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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_76.ロドーニア特別調査隊

ヴォートランから派遣されたモスカート大佐に率いられカラニシコフ装備の兵達はロドーニアに入国した時点で、ロドーニア特別調査隊として編成され、その指揮下に組み込まれた。表面上特別調査隊の指揮を取るのはロドーニアのマィリング大佐ではあったが内実は兵站を担当する将校で、実際の戦闘に関してはモスカート大佐が指揮を行う予定だった。だが、このヴォートランから派遣された兵以外にも正体不明の少数の部隊があり、これはマィリング大佐にも何も明かされては居なかったのだ。彼等は独自の武装をしていたが、その装備の一切は何を目的としてどういった能力を持つ物なのかさっぱり分からなかった。モスカート大佐に、彼等が一体何者なのかを確認したが彼からも何も教えて貰えない、というより緘口令が引かれていた様で、たった一言"機密です"としか返答が返って来なかった。


まず同盟軍司令部からの作戦指令は、サライとドムヴァル国境付近に上陸をしサライ国境正面の魔獣を後ろから攻撃して排除、その後に国境部分から兵站を伸ばして南下し、ドムヴァルのイメド回廊方面に進み、可能であればドムヴァル軍の包囲を解くという内容だった。だが、サライの北方海岸からイメド回廊までは直線距離で300km弱程ある。その間にどれ程の魔獣が跋扈しているのか。そもそもドムヴァル軍の包囲を解くならば、サライ南部の城壁地帯からの方が直線距離的には近い。だがそうしなかったのは何故か?

サライの南部城壁地帯に現れた魔獣は人型だった。

途轍もなく巨大な人のような魔獣は、城壁を乗り越えようと張り付いては、城壁からの砲撃や浮遊機による攻撃で何度もその目論見を断念していた。だが、排除を狙って直射型自走砲による接近攻撃を行った際には、数匹の巨人魔獣の排除に成功したものの、後続の巨人魔獣によって自走砲を掴まれ、放り投げられ、バラバラにされたのだ。この結果から同盟軍はサライの城壁から出る事無く、取り付いた巨人魔獣の排除のみに専念する事となった。つまり、取り残されたドムヴァル軍救出の出撃ルートとしては使えなくなっていた。


その為、マィニング大佐はまず上陸地点を命令通りサライとドムヴァル国境付近に定めた上で、サライ北方海岸の国境に群がる魔獣を駆逐して橋頭保を確保し、サライ国境城壁内の兵站部隊と連結し、そのまま真っすぐ南下しながら魔獣の排除がどこまで可能かを探る、という方針をモスカート大佐に示した。


「モスカート大佐、我々はドムヴァル北方海岸に上陸後、このサライ国境城壁に群がる魔獣を駆逐する。その後、サライ国境城塞内の兵力と合流した上で国境沿いに南下する。この辺りは同盟軍の命令通りで動く予定だ。それで貴軍のロドーニア特別調査隊の事だが……」


「ん、何ですかな、マィニング大佐?」


「その、貴軍の派遣してきた部隊の装備に関してなのだが……魔獣に対しての効果が高いとの評判は聞いている。その武器の出所も不明な事も承知している。私が知りたいのは本当に魔獣に対して効果が高いのかどうかだ。どこから出てきたかなんぞは興味も無い。貴軍の部隊は魔獣に対して対抗可能なのか?」


「その辺りを答える権限を私は持ち得ていませんが、対抗可能かどうかに関しては今後上陸作戦以降に実際に確認出来る事でしょう。だがもし、魔獣とやらに対しての効果が無ければ我々は直ぐに海岸から撤収しなければならない。その辺りの手配はマィニング大佐、貴官にかかっています。その辺りは宜しく願います」


「そうですか……すると大佐も効果があるかどうかは分からんという事ですか……」


「そもそも我が国ヴォートランには魔獣という物が居りませんのでね。効果があるかどうかは実際に撃ってみない事には分かりません。確かな事が言えず申し訳ありませんが」


「なるほど……それとあの貴軍の指揮下に無い別動隊のような部隊は?」


「機密です。申し訳ありませんが、お答えする権限を持ち得て居りません」


「彼等の兵站に関してですが、我々がその兵站を負担せずとも良いと聞いています。ただ、移動手段のみを提供するだけと。これに関しては我々も異存は無いのですが、本当に浮遊機2機を貴軍よりも優先的に使用する、という事だけで宜しいのでしょうか?」


「……機密です。私も分からない事は申し上げられませんですし」


モスカート大佐は、尋ねられた事が分からないとしらを切った。

噂の部隊はロドーニアに派遣されると決定した時点で、国の上層部から直々に捻じ込められたのだ。曰く、極秘の部隊である為に、その所属国や正体、装備等は秘密であり、一切の口外を禁ずる旨を近衛騎士団長モンテヴァーゴが直々に伝えてきたのだ。モスカート大佐としては、大方いま正に国を揺るがす日本という存在から派遣されてきたのだろう、と想像していたが、その戦闘能力の高さは王弟フィリポ氾反乱圧の際に、たった数十人で王弟派の立て籠る陣地を制圧した事で既に証明されている。だが、果たしてあの日本の戦闘部隊は人外の存在にも有効なのか、そしてガルディシア帝国から密輸されたという連射銃が、どれほどの効力なのか。それは実際に体験してみなければ分からない。願わくば、想像する通りの結果となる事を祈るだけだった。


対してロドーニアのマィニング大佐は、疑問が何もかも払拭しない事に不満ではあったが、あのモスカート大佐の口調から本当に何も知らされていないか、或いは国家中枢に近い筋からの緘口令が引かれているものだろうと推測していた。これ以上モスカート大佐を探っても何も出ては来ないだろう。それに知りたい事は、彼等が持つ武器が魔獣に対抗出来るかどうかだけなのだ。それは上陸後に程無く確認出来るだろう。とするならば、最悪魔獣に効果がなかった場合の撤収作戦を考えておけば、この任務は全う出来るだろうと考えていたのだ。


既にサライ北方国境城壁内側には、この特別調査隊用の兵站部隊が待機しており、自分としては城壁の外側で開門の号令がかかるのを待つだけなのだ。そして魔獣に対しての効果が無ければ、その号令がかかる事も無い。マィニング大佐は、上陸部隊を指揮する予定のオーデット少佐を呼び出した。


同盟軍が用意した上陸作戦用の船は14隻で、それらは上陸に特化した船だった。それぞれ一隻当たりに30名程が乗船し、上陸の時点で一気に陸で橋頭保を築く予定であり、それらを指揮するのはロドーリア海軍のオーデット少佐だった。幸いに浮遊機による偵察情報によって森から出てきた魔獣は海に適応した類は居らず、全てが陸生であった事から海からの侵攻は問題が無い物と判断された。問題は上陸地点への魔獣の殺到だったが、それはサライ北方城壁からの陽動作戦によって一時的に魔獣の類を引き付ける、という作戦を取ったのだ。オーデット少佐は既に命令さえ下されればサライ洋上にてドムヴァルへの着上陸を試みる段階だった。そしてサライ上空にも、着上陸の状況を確認する為の浮遊機が偵察に飛び回っていたのだ。


「オーデット少佐か? ロドーニア陸軍大佐のマィニングだ。未だ上陸命令は下ってはおらんが、そちらの状況はどうだ?」


『オーデットです。現在ドムヴァル沖30km、上陸船は14隻全て問題無し。着上陸に向けて航行中です』


「了解だ。こちらでも魔獣に対する牽制攻撃がそろそろ始まる。それが始まれば恐らくは城壁に魔獣が集中し始めるだろう。浮遊機からの情報も適時受け取ってくれ」


『了解しました。最初に上陸させるのは例の特別調査隊の方々で問題無いですね?』


「ああ、上からはそう聞いている。その際に特別調査隊の攻撃が魔獣に効けば良し。魔獣に対し効果が無いと判断されれば即時撤退となる。恐らくはロドーリア調査隊側から撤退の指令が出る筈だ。その場合は被害を出さぬ様に遅滞無く頼む」


『勿論その積りです。上陸以降は特に何も無い限り予定通り一定時間待機後に撤収します』


「了解だ、宜しく頼む、少佐」


こうしてサライから出発したロドーリアからの上陸艦隊は、ドムヴァル国境付近の海域で遊弋しつつ上陸開始の号令を待っていた。夜には魔獣が活性化する事は既に判明していた事から上陸は朝が選ばれた。同盟軍司令部は偵察浮遊機からの情報により、一時的に城壁付近に魔獣が集まった事を確認の上で、上陸開始の号令を出した。直ぐにオーデット少佐はドムヴァルの海岸に向けて上陸を開始した。上陸地点は城壁から3km程離れた海岸であり、そこから城壁までは障害物が無いが、カーブがあって城壁に集まる魔獣には上陸地点は見えない。そこに14隻の上陸船が乗り付け、魔獣の襲撃も無く全員が海岸に降り立つ事に成功した。


上陸した兵力はモスカート大佐率いる自動小銃装備の300人の兵、そしてロドーニアから派遣された弾薬を運ぶ小規模の兵站と通信部隊、そして正体不明の小隊規模の部隊だった。モスカート大佐は、直ぐに自動小銃部隊を纏め上げて城壁方面に向かった。そして城壁まで1km程に近づいたの段階で正体不明の部隊から部隊長と思われる人物に声を掛けられた。


「モスカート大佐、最初の攻撃は我々が担当したい。宜しいか?」


「勿論構わんよ。自信があるのか?」


「いや、もしもの場合に後退する為の時間が欲しい。ここからなら魔獣に気が付かれる事無く攻撃が可能だ。その際に、我々の攻撃がどの程度通用するかも判定出来ると思う」


「ここから? 1km程もあるぞ? 大丈夫なのか?」


「ああ、任せて欲しい。通用しない場合は後退を合図する。その際は可及的速やかに撤収を頼む」


「……了解した。我々からも一名そちらに着いていって良いか?」


「了解だ。迅速に動ける奴ならな」


こうして正体不明の部隊から、数名が銃身の長い銃と望遠鏡の様な物を持ち出すと偽装を施しつつ先行した。この数名の部隊にモスカート大佐は歴戦の兵であるスカルッツァ曹長を派遣した。直ぐに先行する数名の部隊に向かったスカルッツァ曹長は、観測を行っていた兵の後方に近寄り、彼等が何をしているかを探った。


「発砲許可出ました」


「了解、じゃお仕事しますか……目標選定頼む」


「城壁に複数の目標を確認。距離970m、温度18度、湿度43%、北西の風2m、水源無し、左上から攻撃します」


「……こちらも確認。左に取り付いた奴から攻撃だな……射撃した」


「目標一体命中……上体がはじけ飛びました。……目標落下して行動停止」


「こりゃ効いてんのかね?」


「分かりません……あ、目標痙攣開始……活動停止した模様。こちらには気が付いていません」


「どうやら効いてる様だな。よし、次の目標だ。それと隊長に報告、狙撃有効」


「了解しました」


観測員が持つ望遠鏡で狙いを定めて射手に命令を出す。この一連の流れが、目標まで1kmもの距離がある中で行われるのだ。そして、この時行われた謎の小隊が行った攻撃について、スカルッツァ曹長は自分が見た物が信じられなかった。


この長距離射撃を行った部隊により、魔獣への攻撃は有効であると判断してモスカート大佐の本隊は城壁に向かって前進を開始した。

後半更新完了です!

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と、途中です……夜に続き更新予定!

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