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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
98/155

1_97.脱出三日目の朝

5856年前にラヴェンシア大陸中央に投下された半永久自立固定型対敵国無力化兵器システム カルネアの栄光は自分が投下された時代に設定されていた起動条件に合致した状況、即ち"指定区域に於ける人口密度が予め設定した数値を超えた"場合に稼働を開始する。そしてこのシステム周辺にはシステムを神と崇める知性ある魔獣によって周辺の石を組み上げた神殿を構築した。だがここ数千年の間、この閾値を超える人口密度は発生していなかった事から、カルネアの栄光はその機能を停止し潜伏モードの状態で活動を停止していたのだ。


だがヴァルネク連合軍によるラヴェンシア大陸東部侵攻は、同盟軍民間人の大避難民を大量に生んだ。

この避難民によってラヴェンシア大陸東部に於ける人口密度は、システムの閾値を超えて数千年ぶりの稼働再開となったのだ。更にはこの神殿に迷い込み侵入したドムヴァルのガリンストス少尉の部隊によってこのシステムは自らと周辺の状況を把握しつつあった。どうやらラヴェンシア人同士による戦争が起きている状況であり、自らが稼働再開したのは、その戦争が原因と理解した。


そしてシステムは自分の能力が効果的に目的を達成する為にはどうすべきかを思考していた。システムが感知可能な範囲では、ラヴェンシア人の魔力を持つ個体が大陸北方側や東方側に集中して存在している事を確認している。そしてその戦争状態はシステム自らの稼働によって停止していた。とするならばラヴェンシア人同士の戦争を再開させた上で、最大効率で無力化が出来るタイミングを見計らって稼働再開するのが良いだろう。だが、今の座標では最大効率を発揮する事は出来ない。その為には自らの能力が100%発揮可能な場所にまで移動しなければならない。だが、移動能力を持たないシステムは誰かによって運搬しなければならない。


そう、このシステム内に侵入したドムヴァル兵を名乗るラヴェンシア人の兵達を利用して。

その為、システムは侵入した兵達に思考波による接触を試みた。だが思考波に反応可能な兵はたった一人だけだったのだ。システムの思考波伝達機能は、人体に基本的に備わる魔力に干渉して伝達する。即ち、この神殿に侵入したドムヴァル兵達は、システムからの思考波を受け取れるレベルの魔力を持ち得なかったという事なのだ。これはシステムが持つ能力、即ち生命体の魔力に干渉して遺伝子改変を行い、強制的に不可逆的なメタモルフォーゼを惹起する。


彼の昔、聖カルネア多重神国は隣大陸ラヴェンシア大陸に位置するラヴェンシア帝国との戦争にて、敵国を完全に無力化する最終兵器カルネアの栄光を投下した。だが、ラヴェンシア帝国からも同時に衛星軌道からの魔導兵器レフールの槍を投下し同時に滅んだ。ラヴェンシア帝国は帝都住民が魔獣化し、中心から滅んでいったのだ。そして周辺に残った人々が数千年という期間を経て再び国家を再建した。だが、その際には大部分の魔導技術は失われていた。僅かにラヴェンシア帝国最終兵器であるレルールの槍がそのまま神格化し、その名称そのものが国家を支える宗教として残ったのだ。


周辺に残った人々が人として保っていられた原因、それは自らの体内に存在する魔力の低さ故であった。魔力が低い故に、カルネアの栄光による生態系改変の影響をあまり受けなかった。結果としてラヴェンシア大陸に存在する人々は魔力が低い状態が代々受け継がれ、以前に居たラヴェンシア人としては規定数値以下の魔力しか持たない者ばかりとなっていたのである。故にこのシステムが再度の稼働を行った場合においても、以前のようなラヴェンシア帝国を滅ぼす程の能力が発揮可能かどうかの土台が、今の大陸に存在するかどうかは情報不足で判断が出来ない。今、ここに居るドムヴァル兵を見ても、思考波を受け取れるレベルの魔力を持つ者は一人しか居ないのだ。その為に、システムは慎重に判断した。


『フース二等兵,ワタシハ今貴方方ガ遂行中ノ戦争ヲ終結サセル能力ヲ持ッテイマス.ワタシハ貴方方ノ力ニナル事ガ可能デス』


「……戦争を終結させる能力だと? ガリンストフ少尉、こいつなんか変な事を言い出しました!」


「戦争終結か……具体的にどういった方法で終結させるのか聞いてみろ、フース」


「了解です。……その前にお前を何と呼べば良いんだ?」


『ワタシノ簡易名称ハかるねあノ栄光しすてむデス』


「カルネアの栄光だぁ? 面倒臭いからカルネアと呼ぶぞ。それでどういう方法で戦争を終結させるんだ?」


『ワタシハ魔獣達ヲ,アル程度こんとろーるスル事ガ可能デス.例エバ……』


「魔獣をコントロールする事が可能……だと……?」


ふとガリンストフ達が後ろを見ると神殿の外は夜の帳がすっかり降りていた。その入り口付近には闇の中から神殿の明かりを反射させながら様々な魔獣の群れが集まっているのが薄っすらと見えた。だが、一向に自分達に襲い掛かってこなかった。


・・・


遂に3日目の朝を迎えた先頭集団を抱える第二キャンプは熱気で溢れていた。

あと30kmの行程を残すのみとなった彼等は、一刻も早くこのキャンプからサライ国境へと目指したかったのだ。だが、まずは退路に彷徨う魔獣と森を焼き払わなければならない。その為、早朝から6機のアパッチは爆音と猛烈な風を巻き起こしながら、東の森に飛んで行き搭載したロケット弾を以て魔獣達の地獄を作り続けた。


早朝に飛び去ったアパッチは弾薬を使い果たすと再び第二キャンプに戻り補給を済ませては再度の爆撃に向かった。そして3度目の爆撃が終了するとサライ国境に向かって飛んでいった。サライ国境内側には自衛隊が建設した簡易飛行場と弾薬が集積されており、最後の退路を繋げる出撃の為にサライに設置した簡易飛行場へ向かっていった。そして第二キャンプでは、佐藤一佐が田所曹長と打ち合わせていた。


「これまでの進捗は?」


「現在退路上で残存する魔獣の支配地域はサライ城壁から5km程度です。恐らくはあと1回の攻撃によって道は繋がるでしょう。退路が開通したならば浮遊機を飛ばす事も可能となるので、一気に退却は進むモノと思われます」


「そうか。……漸くだな。魔獣の動きはどうか?」


「現状で昨日と変化ありません。意思や目的を持った動きでは無く、ただ彷徨っている様に見えますね」


「ただ彷徨っている、か……」


佐藤は当初に見せた魔獣の動きが気にかかっていた。

魔獣達は目的を持って城壁に攻撃を仕掛け、そして中に雪崩れ込もうとしていたのだ。それは明確に魔獣達に目的がある事を示していた。即ち、城壁内に居る人間を抹殺する事だ。そして包囲されていたドムヴァルとコルダビア軍も、後方遮断した上で途中の脱出経路は念入りに魔獣によって分断されていたのだ。それが、ある瞬間を境に魔獣達の行動が全く変わってしまった。佐藤は、この魔獣の行動には何等かの、いや何者かの意志が介在していると睨んでいた。その為に、いつ何時に再び魔獣達が意志ある行動を取り始めるかが最大の懸念だったのだ。それ以外にも最後尾集団の食料問題も懸念事項ではあったが、退路が完全に開通してしまえばどうとでもなる問題だと判断していた。


「佐藤一佐、その……もう魔獣は完全に障害となり得ないのでしょうか?」


「どうしてだ、田所曹長?」


「いや、どうにも突然過ぎて分からんのですよ。あれ程に統率が取れていた魔獣共が、ああも呆けた行動に突然成り果てるのは納得が出来んのですよ」


佐藤は疑問と思っていた事と同様の疑問を田所も抱いていた事に、内心面白いと思いつつも質問に答えた。


「ふむ……曹長、納得出来るか出来ないかはこの際置いておこう。問題は再び魔獣共が統率の取れた行動を行い始めた場合にも直ぐに対処可能な状況を保つ事だ。今の所、それは上手くやっている様に見えるが、君の判定はどうだ?」


「そうですね、確かに。現在我々が掃討している方法は、当初の統率が取れていた状況を前提です。恐らく魔獣が統率を取り戻したとしても対処可能な状況を維持すると判断しております」


「そうだな、自分もそう判断している。それはそうとして例の二人はどうだ?」


「例の二人は……そうですね。何か色々悪い事を考えているのかもしれませんね。予想よりも彼等の心は折れなかった様です。何かもっと圧倒的な何かを見せない事には、彼等の我々に対する評価も変わらんかもしれませんね」


「そうか……まぁ、それは脱出してからだな。状況を確認した上で、ヴォートラン兵を前に出すぞ」


「了解です」


こうして佐藤隊長の確認の上で残り30kmの最後の行程をロドーニア特別調査隊は踏み出した。


毎度お読み頂き感謝です。ブックマークなどして頂けると感謝の極みです。


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