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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_07.ヴォートラン王国への出発

ロドーニア王国では中央ロドリア海の嵐が消え去った事で、東方方面への調査を行う事が決定した矢先に、ラヴェンシア大陸西方のヴァルネク連合による東方方面への侵攻によってロドーニアはオストルスキ共和国とその同盟国に全面協力する事となった。その為にロドーニアにあるほぼ全ての戦力や人員が西方に送られて行く中、中央ロドリア海哨戒部隊のモンラード大佐と駆逐艦ロムスダールの乗組員達には何の命令も降りてはいなかった。


「艦長! 未だ我々の待機は解かれないのですか?」


「うむ、恐らく国を挙げてヴァルネク東侵の対応にてんやわんやなんだろうな。最新鋭艦やら輸送船が所属する艦隊からオクニツァに向かっている。だが俺達の様なロートル艦にはお呼びが掛からんのだよ。」


「ですが艦長! 一人でも多くの人員が必要な段階である筈です、それなのに…」


「うむ、それなのだが……恐らくではあるが、我々は東方のヴォートランに向かう事になるだろう。500年前に国交が絶えたヴォートランが果たして今も存在するのかどうか。そして何故、中央ロドリアの嵐が消え去ったのか。そして中央ロドリアの向こうに到達が可能であれば、バラディア大陸にも行く事が可能かもしれん。」


「確か、ヴォートランには長距離浮遊部隊が向かう筈だったのでは?」


「その手の類は長距離偵察にも向いているのさ。つまりは殆どがヴァルネク連合の前線に向けられた訳だ。ヴォートランに向かうには戦局に影響しない大した戦力にもならん長大な距離を移動可能な物となる。という事は、ここで待機している俺達が行く可能性が高いという事だな。」


「では、何故に我が艦に出港命令が出ないでしょうか?」


「そこまでは俺も分からんよ。それより整備は終わったのか? 何時でも出港出来るようにきっちり整備しとけよ。」


ロドーニアでは一隻でも前線に送りたい軍部側が、早急にヴォートランの所在確認や確認が出来た場合の国交回復を望む外交部が当初決められていたヴォートランへの調査部隊に割り当てられていた長距離偵察部隊を全て軍部が抑えてラヴェンシア大陸に送り込んでしまっていた。その為、ロドーニア外交部は軍部に対して強硬な苦情を入れた所、軍部から提案されたのが哨戒部隊の駆逐艦ロムスダールだった。これに対して外交部は足の早い浮遊機を希望しており船での調査部隊派遣を断った所、以降の外交部による軍部への要請は無視され続けていた。そして最終的に外交部は軍部の提案に折れ、担当の外交官スヴェレが大きな荷物を抱えてロムスダールの停泊するソレイサの港に派遣されてきた。


「いらっしゃいませ、ソレイサ湾港管理部です。何か御用でしたか?」


「駆逐艦ロムスダールの艦長モンラード大佐はどこに居られますか?」


「ん? モンラード大佐ですか? 艦の方に居られると思いますが、貴方は?」


「申し遅れました。外交部より派遣された一等外交官スヴェレと申します。外交部からの要請書を持参しました。」


「ああ、なるほど。それでは艦の方にご案内しますね。」


外交部から派遣された一等外交官スヴェレは案内された艦を見てげんなりした。遠目に見ても明らかに古めに見えたその船は、近くでみるとあちこちに補修の跡があり、確実に退役間近の老朽艦に見えた。


「こ、これが駆逐艦ロムスダールですか?」


「ええ、そうですよ。結構古い船ですが手入れはきちんとしてますよ。」


スヴェレは正直、この艦がヴォートランまでの航行が可能かどうか怪しい気持ちを払拭出来なかった。だが案内に従って艦の中を進むと艦内は意外に清掃が行き届いており、外見から受けた第一印象は多少和らいだ。


「艦長、外交部からのお客様をお連れしました。」


「ご苦労。私が艦長のモンラード大佐です。……ん? 外交部と言ったかな?」


「はい、外交部より参りました一等外交官のスヴェレと申します。宜しくお願いします。これは外交部からの要請書となりますので、ご確認願います。」


「ほう、要請書ね。見せて貰いましょう。」


要請書には外交部からの依頼で、早急にヴォートランのあるリバルータ島まで赴き、島内の情勢を確認の上で、もしヴォートラン王国がそのまま存在しているならば国交の再開を、もし別の国となっているのならば国交を結ぶよう動く事、そしてこの件に関しての輸送担当が駆逐艦ロムスダールの艦長モンラード大佐である事の軍部の命令書も同封されていた。


「ふむ……昔の海図の通りであるなら、このロムスダールでも6日で行ける筈ですな。では何時出発となりますか?」


「それがモンラード艦長、急な話で申し訳無いのですが準備が出来次第すぐに出発する様に要請されているのですよ。軍の方からは何か連絡が入っておりますか?」


「ああ、今現在は出港可能な状態で待機と命令されていますな。そちら都合が宜しければ今直ぐにも出港可能ですぞ。」


「それは有難い。では、直ぐに出発しましょう。」


モンラードは矢張りこうなったかとの思いを秘めつつ、スヴェレを客室に案内した。既にロムスダールには魔導結晶石が普段の10倍程の量が積み込まれており、往復1万キロ近い距離でも魔導石切れの恐れは無い状況で待機していた。ただ、昔の海図通りの位置にある事が前提だったが。ともあれモンラードは全乗組員に対して2時間後の出港を命じた。


そして外交官スヴェレは、この外交担当としてリバルータ島に行く事には余り賛成では無かった。それが故に、嫌な事はとっとと済ませてしまいたかった。500年前に国交が途切れた国、ヴォートラン王国。国交が途切れた辺りでは彼の国は魔法文化圏からは離れた土地であり、彼らロドーニアの民からは一段低く見られていたのだ。その為、ヴォートランと接触が出来たとしても彼らロドーニアが抱える問題の解決策に結び付くとは全く思って居なかった。そして彼らは出港して数日後にヴォートランとの接触に成功する事になるが、当初の目的よりも大きな成果を得る事となるのである。


・・・


「シュライデン閣下! 同盟の浮遊機部隊とロドーニアの魔法士の方が到着しました!!」


「おお、早かったな! 浮遊機とはやはり早い物だな。して魔法士はどちらに?」


「失礼する、ロドーニアから参りました魔法士のアベルトと申す。大統領閣下はどちらかな?」


「ああ、良く来てくれた。私が大統領のシュライデンだ、早速だが現在の戦況を説明させてほしい。」


サルバシュ大統領府の一室には大きな戦況図が置かれており、そこに援軍として駆け付けた同盟軍浮遊機部隊司令官クラトフスキと魔法士アベルトが案内された。案内された図面の前には、サルバシュ各軍の司令が居り、アベルト達に向かって説明を始めた。


「我が国の北西部と北東部から侵入した敵コルダビア軍は北方の第一防衛線を突破し、合流した上で南下を狙っている。今現在は第二防衛線前面に展開しているが、恐らくは第二防衛線を正面突破した上で、ここ首都サルバシュリアを占領しようと画策しているだろう。コルダビア軍の装備は陸軍に偏重し、浮遊機はそれ程でも無いが、何せその陸軍の数が厄介だ。ヴァルネクに比べると戦闘部隊の質は低いが何せ数に押されている。」


「ふうむ、なるほど。……どうでしょうかね、魔法士殿?」


浮遊機部隊司令官クラトフスキは魔法士アベルトに問いかけた。


「今、二手に分かれていた敵軍が一か所に集まっているという事ですな?」


「ああ、そして我が方の第二防衛線を突破しようと準備攻撃を受けている。」


「なるほど余り時間はありませんな。クラトフスキ殿、浮遊機部隊は空爆は可能かな?」


「無論。我々が持ち込んだ魔導石の量は、4,5回は連続で空爆が可能だろう。」


「ふむふむ……それではこの線に従って同時攻撃を行って頂けますかな? さすれば中央に集められた敵軍に対して私が魔法攻撃を行う下地が出来ましょう。」


「了解した。それでは時間が惜しい。早速戦場に参ろう。よろしいかな、大統領?」


「勿論頼みたい。それと陸軍の援軍はどの程度でありましょうか?」


「3日程度待って頂ければ到着します。ただ、今回の攻撃に成功した場合、敵コルダビア軍は一時的に麻痺状態となるでしょう。この3日間の空白があっても守り切る事は可能と思いますよ、大統領。」


クラフトスキはシュライデン大統領に楽観的な約束したが、楽観的な気分にはなれなかった。一刻も早く陸軍の到着が待ち遠しい。何せ、敵はコルダビアだけでは無いのだ。まだ、この方面にはヴァルネク軍は参加していないのだ。当面は楽観的な気持ちに成れないだろうな、と大統領は浮遊機部隊と魔法士の成功を祈りつつも暗い気持ちのまま彼らを送り出した。

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