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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_96.コールガスの見積もり

佐藤はサライ国境に向けて、やや北東方向に退路を再設定した。

それは南下する魔獣の移動速度に合わせて、脱出路を進むドムヴァル軍やコルダビア軍がなるべく魔獣との遭遇を避ける為だった。その先頭をアパッチがロケット弾で切り開き、ヴォートラン兵が残存した魔獣達をカラニシコフで掃討する。魔獣達の動きは統制された物ではなく、その動きも緩慢ながら降り掛かる火の粉を避けようと逃げ惑う動きとなっており、且つロケット弾によって攻撃された森の消失地域には魔獣が殆ど近寄らなくなった事が判明した。ただ、南方の森に戻ろうとする魔獣達を阻害するように退路がある事から、その退路上に彷徨い出る魔獣の数は一定数居たが、直ぐに周辺警戒で飛ぶ哨戒浮遊機に捕捉されて北方に追い返されて居た。


こうして脱出二日目を終える頃には退路先頭は包囲陣地から70km付近、つまりサライ国境までは残す所30km程度となっており、そこで第二キャンプを設置していた。当初アパッチの攻撃風景をUH-1Jから見せられていたコールガス達は二日目で第二キャンプ開設に立ち合い、そのまま第二キャンプに滞在する事となった。


「おい、エルネスキ。この第二キャンプとやらだが、既にサライまで30kmを残すだけだそうだ。このまま進めば明日夜にはサライに入る事になるんだろう」


「うーむ……本当にここまで進むとはな。なんか新しい情報掴んだか?」


「そうだな……ちょっと待ってろ」


コールガスは荷物から手帳を取り出してパラパラとめくり始めた。

その手帳にはびっしりと細かい文字で、コールガスが見知った情報を書き込んでいた。


「今の所、脱出組先頭はニッポン軍とロドーニア軍、そしてヴォートラン軍の共同戦力が道を切り開いている。だが、この脱出路後方にはドムヴァルの浮遊機が入り込んでいる。その数は今や12機を数えていた。それが包囲陣地から退路までを上空警戒し、この浮遊機が対処不能な魔獣が現れた際には、ニッポン軍の浮遊機が駆け付けている。これらの相互連携はニッポン軍が供与した通信機による物だ。これは魔導の森から発せられる通信障害を受けないようだ」


「ああ、あれな。どの程度の通信距離があるんだろうな。その辺りはタドコロに聞いたか?」


「タドコロ? あいつ笑って答えねえんだ。まぁそれなりに結構な距離飛びますよ、とか言っていたな。ただ、ここまでのキャンプと包囲陣地までの距離は70km程ある。その間で通信可能なら最低限、それだけの距離は通信可能なんだろう。それにしてもニッポン軍は他国との共同作戦に相当手馴れているな。それぞれの軍が有機的に行動して最大効率で敵を排除している。これが魔獣に向いている内は俺達の脱出も容易である事は想像に難くないが……」


「ああ、あれが俺達連合に向いたのなら厄介だな……」


「そうだ。この連中のヤバい所は兵器の質や内容も当然だが、ここに利用出来る物を即座に最大効率で利用可能にしている点が最もヤバい。つまり見知らぬ兵器やその能力を判定して何に使えるかを理解した上で利用している。これの意味する所は……」


「……意味する所は、何だ?」


コールガスは言い淀んだ。

コールガスはニッポン軍が極々少数の部隊しか派遣していない事を把握している。我々ヴァルネクの基準で言っても恐らくは中隊程度の規模にしか過ぎないだろう。幾ら他国と連携しながらとはいえ、たったの中隊規模で壊滅に瀕した軍集団の脱出を成し遂げようとしているのだ。これらの能力を以て連合対同盟の戦いに介入した場合、今迄優位に進んでいたヴァルネクのラヴェンシア大陸統一戦争は灰塵に帰する事になるだろう。


そもそもヴァルネクの戦略としては、大陸中央に横たわる魔獣の森への対応は全く考えられていなかった。何故ならば魔獣の森に手を出せば今のような状況になるからだ。つまり魔獣の森を避け、大陸北方を制圧した後に中立国をゆっくりと併呑乃至は属国化するという手筈だった。だがニッポンは魔獣に対して効果的な兵器を所有している。しかも、ここに居る中隊規模でさえなのだ。つまりは、この魔獣氾濫の収束後に再び同盟との戦いが始まる際に、新たにニッポン軍が参戦してきたなら……


「いや、何でもない。だが本国はニッポンの事を知っているのだろうか。我々に敵対する可能性が極めて高い、これ程危険な国が存在している事を……」


コールガスは、既に本国がニッポンと接触している事を知らなかった。

だがヴァルネク本国における日本との接触はとても友好的とは言えない結果に終わっていたのだ。既に外交部のツェザリ長官がテネファで行っている交渉は、成果も無い上に途中で魔獣の氾濫によって中断していた。この交渉中断は魔獣の氾濫が収まった後に再開される見込みも見えない状況だが、コールガスはその事を知らない。


「だがよ。結局ニッポン軍の手に余ったからドムヴァルの浮遊機やら何やらを呼び寄せてんだろ。という事は、思うにそれだけの兵力を派遣するだけの能力は無いって事じゃねえか? 幾ら優れた装備を持ってたとしても、過小兵力しか展開出来ないのなら、余り恐るべき危険な国って事も無いとは思うが」


「ああ、杞憂に過ぎんのなら良いんだが。何れ俺達がこの包囲から脱出し、尚且つサライから本国に帰れたならばの話なんだが、そもそもサライ……というか同盟がコルダビア軍をそのまま国に返すとも思えんしな。ある程度高級将校は何だかんだとサライに抑留される事になるんだろうさ」


「……コールガス、俺達はどうなるんだ?」


「ニッポンの言い分、というかタドコロの言い分だがニッポン側の能力を存分に俺達に見せつけた上で、逆らう気持ちをへし折るという方針みたいだぜ。だがまぁ俺の見立てでは多少俺達と違う装備であるのは間違い無いんだが、全く手に負えんという事も無い。これは目で見た範囲の話だがな。例の音速を超える浮遊機なんぞが本当にあるのなら、それは流石にどうにもならんが、今ここに来ていないという事は何等かの制約があるんだろう。とするならば、俺達は無事にヴァルネクまで戻ってありのままを報告する以外に道は無い」


この時点でのコールガスの日本に対する見立ては、現実に自分の目で見える範囲でしか無かった事から多少実際の実力からは割引かれた状態だったのだ。だが、その後にヴォートランに派遣されているジグムントが日本に行った際に入手した情報とを照らし合わせた時に、その見立ては大きく間違っていた事を確認したが、それらは既に後戻り出来ない状況で知る事となったのである。


・・・


コルダビア軍の魔導結晶石の在庫は潤沢だった。

その為にドムヴァルからの浮遊機に対して潤沢という言葉以上に魔導結晶石が包囲陣地内では支給されていた。既に脱出組の第一梯団であるドムヴァル軍は70km先まで進んでいたが、最終である第11梯団のコルダビア軍は未だ包囲陣地内で出発待機状態にあった。それぞれの梯団が10km毎に小さなキャンプを設営し、30km地点での第一キャンプと70km地点の第二キャンプでは自衛隊への燃料弾薬が補給可能な状況となっていた。つまり包囲陣地内には第7梯団から第11梯団までの凡そ4万人が未だ出発待ちの状況だったのだ。そして、これらの出発待ち集団に関して一点問題があるとするならば、既に食料が尽きかけた状況にある事だった。


この問題に関してリュートスキ大佐は補給担当のオヴァルトフ大佐と話し合った結果、未だ出発待ちの部隊に優先的に食料を配給し出発が近い梯団には少なく配給していたが、いよいよその限界は近づいていた。


「リュートスキ大佐、予定よりも第7梯団以降の出発が遅い。このままで行くと今夜も包囲陣地内で過ごす事になるが、食料の配給は今夜が最後だ。ニッポン軍かドムヴァル軍に掛け合って何とかならんか?」


「……ううむ、サトウ隊長には掛け合ってみるが……何分にも脱出の為の資材を優先しているからな……」


「そうは言っても兵に食わさなければ士気も保てん。一応、今の時点での兵の関心は脱出に向いているが、明日からの脱出行では脱落者が出るかもしれん。何しろ100kmの行軍だからな……」


「確かにそうだな……ウェヴァー中尉、サトウ隊長を呼び出してくれ。至急の要件だと」


こうしてリュートスキは佐藤に食料の件で相談を始めた。

そこで佐藤一佐は当初サライ国内の浮遊機を脱出路に運んでいたチヌークを、急遽食料を積んで包囲陣地内に落とす事で食料問題の解決を図った。その為、脱出路に運ばれた浮遊機は12機の段階で頭打ちとなり、これらの回廊警護には少々心許ない数ではあったが、現状の魔獣の動きを見る限りそれほど危険は無いだろうと判断していた。


そして3機のチヌークは2日目の遅くに4万人分の食料を運んだ。食料といっても4万人分なのだ。1回に消費される食料は30トン近くにもなる。チヌークは積載ギリギリの10トンの食料を積込み、包囲陣地まで飛んで陣地に下した。こうして包囲陣地内での食料問題は1日分だけ引き延ばされた。


だが、脱出開始から二日が経過しているにも関わらず先頭集団はサライまであと30kmの距離なのだ。つまり最後尾集団は少なくとも脱出を開始してから3日は食料問題に悩まされる事になるのだ。そしてサトウの口ぶりでは頻繁に食料を運ぶ事も出来ない雰囲気をリュートスキは感じた。それもそうだ。食料を運んできたニッポンの浮遊機は、そもそもドムヴァルの浮遊機を脱出路に運ぶ事を優先していた。つまり食料を運ぶ事を選んだ時点で、細く長く伸びた退却路の防衛をしている浮遊機に負担を強いる事になってしまう。包囲陣地内に浮遊機の数が増えれば増える程に、退却する道は安全となる。食料を運ぶ時点で安全と引き換えとなっているのだ。既に脱出する目途は立ってはいるものの、未だ包囲陣地内に留まるリュートスキ大佐にとって、ここの状況はそれ程好転した様には見えない。


「取り合えず食料の問題はこれで1日は大丈夫だ。だが……」


リュートスキ大佐の胸中では眼前の食料問題、そしてバリンストフ少佐から聞いたヴァルネク連合が行っているという人間を魔石化するという話に関する問題。この二つが重くのしかかっていた。


魔石化か……確かにこの戦争はラヴェンシア大陸におけるレフール教への教化を主目的として始まった戦争だ。だが、副次的な効果としてヴァルネク連合が併呑した諸国の魔導結晶石を接収し、更に戦争を継続する為の資源として活用している。そして我々は接収した以上の補給を潤沢に受けている。この包囲陣地内にあっても食料は無くなりかけているが、魔導結晶石自体は有り余る程だ。そうだ。我々は併呑した諸国の人間を全て後送していた。それは兵士以外も同様だ。だが、これまでの戦争で兵士以外を後送する様な事などあっただろうか? ヴァルネクは送られた人間にレフールへの教化を目的としていると今迄は考えていた。だが、果たしてそれは本当なのか?


リュートスキ大佐の謎は深まるばかりだった。

だが仮にヴァルネクが実際に人間を魔石化していたとして、自分に何が出来るのか。

コルダビア第二打撃軍の臨時司令官という今の立場も、国に戻れば別の司令官が配属される。自分は再び作戦参謀辺りに落ち着く事だろう。だがこの事実が本当なら、自分はヴァルネク連合軍所属の軍人として、我々コルダビア軍を助けてくれたドムヴァルやニッポンと戦う事が出来るのだろうか……


脱出作戦が始まった二日目の包囲陣地は静かに暮れていった。


何時もお読み頂き感謝です。

宜しければブックマークとか評価頂けるとやる気出ます。


週末は納車になったカローラクロスで500km程走ってきました。

なんというかカローラ。凄い普通に良く出来てる車でした。

遅いとかここ一番の力無いとか車高高いので横風に弱いとかは納得済みなんですが

高速走ると燃費物凄く悪いのはどして?(平均16km/㍑位)

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