026〜市長の異変
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今回は市長のお話。
入ってきたのは白髪の老人。
杖を付いて歩いている。
その横には秘書兼ボディガードの、ガタイのいい男がついて身体を支えている。
そんなバカな……
以前会った市長は、五体満足で杖なんていらないくらい元気だったはずだ。
数ヶ月でここまで衰えるのはおかしい。
あの勇者と口でやり合えるのだから。
「シルバ殿でしたかな?私は市長のグラン・メルキス。此度は魔獣討伐誠に感謝する。ただ旅の道中で倒したとのこと、依頼を存じ上げなかったと聞いております」
話をしているのに俺と視線が合わない……?
もしや眼が見えていないのか?
ギルドの担当者も出払っていて、ここに居るのは俺達と市長達だけ。
この秘書も顔見知りだ。
俺はおもむろに仮面を取り外す。
秘書の男が目を見開く。
ナミトもビックリしている。
「俺は、クロムウェア・ウォーロード。訳あってシルバと名乗っている。グラン市長久しぶりだな。」
「本当に……本当にクロムウェアなのか!?」
市長も驚き、秘書の男に聞いている。
「顔つきはクロムウェアそのもの。話し方もあの時の感じなので偽物……というのは否定しづらいです。」
「だが、あのクソ勇者は死んだと言っていたではないか!?」
市長が秘書に声を荒らげている。
「グラン市長、魔王を討伐した後、ここまでのことを教えよう。だからそちらに起きた事も教えてくれ。明らかに数ヶ月で市長の様子が変わりすぎている。あの勇者とやりあった精悍な姿ではないのでな」
「ふむ、クソ勇者のことをバカと言うか。話し方といい、本当にクロムウェアなのだろうな……信じよう。私も今日までのことを教えようじゃあないか。」
秘書の手を借りながらソファーへと腰掛けた市長。
一体何があったというのだ?
「では、俺からーーー」
魔王討伐後、勇者の手によって殺されたこと。
邪神様に復活させて頂いたこと。
英雄レナ・メシアが邪神となっていること。
魔王を生み出したのが女神だということ。
女神が信用できないこと。
この都市の現状を聞いてここまで来たこと。
最後に……
「俺が生きている事実は誰にも言わないで欲しい。まだその時ではないから」
そう告げた。
特に勇者にバレるのが一番ダメだ。
「とんでもない話が含まれているが、まず勇者がそこまでやっているとは思わなんだ。私も知っていれば警戒出来たものを……今更遅いがな。さて、私も全てを話そう。」
市長が話し始める。
それもとんでもないものだった。
勇者としてというよりも、人としてどうかしている内容。
魔王討伐後、この街に勇者が戻って来た。
魔王を討伐した凱旋で各地域を回っていると言っていた。
執務室にいた市長の所へ勇者が来て、市長はまず賢者がいない事に気がついたという。
そして他のメンバーも様子がなにやらおかしいことも分かったそうだ。
「市長さんよ、これはこの前のお礼だ。ありがたく受け取んな!」
そして何かを言う前に、部屋が光で包まれた。
勇者が何かをしたのだろう。
市長と秘書はそこで意識を失っている。
そして目が覚めたのは数時間後の事だったそうだ。
目は覚めた。
しかし目が見えなくなっていた。
秘書は特に何ともないらしい。
立ち上がろうとすると、右足が動かない。
秘書が確認するも、外傷は無い。
そしてそのタイミングで執務室の扉が激しくノックされた。
入ってきたのは必死な顔の役所の職員の一人。
職員の言葉に耳を疑ったという。
「大変です!!市長の家に盗賊が!!」
強盗達は金品を持ち出し、市長の奥さんと娘さんを連れ去って何処かへ逃げたらしい。
何かの魔道具を持っていたのか、手練だったのか分からないが侵入してから脱出するまでの時間が異様に短かったとのこと。
脱出する際に放火までして、警備隊が到着した時には燃え盛る市長の家があったそうだ。
「私は一連の事件は全てあの勇者が関わっていると思っている。実際に私の身体の異変は、 私が昏倒させられたあとだ。私は王へ責任追及の書を出したが、すぐに勇者は何もしていないという回答が帰ってきた。何かがおかしいと感じた。私はあの国が勇者のせいで崩壊する予測を立てたのだ。あの国は早急に出なければならないと……」
そして行動に起こしたことで戦争になりかかっているということか。
奥さんと娘さんの行方は未だ知れず、市長の身体も快調する兆しが無い。
そもそも魔道具を持っていたり、仮にも多少の防衛をしていたであろう街長の家に侵入して脱出までを簡単にこなす盗賊団などいてたまるか。
盗賊なんて金がなかったり、仕事が出来ないような奴らの集まりだからな。
やばい盗賊なんて国を上げて討伐命令が出るレベルだ。
……だがその国のトップもおかしいと。
「内容は理解した。まぁ十中八九、勇者か女神が何かやってるな。そうだな、取り敢えず市長の身体の状態を調べさせてくれないか?何か分かるかも知れないからな。」
「分かった。私も賢者なら信用出来るからな」
そう言ってもらえれば嬉しいな。
さて、勇者は何をした?
少しずつ勇者と女神の悪事が出てきました。
普通の盗賊はそもそも、大きな街の市長とかの大きい家は狙わない。
まず、街に入るのが大変。
準備が大変。
それなりの資金と力を持っていないと難しい。
盗賊って辺境の村とかを襲うことが多いですよね。
この世界だと辺境で領主がまともじゃない所の村人が盗賊になるレベルと思っていただければ。
それなりに治安は維持されています。




