037〜呼び声
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ココから少し重い話です。
扉を開けた教会の中はロウソクが灯ってはいるが暗い。
明かりを取り入れる窓も影で覆われ、色彩豊かなステンドグラスも真っ黒だ。
シャンデリアも灯らず薄暗い教会。
その中央には、闇を纏っているような漆黒の修道女服を着た女性。
こちらに背を向けているために顔は見えない。
「ようこそおいで下さいました。」
教会内に響く声。
その出所が分からない。
遠くから語りかけられてきたような、近くから声をかけられたような感覚だ。
だがこの声、聞いたことがあるような……。
「何だか気持ちが悪いぜ……」
「声が変なところから聞こえてきたよ……?」
声の距離感が掴めない二人も周囲を見渡して警戒している。
修道女が話しているのだろうか?
「貴族の方々でしょうか?」
「いや、俺達は違うな。影を操っているやつを探している冒険者だ」
会話は出来るのか、試しに返答してみたがどうだ?
「冒険者ですか、貴族を連れてきては……いない……貴族がいない……いないいないイいないいイナイ!!貴族を殺さないと私はココに縛り付けられたママナンダ!!」
豹変したように叫び始め、その周囲に影の魔物が数体現れる。
そして、目の前の女性がコチラを向いた。
「そんなバカな………」
俺はその顔を見て一歩後ずさる。
「シルバさん?」
「どしたの?」
「シェリア……………どうして、お前がこんなことをしているんだ?」
〈復元〉の異名を持つ、勇者パーティーの回復役。
光魔法に特化した、破邪の魔法を使う聖職者。
その名はシェリア・リクリッド。
そんな彼女が影を率いて俺の前にいる。
彼女の髪の色は輝くような金髪だった。
今は闇のような黒髪になってしまっている。
だが俺は見間違えはしない。
「私を知っている?アナタはダレ?」
目を見開き俺を見つめるその瞳には狂気の光が浮かんでいる。
俺は無言で仮面を外して、しっかりとシェリアを見る。
「……………アァ、コレは幻覚?死んだはずのあの子がいるわけがナイ。クロム………クロムは、私達が、私達が………………アアアアアアァ………」
シェリアは俯いて泣き出した。
操られていた時の記憶があるというのか?
「シェリア、俺はココにいるぞ。黄泉から舞い戻った。」
オレは数歩、シェリアへ歩み寄る。
「アァァ………ッ!ダメよ。来たらクロムまたあなたを殺してしまう。私はもう人ではないの」
何だ?意識が普段のシェリアに戻ったのか?
髪の色が黒と金で明滅したように変わっている。
「勇者と女神によって私は無理矢理反転させられたの。光の聖職者である私が、今は影と魔物を操る闇の操者。」
「元に戻す術は……?」
「無いわ。神の力によって、私は存在を書き換えられたの。今みたいに闇の意識を無理に押さえれば多少は戻るけど、もう持たない。」
存在を書き換えるとは、確かに人でどうにか出来る範疇を超えている。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
俺には………
俺には…………何だ?
何か思い出せないことがある。
シェリアについての何かが。
「クロム、私を殺して。私の大好きなクロムになら、殺されてもいい」
俺を好き……?
シェリアが?
「早く………コロして…アァァ…」
分からない……どうしてだ?
愛する………とはなんだ?
言葉では理解出来るが、そういう感情が俺には………無い?
そんなはずは……。
シェリアが目の前で蹲るのを見てハッとする。
「シェリア!?」
「ウウッ!もう、誰も、傷つけたくないの……クロム、お願い………」
シェリアは表情は苦しそうだが、俺の目をしっかりと見つめてくる。
どうにもならないというのか!?
万能と呼ばれた俺が!!
このままシェリアをこの手で殺めろと!?
自分の両手を見つめるが、何も浮かばない。
ただ、小刻みに震える手が見えるだけ。
「クロム、大丈…夫だよ」
シェリアは俺よりも更に震える手で、俺の両手を包み込む。
頭の中で何かが弾けた。
俺を呼ぶ声が聞こえる。
『お姉ちゃんが守ってあげる!』
『言葉遣い直したら?』
『クロムって私のこと好きなんでしょ?』
『クロムなら大丈夫!!』
あぁ、そうだ……
俺は……
オレは……
シェリアの事を……………
次回、クロムの身に起きている異変のお話。
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