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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_94.停止の影響

その日、第一次キャンプ周辺に異変が起きた。それは今迄一定期間安全が確保されていた筈の第一次キャンプ周辺に魔獣が現れたからだ。周辺警戒をしていたヴォートラン兵から魔獣襲撃の第一報に第一次キャンプ内は騒然となった。そして直ぐにその報告は佐藤一佐の元に届いた。


「佐藤一佐! 第一警戒線に数匹の魔獣が接触しました!」


「なんだと……確かか? 今迄に無い動きを動きをしている様だが……その侵入した魔獣は今迄とは違う奴か?」


「いえ、今迄に遭遇した奴と同タイプの奴でした」


「同じタイプなのか……変だな……此処までの道の状況はどうなってる?」


「今、ユーワン飛ばして確認に行っています」


「そうか。どんな内容でも構わんから新しい情報が入り次第、こちらに報告を上げろ。その他は周辺警戒し、侵入する魔獣を撃退する。アパッチの離陸準備はどうか?」


「はい、準備出来ています」


「良し、……2機飛ばして第一次キャンプ周辺で近づく魔獣を掃討しろ。それからバリンストフ少佐とマィニング大佐を呼び出せ。モンラード大佐の部隊どうなっている?」


矢継ぎ早に指示を飛ばした佐藤一佐は、今迄把握していた魔獣の動向と全く違う動きに状況把握と分析を急いだ。そしてマィニング大佐とバリンストフ少佐、そしてモンラード大佐を集めて状況の説明を開始した。


「朝からお集まり頂き感謝します。さて、現在の状況を説明します。今迄の魔獣の動きはある程度法則性を伴った動きをしていた事から、それに基づいた対応を行ってきました。ですが今朝の魔獣の侵入に関して、今迄にあった様な法則性を感じられない。その証拠がこれです」


佐藤はモニターを表示し、第一警戒線周辺に現れた数匹の魔獣の姿を映し出した。

モニターに映し出された魔獣は、どこに行くとも無くフラフラと警戒線周辺を彷徨っており、すぐさまヴォートラン兵による射撃の的となって倒れて動かなくなった。だが近くに居た別の魔獣はそれを気にする事も無く、倒れた魔獣とは反対の方に何の目的も無く彷徨っており、やがてこの魔獣もヴォートラン兵の狙撃に倒れた。


「……一体これがどうしたのです?」


「マィニング大佐。我々は魔獣の行動を観察し、どのような攻撃が効果的かを分析してきました。その結果、魔獣は行動に法則性を持つ事が判明し、その情報を元に今迄魔獣を攻撃しております。それが今迄の我々の対応方法だったのですが、このモニターで倒れている魔獣はその法則性に当てはまらない行動をしています。そして……それで生じる問題が数点あります」


「数点……どんな問題なのですか、サトウ隊長?」


「そうですね、バリンストフ少佐。まず1点目が魔獣に対するこれまでの対応とは異なる対応を行われなければなりません。今迄の魔獣の行動は先程も申し上げた通り、ある法則性に基づいて移動を行っていました。我々はその法則性に基づいて攻撃を行っていましたが、どうやらその法則性が今朝の魔獣には見られない事から、これまで通りの攻撃方法では効果が上げられない可能性があります」


「法則性……ですか。それはあの例の集中的に殲滅した後は一定期間、その空間に入らなくなると言っていたあの?」


「そうですね。その法則性が見られ無くなった結果として単独で魔獣が徘徊する状況が発生しています。あくまでもこれは仮定ですが魔獣は何等かの指令の様なモノを元にして動いていたのかもしれません。何故ならば今迄は集団の居る方向に向かって個別の魔獣が集団で襲撃を行っていたからです。だとすると……現在周辺を徘徊する魔獣は以前と比べて対処が容易になる可能性が高い。何故ならば目的を持って行動している集団と、ただそこに群れている集団では対処方法が全く異なる。ただ群れている集団への対処や易しい。ですがあくまでも仮説です。現状では今迄と同様の対処を続行する予定ですが」


「発言宜しいか? サトウ隊長」


「どうぞ、モンラード大佐」


「我々は第一警戒線で直接魔獣と対応している。確かに貴殿が言う魔獣の行動に統制が見られ無いのは確認済みだ。だが、貴殿の言う通りだとは思うが、その場合に起きうる問題がある。石の裏をひっくり返すと、小さな虫がわらわらと出るだろう。言うなれば、昨日までの魔獣は纏まった状態で一気に殲滅する事が可能だったが、今日からは、石の裏をひっくり返した状況が続く可能性があると言う事か?」


「……そうですね。我々も状況を確認中ですが、その可能性が高いと考えています。そして2点目の問題なのですが、モンラード大佐が仰られた通り、石をひっくり返して小さな虫がわらわらと出た場合、個別にこれらを攻撃するとなるとどうなるか? 我々が持つ弾薬が足りるかどうかの問題が発生します」


「ああ、つまり今迄の様に纏めて殲滅出来なくなるという事か…」


「そうですね。そして三点目に今迄我々が切り開いてきた退路に関して。この退路、そしてここ第一次キャンプも共に是迄の様に安全では無い可能性が高くなりました。恐らくは残り70kmの道程は今迄の様な砲撃と爆撃によって道を切り開いて進む方法の効果が低下し、また後方の安全や出発点である包囲陣地も魔獣の侵入が発生する可能性があります」


「成程……サトウ隊長、そうなった場合はどうする御積りか?」


「そうですね……もし仮説の通りであるならば、全体の行軍速度を上げて残りの道程を一気に駆け抜けねばならんと思っています。そして脱出集団両側の防御に関しては、ヘリを飛ばしての防御となるでしょうが……とても100km全部を守る事は出来ません」


「すると……やはりある程度の犠牲が発生するという事だな」


佐藤一佐が今ここに持ち込んだ航空兵器群はアパッチが8機、チヌークが3機、そしてUH-1Jが1機だ。そして当初ロドーニア調査隊の任務は調査だけだったが、魔獣の氾濫とそれに伴うヴァルネク連合軍と同盟軍両軍の休戦によって日本国としてPKFの派遣が容易になった事から、急遽増援としてこれらの戦力と人員も増強されたが、とても100kmの退路を守る戦力には足りない。そして飛行場も無いサライ王国には航空戦力の派遣も出来なかった。つまり追加の戦力は望めない。

佐藤は今迄通りの魔獣の行動原則を期待したが、その後に来たヘリによる偵察結果はその希望を裏切った。


・・・


ヴァルネク北部防衛要塞は、トルロフ大佐収納時の騒ぎによって国境守備隊の一部に被害が出た。そして収容されたトルロフ大佐が率いるヴァルネク第三軍残余のトルロフ旅団は僅か5名を残して城壁外で全滅した。北部防衛要塞責任者のウーラ少佐は、生き残りのトルロフ大佐と防衛軍本部監査室から来たレマグーン准将によって板挟みの状況となっていた。レマグーン准将からは開けてはならない北部防衛要塞の門を開けて国境守備隊に被害を出した件に因って責を問われた実際の所、簡易軍事法廷によってトルロフの件は軍命に背いた命令違反に関する部分については有罪となった物の、その理由が友軍の救助であった事が情状酌量されて2階級降格と北部防衛要塞司令職の罷免で済んだウーラ少佐ではあったが、中尉となったウーラ少佐の前には生き残ったトルロフ大佐が待っていたのだ。


「ウーラ少佐。…いや中尉になったんだな。法廷は終わった様だな」


「……トルロフ大佐!」


「少し話をしようか、中尉」


「わ、私は命令違反を犯してまで大佐を助けたんですよ!? その為に降格処分と要塞司令を罷免されました。これ以上私に何を要求する御積りですか!?」


「そうだな。それについては感謝しているよ、中尉」


「では……一体なんの御用でしょうか?」


「トルロフ旅団はほぼ完全に壊滅した。その為、北部で再建を図りたいんだがね。既に第三軍のエウゲニウシュ将軍からの許可は得ているのだ。我が旅団は兵力補充をここ北部で行う」


「兵力補充……まさか!?」


「そのまさかだよ、中尉。君を私の旅団に配属したく思うんだが」


「それは……拒否する事は可能なのでしょうか?」


「ほう、そうかね。拒否するかね?」


「……いえ。謹んで拝命致したく……」


「殊勝な事だ、ウーラ少佐。私は君の自らの地位を顧みず我等旅団の5名を救ってくれた君を大変高く評価しているのだよ。それが故に、君の軍法会議が終わるまで君への接触を待っていたのだよ」


「……なんて事に……大佐、自分は……自分のした事は間違っておりましたか?」


トルロフはウーラ中尉の問いに答えず、曖昧に笑うだけだった。

そしてウーラ中尉がトルロフ旅団への編入に伴い、北部要塞で訓練に明け暮れていた時に、それは起きた。サライ国境周辺の魔獣が統制を失ってまるでバラバラに動き始めた様に、ここ北部要塞周辺に現れ執拗に城壁を攻撃し続けていた魔獣達が目的を見失ったかのように茫然とし始めたのだ。

取り合えず短いながらも9日更新。

次の予定は金曜です

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