
ジェイルは何も言わない。
私は続ける。
「………王国に喧嘩を売った事、戦争とは言え人の命を粗末に扱った事、全てを後悔するといい」
私は腕を振るった。
目の前で怯える男に向かって。
全てを圧倒するナギ。
だが、性格は前と全く変わってしまいました。
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