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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_77.調査隊、活動開始

ドムヴァル海岸に上陸したロドーニア特別調査隊によるサライ北部城壁への攻撃は予想以上に効果を上げた。それは謎の小隊からの的確な攻撃指示のお陰もあったが比較的短かった慣熟訓練だった事を考えると、その結果を出したモスカート大佐自身が驚く程だった。そして城壁に群がる魔獣を一掃した特別調査隊は、城壁内部のサライ国境守備隊と連結した。


「予想以上の効果でしたな、モスカート大佐!」


「そうですな。私も予想以上の結果に驚いていますよ、マィニング大佐」


「それにしてもあれほど魔獣に効果があるとは……このサライ国境付近には比較的小型の魔獣しかおりません。ですが、一定数の魔導銃が効かぬ魔獣もおりまして、あの城壁に張り付いていたのは魔導銃をほとんど受け付けぬ魔獣でした。魔導銃が唯一効果があるのが開いた口の中のみである為、中々に当てるのも難しかった。あなた方が攻撃をしていたその銃は、その魔獣に対してどこに当てても効果があった様だ」


「そうですな。後でその魔導銃とやらを触らせて貰えますかな?」


「あ? いや、それは全然構いません、モスカート大佐。それと私共もその銃を触ってみたいが宜しいですかな?」


モスカート大佐は魔導銃を初めて触った後に試し撃ちを要望した所、正常に魔導銃は動作しなかった。

日本人が以前に魔導銃を撃とうとしたが、結局撃てなかったのと同様にヴォートラン人であるモスカート大佐も射撃する事が出来なかったのだ。だが、この情報は日本側が一切流さなかった事に加え、ロドーニアでも日本側からの要請によって情報秘匿を徹底した為にマィニング大佐は何故に撃てないのかが分からなかった。不思議に思ったマィニング大佐がその銃を撃ってみた所、正常に射撃出来た事から、恐らくは自分達には無い何等かの要素があるのだ、とモスカート大佐は理解した。


「どうやら我々ヴォートラン人には、この銃を撃つ事は出来ないらしい。という事は我々の弾薬が切れた場合、戦闘能力が皆無となる。我々が持参している弾薬量と遭遇する魔獣の数を考えると、今回の調査に関しての計画を再度見直した方が良いかもしれませんな。あちらがどう考えているかは分かりませんが」


モスカート大佐は視界隅に居た謎の小隊を眺めながら話していたが、そもそも浮遊機による優先的な脱出がこの小隊には約束されている事を思い出し、その際に浮かんだ疑問をそのままマィニング大佐にぶつけた。


「そういえば、マィニング大佐。一点疑問があるのですが、宜しいですかな?」


「なんでしょうか?」


「我々の最終的な目的としては、自動小銃が魔獣にどこまで効果があるのかの確認と共に、現在ドムヴァル南部で魔獣に包囲されているドムヴァル軍救出の可能性を探るものだと理解している。そして、あの謎の小隊は優先的にこの戦場からの離脱が約束されていると聞いている。ここで疑問があるのだ。何故、包囲されたドムヴァル軍は浮遊機で脱出をしないのかな?」


「ああ、そうか……それはですな。魔獣の森と称する森林地帯上空は浮遊機が飛ばせないのです。何故か、魔獣の森上空に差し掛かると、魔導結晶石自体が通常の何倍もの消費が発生し、通常の飛行を行う事が出来なくなるのです。そして、現在ドムヴァル軍やコルダビア軍が包囲されている地域一体は、その浮遊機が飛ぶにあたり既に魔獣の森と同様の現象が確認されています」


「ふむ……つまりは魔獣とやらの影響範囲内は浮遊機をも拒む状況なのですな……だとすると、浮遊機による脱出は魔獣の影響範囲から抜けなければならないという事か。今一度、調査計画を見直した方が良いだろう、マィニング大佐。それと、あの謎の小隊の隊長も交えて」


「確かにそうですな、モスカート大佐」


こうしてモスカート大佐主導でドムヴァル領内におけるロドーニア特別調査隊のルート選定が再度行われた結果、どう考えても現在の自分達の装備内容と部隊規模、そして携帯している武器弾薬量では包囲されたドムヴァル軍には届かない事を再確認した。そこで、調査隊本来の目的であるどれ程の魔獣の種類が居るのか、そして自動小銃がどこれほど魔獣に効果があるか、どの位の火力が必要となるのか等々を可能な限り探る事とした。



その後、ロドーニア調査隊はサライ城壁内に居た補給部隊と連結し、戦闘部隊300名、謎小隊の50名程、補給部隊が100名、調査研究員その他50名の総勢500程の集団となった。そして装備を再度確認した上でドムヴァル国境に沿って南下を開始した。


ドムヴァル国内における魔獣の状況は、一つに東部方面のサライ南方国境沿いから北方の海岸にかけてのサライが構築した城壁に沿って魔獣が張り付いた状況となっていた。北方にまで進出した魔獣は比較的小型の弱い類が跋扈し、魔獣の森から近い南方城壁には大型の魔獣が次から次へと襲っている状況だった。そしてドムヴァルのイメド回廊に孤島のようにドムヴァル軍とコルダビア軍の全周陣地を、魔獣が包囲した状況だった。そして全周陣地を迂回するようにドムヴァル西方に向けて魔獣が進出し、そのままサダル国を横断し、ベラーネ公国領に迫る状況だった。


同盟軍は可能な限り上空からドムヴァル国内の偵察を行って魔獣の行動を監視していたが、徐々に浮遊機の活動範囲は魔獣の進出に伴って狭まっていた。だが偵察の結果、魔獣の行動は完全に人が密集する方向に向かうような観測結果が出された。そして無人地帯となった場所にはゆっくりと森が進出していたのだ。その為、ロドーニア特別調査隊の調査ルートは、ドムヴァル国境沿い、つまりサライの城壁からやや離れた距離を取ったルートが選定されたのだ。そして特別調査隊は出発した。


500名の特別調査隊は遠くにサライの城壁が見える場所で周囲を移動用の魔導車両で取り囲み、その中でそれぞれが宿泊用テントを構築した上でモスカート大佐の自動小銃部隊から歩哨を立てていた。最初の夜には調査隊の全員が緊張していた事から、あらゆる事象を直ぐに上司に報告し、即対応する臨戦態勢をとっていたが、最初の夜に魔獣の襲撃は無かった。


そして最初の夜以降の数日は魔獣の襲撃は無く、平穏な夜が続いた。だがちょうど5日目、移動距離にして160km程内陸に入った所で遠くに森が見え始めたのだ。そこで調査隊の一行は再び野営陣地を構築して夜を迎えた。何時もの様に野営陣地周辺にかがり火を焚いていた調査隊に、森から這い出した魔獣が襲い掛かったのだ。


最初は謎の部隊からの警報だった。


「森から魔獣接近を確認! 距離2,000。確認した魔獣は緑、他不明。警戒せよ!」


「なんだ、森から? 2kmだと? ……種類まで分かるのか? 夜だぞ?」


「総員起こせ! あの緑の魔獣は火を喰らう奴だ。かがり火を消せ! こっちに向かってくるぞ!」


その時、謎の部隊から数名が陣地から離れ、何も無い場所に行ったかと思うと離れた場所に大きなかがり火が燃え上がった。数名が戻って来た際に、彼等の恰好を見ると何か顔に装着する機械がついていたのだ。それを眺めていたマィニング大佐は興味を持って、顔に機械を付けた兵に話しかけた。


「君、済まないがその顔に装着しているのは一体何なのか、教えて貰えるかな?」


「自分に答える権限が与えられておりません。後ほど部隊長からご説明があるかと思います、マィニング大佐」


「そ、そうか……わかった、ありがとう」


マィニング大佐は取り付く暇も無い返答に多少怯みつつも、一歩兵にまで教育が行き届いている謎の小隊に関心した。続けて何故に火をつけたかを尋ねた。


「君達は何故、あそこに火を?」


「あの緑の魔獣は火を喰らいます。この陣地に火があるとここに向かうので、あちらに誘導します」


「ああ、なるほど、そういう事か」


「宜しいでしょうか? それでは任務に戻りますので失礼します、大佐殿」


「あ、時間を取らせて済まないな。君の階級は?」


「機密です」


マィニング大佐はそれ以上言葉を繋げられなかった。

既に謎の部隊は魔獣に対して応戦を始めていたが、モスカート大佐の部隊は戦闘準備は整っていたものの、目標が全く見えない為に動き様がなかった。モスカート大佐の元に謎の小隊の部隊長がやってきて言った。


「モスカート大佐、我々はこの陣地の300m以内に魔獣を入れぬ様に対処している。ただ、どうしても撃ち漏らしが発生する可能性を排除できない。300m以内に入ってきた敵の対処と、周辺警戒を頼む」


「む、了解した。300m以内だな? ……だが300mも何も我々には何も見えないのだが……」


「そうだったな。それでは我々の装備を一部御貸しする。戦闘終了後は返却願うが」


「装備の一部?」


「暗視装置、という物で夜でも物が見えるような装置だ。こうやって見る」


謎の小隊の部隊長から受け取った暗視装置という物を除いたモスカート大佐は、真っ暗だった周囲がはっきりと見える事に驚いた。


「なんと! 貴官の隊はこのような装備が普通にあるのですか?」


「機密という事で。貸した事も含めて。それと数セットをこちらで用意しておくので、後で取に来てくれ。見える距離は150m程なので、それを念頭に防衛の方を頼む」


だが、その夜にモスカート大佐の部隊が活躍する事は無かった。

謎の小隊が起こした焚火に吸い寄せられた緑の魔獣は、火を喰らう前に狙撃によって死んでいった。しかも、ゼリーのような緑の身体に撃ち込まれた弾丸は、その後方に居た別の緑の魔獣にまで食い込んで行き、1発で複数が死ぬ事も多かったのだ。そして朝が空ける頃には焚火近くにびっしりと緑の魔獣だった死骸の山が陽光を浴びて蒸発していった。


そして大喜びの特別調査隊の中で、ただ謎の小隊の一団だけは浮かぬ表情だった。そう、明らかにこの調子で進むなら、謎の小隊の武器弾薬が枯渇する事が目に見えていたからだ。その為、朝を迎えて戦闘がひと段落した頃に、この部隊長はモスカート大佐とマィニング大佐を呼んだ。

夜の部ですー/昼の部ですー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 あっ、魔導技術世界って長距離狙撃が無い……? 魔導小銃がビーム兵器みたいなもんだからてっきりあると思ってました。ひょっとして射程短くて初速も遅い? 予想してたより便利じ…
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