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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_81.包囲外の動向

お久しぶり更新です。

魔獣の森が氾濫し、あらゆる戦闘が中断した状態のままヴァルネク本国に引き返したヴァルネク陸軍の面々は、直ぐにヴァルネク大聖堂の近くの軍本部に招集された。そこには戦争に関わるヴァルネクの重鎮達が一堂に会していた。この本部内で一様に先行きの見えない状況に不安を隠せない表情の中、ギラギラと血走った目で一点を見つめるボルダーチュク法王の姿があった。


「一体状況はどうなっておるのだ、マキシミリアノ!」


「はっ…現在我がヴァルネク軍主力である北方軍の第一軍大多数はヴァルネク国内への収容が完了しております。中央軍の第三軍も同様に収納完了しております。そして南方軍の第二軍はドムヴァルから教化第一艦隊が救出に成功しており、海路にて明日には到着する見込みで…」


「そんな事は分かっておる! 問題は連合諸国だ。我々だけが撤退に成功し、諸国を見殺しにしたとなれば連合瓦解の可能性もあるのだぞ。他国の撤退状況はどうなっておるのだ!」


「ドムヴァル主攻を担っていた我が第二軍撤退に伴い、その補給を担当していたソルノク方面のエストーノ軍は魔獣の襲撃により壊滅、北方戦線でドムヴァル軍と交戦していたコルダビア軍がドムヴァルのイメド回廊内で孤立しており、一時的に同盟軍と休戦した上で両軍が魔獣の対処に当たっておりますが…」


「おりますが、何だ?」


「恐らくは両軍共に補給も救援も無い状態で戦っているが故、状況は絶望的かと…」


「そうだ、それを言っておるのだ! フランシェク国王からは矢の催促が来ておる。何時、コルダビア第二打撃軍救援に向かうのか、とな。そもそも孤立したコルダビア第二打撃軍からの救援要請にて判明しておるぞ。我がヴァルネク第二軍撤退の時間稼ぎに使われたとな。それが正しいかどうかは問題では無い。例えそうであったとしても、我らが奴等を救援したとなれば挽回も可能だ。だが、このまま救援も出さずに見捨てたとなれば、コルダビアが連合離反する可能性もあるのだ。これをどうする積りなのだ!」


「然し乍ら猊下、既に我がヴァルネク北部城壁にも魔獣が出没しており、陸路からの救援は絶望的な状況にあります。魔獣の種類によっては我等の兵器が効かぬモノも居り、救出の可能性を探ってはおりますが現実的な対処方法がありません」


この会議には一足先に聖都に戻っていた第二軍司令グジェゴシェク将軍も同席していた。グジェゴシェクはこの発言を聞いて、そもそもはコルダビア軍を犠牲にして第二軍を救うに至った法王との会話を思い出していた。そして、この魔獣の氾濫はコルダビア軍のドムヴァル軍包囲が発端となった事から、この事態を招いたコルダビア軍を攻めこそすれ、コルダビア王フランシェクからの抗議は形だけのモノであろうと思っていた。それに確か法王はコルダビア軍の戦力を削いでおく事で戦後を有利に展開する腹ではなかったのかと。その為、あくまでも救援を行うポーズを取りつつも見殺しにするだろうと考えていた。そこで口を開いた親衛軍のマキシミリアノも当然その事も知っている筈だが、この茶番の目的は何だ……? だがこの後の展開で、その疑問が判明した。


「兵器局は! 魔獣に効きそうな兵器は無いのか!」


「発言の許可を願います、猊下、兵器局のメーシェです。今の所、魔獣に有効な武器の類は我々は所有してはおりません。ですがサライ国境近辺で奇妙な状況を観測いたしました。魔導潜航艦隊司令グンドラフ中佐からの報告ですが、彼等が新規に受領した新型魔導潜航艦による慣熟訓練でドムヴァル北方海岸周辺での偵察を行っていた際での情報です」


こう言って兵器局の局長メーシェは、数枚の写真とレポートを皆に配り始めた。

潜水艦の潜望鏡から写したと思われる写真は粗削りではあったが、同盟軍の上陸艇数隻がドムヴァルの海岸に上陸し、橋頭保を確保した後に、サライ国境城壁に取り付いた魔獣に対して攻撃を行っている様子だった。これを見たグジェゴシェクは、直ぐにメーシェに質問を始めた。


「この上陸した軍はどこの軍だ? 奴等が魔獣を攻撃しているこの武器は何だ?」


「上陸に使われた船舶はサライの旗を掲げておりました。ですが、この写真から上陸した軍がどこの物かは判明しません。この撮影された兵士達はあまり見慣れない恰好をしていた事から、どこか同盟以外の国の軍が関与している可能性もあります」」


「どこか他の国の軍だと…?」


この潜望鏡から撮影した写真自体は画像が荒すぎて詳細が分からない。

だがここでボルダーチェクが真っ先に思い浮かんだのは日本軍だった。そしてその可能性と脅威の大きさに、もしこの上陸した軍が日本軍であるならば、現在遂行中の戦争が望まぬ形で終結する可能性に恐怖した。


「可能な限り早急に、このドムヴァルに上陸した軍がどこの国の者かを探れ。それと兵器の情報もだ、マキシミリアノ。それとコルダビア第二打撃軍の救出を併せて進めよ。もしも同盟側がコルダビア第二軍を先に救援する事にでもなれば、それも連合瓦解の遠因となるかもしれん。同盟の動きも注意せよ」


この命令をボルダーチュクが発した後でグジェゴシェクは考えていた。

もし、上陸した軍隊がニッポン軍であった場合…それはつまり、ニッポンが既に16ヵ国同盟に与した事を意味する。彼等が持つ海軍力は噂通りであれば到底ヴァルネク連合で対抗出来る可能性が薄い。彼等日本の海軍がこの戦争に関与した場合は、ほぼ制海権を失う事となるだろう。だが、戦争は海だけが戦場では無い。内陸での戦いに引き込めば、補給線の長さから彼等の矛先も鈍る筈だ。ここラヴェンシア大陸の大きさそのものが我等の武器となる。


…だが、それも魔獣が居らぬ場合の話だ。

我がヴァルネク連合側に魔獣に対して有効な武器が無い以上、この難局をどのように切り抜けるか。そもそも魔獣を相手にしつつ、ニッポンを加えた16ヵ国同盟との二正面は絶対に戦えないだろう。仮に同盟軍との戦いに勝利した後でも、魔獣共にどう対抗すれば良いのか。グジェゴシェクはともかくも全ては魔獣の波が引いて後の事だがと思いつつも、正解の無い袋小路に嵌り込んでしまった気がしていた。


「救出の方法だが、何か良い案は無いか? 浮遊機での脱出は不可能なのか?」


唐突に話を振られた航空浮遊軍司令アロスワフは、微妙な顔をしながら答えた。


「部隊の一部は可能でしょうが、全てを救出するのは不可能です。我々の輸送用浮遊機では1回に精々が最大50人程度に過ぎず、高級将校の一部や負傷者を脱出させる事は可能かと。ですが高級将校脱出を優先した場合、残された兵の士気はどん底まで落ちる事でしょう。それは即ち防御陣地の崩壊に繋がるかと…。それと最大の問題は、コルダビア軍が構築した防御陣地までは相当に遠く、最も近い場所でサダル国突端部にしか安全地帯はありません。ですが、このサダル突端部も何れ魔獣に呑み込まれる事でしょう」


「そうか…航続距離か…確かにそうだな。どうしたものか…空爆も効果は無いのか?」


「空爆も、先程に上げた理由により出撃は難しいでしょう。例え空爆に効果があったとしてもイメド回廊まで飛ぶ事が可能な機体がありません。航続距離が足りないのです」


包囲されたコルダビア軍はサライ王国の全面で小さな円挿絵(By みてみん)を形成していた。ここに至る為には魔獣の氾濫地域を横切らなくてはならず、尚且つ海岸線からも遠い。寧ろサライ王国からは目と鼻の先のようにも地図上で見えるにも関わらず、サライからの救援部隊が出た気配も無い。それは即ちサライに集まる同盟軍兵力では前面の魔獣に対抗出来ない事を意味している。会議に参加した面々の顔は重く沈んでいたまま、時間だけが経過していた。


・・・


ロドーニア特別調査隊に同行する謎の小隊の部隊長から呼び出しを受けたヴォートラン軍のモスカート大佐とロドーニアのマィニング大佐は謎の小隊が野営する所まで行った先で、そこで初めて謎の小隊の部隊長は身分を明らかにしたのだ。


「自分は日本国自衛隊所属の軍人です。便宜上は、佐藤とお呼び下さい。今回は対魔獣での効果確認という事で極秘裏に調査の為に派遣されております。我が国の交戦規定上、対人戦闘には加わる事が出来ませんが、対魔獣戦闘に関しては全力で戦う所存でおりました。ですが…」


モスカートとマィニングは固唾をのみ込み話の続きを待った。


「ですが…現状の状況と、進路に待つ魔獣の密度を考えると我々の弾薬が持ちそうにありません。まずはこれをご覧頂きたい」


そういうと佐藤隊長は手元のノートパソコンを二人に見せた。そこには今居る自分達の上空からの周辺地図が表示された。そしてその図をどんどん広範囲に広げ、そして向かうべき先の状況が映し出されていた。


「これは我々が偵察した現時点での状況を映し出しています。恐らく、この先15km程で中型魔獣の群れが居り、これは我々の火力で対処が可能でしょう。ですが、この更に先の50km程先には大型の魔獣が複数居り、これは我々の火力で対処可能かどうか不明です」


ノートパソコンを見るのも初めてなら、この先の情報をどうやって入手し、しかも現時点の情報として今見せられている事に二人は困惑していた。


「さ、サトウ隊長、これは一体…? これは、この先の今の映像なんですか? そんな、どうやって??」


隣で驚くマィニング大佐を後目にモスカート大佐は昨晩見た暗視装置を思い出していた。彼等の装備には色々と見知らぬ機器が揃っているが、その殆どが後で性能を聞いて驚くモノばかりだったのだ。それもあのニッポンの事ならさもあらん、と半場分かったような分からないような不思議な納得をしていた。


「これはこの先50kmに飛ばしたドローンによる今の映像です。そして恐らくは我々がこの先で出会う魔獣の姿がコレです」


そこには巨大な人型の魔獣の姿があった。サライの城壁も映っていた事から近くに居た巨人のサイズ感が分かる。身の丈凡そ40m程で、城壁の高さにやや足りない程の巨人達が城を力任せに攻撃しようとしている姿だ。よく見ると、人の様な形をしているだけで、人間とは似ても似つかぬ気味の悪い姿をしている。言わば、人に良く似せた形状を持った人形が動いているかのような印象を受けたマィニングは、思わず浮かんだ疑問を口にした。


「魔獣の活動は夜間に限られると聞いていたが…この巨人は昼間にも行動する様ですな。サトウ隊長、今後の作戦を伺えますかな?」


「…我々は一度撤収します。改めて装備と補給を行った後に、再度ここに来ます。最速で3日程度だとは思いますが…その間、ここをどうするかを相談したい。失礼を承知で申し上げますがここは魔獣の勢力圏であり貴軍の装備だと三日と持たぬでしょう。」


そりゃそうだ、とモスカート大佐は思った。彼等の様な夜間戦闘装備があるなら未だしも、夜になれば視界は相当に制限される。火を起こせば緑の魔獣が火を求めてやって来る。この魔獣を対処するならば未だ良いが、足の早い魔獣が来たらあっという間に恐慌を来たして部隊全滅は必至だ。如何に魔獣に有効な武器を持っていたとしても、見えず、当たらずでは戦いにならない。


「ああ、それは理解している」


「そこで我々の部隊の一部を割き、装備と補給を取りに戻らせます。特別調査隊全体としては、一端50km程北に後退した上でそこにベースキャンプを築きます。あの魔獣の動きから50km以上の空間があれば、それなりに交戦は避けられるでしょう。我々の本国にも既に了承を得ております。後は当部隊指揮官であるマィニング大佐と実戦部隊であるモスカート大佐の了承を得られれば、直ぐに実行したく思っております」


「了解した。参考までに聞くが、何か追加の装備を運ぶつもりなのかね?」


マィニング大佐は、彼の口ぶりから先程映像で見たあの巨人に対抗する武器や方法が恐らくあるであろう事、そしてその武器が一体どんなモノなのかを知りたがった。だが、佐藤隊長からの返答はにべもないものだった。


「大変申し訳ありませんが、申し上げる事は許可されておりません。ではマィニング大佐、モスカート大佐。この件は了承されたと判断して宜しいですかな?」


「あ? …ああ、了承だ」


こうして日本から来た謎の部隊の半分程を残した上で、急ぎ呼び寄せた浮遊機に乗って戻っていった。

昨年末に身内が亡くなりバタバタしておりました。

取り合えず、ぼちぼちと更新再開しようと思います。

宜しくお願いします>皆様

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― 新着の感想 ―
[一言] 再開、ありがとうございます ご身内、お悔やみ申し上げます。 ご自愛ください。 更新はマイペースでゆっくりどうぞ (一度UPしたのですが間違えて削除したので再送です)
[良い点] 更新再開ありがとうございます
[良い点] 更新その他、諸々お疲れ様です。お帰りなさい。 好きなときに、好きなペースで、好きなだけ書いてくださいね。 いよいよ魔獣と謎の国ニホンの衝突、実に楽しみです。 というか魔獣の侵攻速度が予想を…
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