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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
99/155

1-98.ヴォートランへの接触

ロドーニア特別調査隊は最後の30kmを第二キャンプから踏み出した。

既にニッポンの浮遊機アパッチに数度の爆撃を行なわれ、サライ国境城壁までの道が切り開かれた状況であった。更にはこの第二キャンプにもニッポンの輸送浮遊機が補給品を運び込み、弾薬に関しては潤沢な補給が済んでいた。


このロドーニア特別調査隊の実行部隊であるヴォートラン兵達を束ねるモンラード大佐は、当初の任務であったガルディシア帝国産自動小銃による実地試験運用任務から、急遽魔獣に包囲されたドムヴァル、そしてコルダビア軍を救出する為の任務をニッポンと共同に行う様に指示されたが、部隊の規模と任務の正確から当初難色を示していたモンラード大佐も、ニッポン側から強硬に支援要請された上に相当な支援を約束された事とヴォートラン王国本国からの協力要請から、止むを得ず救援任務を受け入れたが、彼が思っていた以上に現時点では容易な任務となっていた。


モンラード大佐は本国からの新式自動小銃の効果検証と共に秘密の任務を負っていた。

それは最近になって国交が回復したロドーニア王国の国力と戦力判定、そしてロドーニアの周辺友好国、そしてその敵対国の評価だった。実の所、敵国に関しては今の所コルダビア軍としか接触していないが、どうやらロドーニアの関係者からの評価判定ではドローニアの敵国であるヴァルネク連合内部では陸軍はそれなりに強いとの判定である。そしてこれまでコルダビア軍を見る限り、ヴォートラン陸軍よりも装備が先進であり魔導兵器群もまたヴォートランと比較しても、ただ単に魔獣に通用しないという点を除いては恐らく兵を比較しても贔屓目で言って互角、その他の装備はコルダビア軍が有力であると判断した。だがヴァルネク連合とヴォートラン王国との間には長大な海という自然の防壁があり、彼等がヴォートランに来るには、この大陸の戦乱が落ち着かなければ恐らく動ける事にはなるまい、と思っていたのだ。だが、モンラード大佐の予想を裏切る形でヴァルネク連合はヴォートランとの接触を果たしていた。


・・・


ジグムント少将はヴァルネク教化第二艦隊旗艦である戦艦エーネダーで副官のマレック中佐とエーネダー艦長スワヴォミル大佐と共に艦橋で目の前に現れたヴォートラン国旗を掲げる帆船を眺めていた。眼前の帆船はエーネダーからの魔導通信に全く応答が無く、これはヴォートラン王国が魔導文明圏では無いという事前情報と合致していた。


「こちらの問いかけに全く応答ありません。魔導探査機にも艦影映りません!」


「全く……この辺りは魔導環境が無いのかね。どう思う、マレック?」


「恐らく例のニッポンと同様の文明圏なのでしょうが、どう見てもアレは自然の風力を動力にした形ですね。ニッポンと同様の能力を持つとは到底考えられないんですが……この海域は彼等の影響範囲では無いのか、はたまたアレは別の用途を持つ船なのか、何れにせよ彼等と接触してみたら分かるのでは? それ程危険な装備も有りそうも無いですし」


「そうだな、伝承通りと言う事か。だがまぁこの艦隊を見て敵対行為を行おうとする筈も無いだろうしな。マレック中佐、あの船と接触を図ってくれ。恐らくはヴォートランだとは思うが」


「了解しました」


ヴァルネク教化第二艦隊はヴォートランに向けて全力で出撃をしていた。

その艦艇数73隻、これを率いるオルシュテイン級戦艦エーネダーはヴァルネクの最新鋭戦艦である。そしてジグムントは自分達よりも強力な敵はニッポン以外には知らなかった。彼等の任務はヴォートラン王国と接触し、国交を得た上で彼等が持つ魔獣に対応可能と目される銃器の入手にある。可能であればヴォートラン王国を火の海にしてでも、それらの任務を達成する事が期待されていた。即ち教化第二艦隊による砲艦外交である。多少の抵抗があったとしても、従わないのであれば教徒も居らぬ他国を焦土にしても良心は傷まない。そういう類の任務をジグムントは請けていた。それ故に最初のヴォートラン王国との接触が艦隊の目前に木の葉の様に浮かぶ帆船であるヴォートラン王国所属の海軍練習艦マンフレドニアだったのだ。ジグムントは相手の船を見た瞬間にヴォートラン王国を侮った。


そしてヴォートラン海軍練習船マンフレドニアの艦長ルキーノ退役少佐は急ぎ海軍本部と無線で連絡を取った所、目前に現れた大艦隊の所属と目的を明らかにするように厳命された。この艦長であるルキーノ退役少佐は国から与えられた命令と共に海軍候補生達を生かして国に返す為に、周辺海域に緊急信号を送り続けつつ、救援を待っていた。


だがヴォートランのマレック中佐は依然応答の無いヴォートランの帆船に向けて戦艦エーネダーから小型のカッターボートを出し、ヴォートランの練習船マンフレドニアに取り付くと、直ぐに艦長のルキーノ退役少佐と接触した。


「ヴァルネク教国海軍所属、第二教化艦隊司令付副官のマレック中佐です」


「ヴォートラン王国海軍所属練習艦マンフレドニア艦長のルキーノ退役少佐だ。貴艦隊は我が国の領海を許可なく航行している。即刻我が領海から出て行って貰いたい」


マレック中佐は、敵意丸出しのルキーノに対して丁寧に対応した。


「我が国はここより西方にある貴国も御存じであろうラヴェンシア大陸から来ました。永らく嵐の海により東方との接触が断たれておりましたが、貴国ヴォートラン王国との国交を結びたくこの海域まで来たのです。どうか我が艦隊旗艦エーネダーまでお越し頂けますか、ルキーノ少佐殿。我が艦隊司令のジグムント少将がお待ちしております」


「ルキーノ退役少佐だ。私は退役少佐であるから貴国との交渉権を持たない。当然、貴国の艦隊がこの先に進む事も私の一存では了承出来ない。本国からの連絡があり次第返答をするので、当該海域にて逗留して頂きたい」


「本国からの連絡? それは如何様な手段にて?」


「私の船には無線機が積んである。その無線機にて本国と連絡中だ」


マレックは驚いた。

この帆船レベルの文明を持つ国が長距離無線能力を保有しているとは……だが、考えてみれば、この船は練習船と称しており、且つ例の魔獣に通用する武器を生産する能力も有している。と考えるならば、魔導文明が無くともニッポンの無線機のような仕組みが既に存在していてもおかしくない。


「成程、それではその連絡を待ちましょう。ここで待たせて頂けますか?」


「それは構わん。但し茶の類は期待するなよ。当船は不要なモノは積んでは居らん」


「それはもう、お構いなく」


マレックはルキーノが退室すると直ぐに魔導通信機でジグムントとの回線を開き、現状を報告した。


「ジグムント少将、彼等との接触に成功しました。彼らはヴォートラン王国海軍所属の練習艦だそうです。接触したのはこの練習艦の艦長である退役少佐ルキーノと名乗る人物です」


「練習艦か……ならば海軍とは言え能力を推し量る事は出来んな。他に何か特筆すべき事はあるか?」


「彼等は我々の艦を見ても特に驚いている状況ではありませんでした。推測ですが、恐らく同程度の能力を持つ艦をヴォートラン王国では保有しているのかもしれません。それと……」


「それは厄介な事かもしれんな。それと何だ?」


「彼等は長距離無線能力を有しています。彼等が言うには、ここはヴォートランの領海であり海軍練習艦の訓練海域であるそうです。現在、この練習艦マンフレドニアという名前なのですが、その艦長ルキーノ少佐が本国へと我々との接触を報告し、当該海域で待てとの事です」


「長距離無線能力だと……? 魔導能力を持たぬと言うのに、一体ニッポンと言いヴォートランと言い、厄介な国だな。という事はニッポンの船と同様に魔導探査に引っ掛からん事も納得だな。さて、おっかけヴォートランから来のはどれ程の連中なのかな」


「どのような物かは分かりませんが……ヴォートラン人からは敵意に似た物を感じます」


「……敵意だと? まぁ我々も初めての接触だ。失礼の無い様に対応してくれ。何れ焼き払う事になるかもしれんがな。それまでは友好的にな」


マレック中佐との通信を切ったジグムントは、ふと日本へと案内されたあの日を思い出していた。だがあれ程の能力を持つ国がそうそう次々と現れる事もあるまい、と判断した。それに以前率いていた艦隊とは雲泥の艦数を以て居るのだ。ヴォートランが仮に敵対したとしても、必要な物を全て回収した後に焼き払えば良い。それを行うに可能な能力が我が艦隊は持っているのだ。ジグムントはこれから行うであろう行動に微塵も疑問を抱いていなかった。そしてそこに魔導探査担当官の報告が突然に入った。


「魔導探査に微弱ですが反応! 北東の方角から急速接近中の物体あり。距離100km!!」


「微弱な反応だと? どの程度の速度で接近中だ?」


「毎時300km程度で当艦隊に向かっている様です。接触は20分後!」


この情報によってジグムントは混乱した。

300kmで接近が可能な物は浮遊機かそれに類するものだ。恐らく船舶ではあるまい。とするならば、300kmという速度で飛ぶ物をヴォートランは持っている事を意味する。だが、ヴォートランはニッポンと同様に科学文明に属する筈で、魔導通信機の類は通じない筈だ。それが証拠に眼前に居るヴォートランの小さな帆船は我々の通信に反応もせず、魔導探査にも引っ掛からなかった為に突然目の前に現れたも同然だ。だが接近中の何者かに魔導反応があったという事は、少なくとも何等かの魔導結晶石を利用したシステムがそこに存在する筈だ。……一体どういう事だ?


そしてそこにヴォートラン空軍の新型長距離四発大型爆撃機編隊が飛んできた。

これは日本から齎された新式発動機の設計図と工作機械によって、ヴォートラン空軍の制式爆撃機として新採用された四発発動機を搭載した長距離爆撃・雷撃機だった。日本から惜しむ事無く齎された航空力学を始めとした様々な技術供与、即ち知識と機械によってヴォートランの航空能力は50年程の進化を遂げていたのだ。


ヴォートランの爆撃機編隊は、大型魚雷を抱えて時速300kmの高速でヴァルネクの艦隊へと迫りつつあった。そしてこの爆撃編隊の先頭を飛ぶ嚮導機にはロドーニアの外交官スヴェレが同乗していた。つまりヴァルネク教化第二艦隊で捕捉した魔導反応は、スヴェレが持つ魔導通信機だったのだ。

何時もお読み頂きありがとうございます。

今日は早めに更新しときます。それと来週月曜は更新無しで…

火曜に更新する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ええ、いきなりヤル気満々…(^^;) そして、日本の助力があるにしても一気の飛び過ぎでは、航空技術…(^^;)
[良い点] 更新お疲れ様です。 おお、四発爆撃機! てことはP.108(っぽいやつ)! 初期複葉機から一気に跳んだ。 多分日本はB-17の技術を渡したんでしょうが、なぜかヴォートランバイアスがかかって…
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