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カルネアの栄光  作者: 酒精四十度
【第一章 ラヴェンシア大陸動乱】
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1_74.ガルディシア帝国からの輸出品

テネファから引き上げた日本の外交使節団の中で、外交官山本は急遽高田からの要請を受けて一人ヴォートランに居た。そこには高田とガルディシア船籍の輸送船がヴォートランの港に係留されていた。その輸送船からは大量の木箱が陸揚げされており、この木箱の前に自慢げな高田が山本を待っていた。


「やあやあ、山本さん、やっと来ましたね?」


「急な呼び出してびっくりしましたよ。一体どうしました?」


「いえね、例の魔獣調査隊の結果を受けて試験評価部隊を出すという形になりましてね。ただ、我々が出るのは若干問題があるんですよ。所謂国交の無い他国に戦闘部隊は派遣出来ないんですよね。で、苦肉の策がこれ」


「これ? この木箱……なんですか?」


「なんでしょね。開けてみて下さい」


山本は木箱を開け、木屑の中に埋もれた真っ新のカラニシコフが詰まっているのを見つけた。


「え? これ……カラニシコフじゃないですか! こんな数を一体どこから??」


「エウグストの密造工場で作った銃ですよ。新品です」


「……高田さん、これ本当に大丈夫ですか? 使えますか?」


「疑り深いですねぇ……既に何度か使ってますし、弾自体も評価済みなので心配無いですよ」


「そうは言っても……ガルディシア産なんですよね? やっぱちょっと怖いというか……」


「工作機械は全部日本製を使ってますし、精度も出していますよ。試射を何度もしてますから。ああ、それとガルディシア産では無く、正確にはエウグスト産です。取り合えず公式にはエウグストから今回は評価試験用として1000丁と弾薬3万発、ヴォートランへの輸出という形になります。あー、ただコレ密輸なので公式じゃないか。この辺りの取り扱いは気を使って下さい」


「密輸って……それにヴォートランやロドーニアに、このレベルの銃が渡る事は問題ありませんか?」


「その辺りは色々と大人の事情とご理解下さいね。例の柊君達の調査結果を元に使用可能な武器を出すにあたり、日本がそのまま輸出を行うにはハードルが高過ぎますしね。あ、でも外務省の山本君がこの件に関わるのは、表沙汰になると大問題になる気もするので、極秘に願いますね。それと一応、この銃ですがそれなりに精度と耐久落としてます」


「ああ、そういう事ですか……でも肝心な時に使用不能なんかにはならないですよね? それにしてももっと表立って動けるなら楽なんですけどね……」


「それは言いっこなしですし、大丈夫でしょう、多分。というか、この世界において日本という国は正体不明の得体の知れない国力を持った国であるという立ち位置で居ないと、どんな危険な事が起きるか分かった物では無いんですよ、山本さん。正直、この国には継戦能力が欠けています。初戦は大勝利でも最後の戦いに負ければ国は滅ぶ。どんなに高性能な武器を持っていても、使い切ってしまえばお終いなんですよ。我々は、爪に火を灯す様に国力を上げながら、不測の事態に対応しなければならない。だからこそ他の世界から見た日本を常にイメージしていかなければならない。時にそのイメージが恐怖や羨望であっても、常に矛先がこちらに向かぬ様に動かなければならないんです。日本に手を出したらとんでも無い目に遭う、と」


「西方世界のラヴェンシア大陸では既に恐怖は十分に感じていると思いますよ、特にヴァルネク連合とか」


「足りないですねぇ……もっと日本という国に対して"友好的に接するうちはお互いが栄える、だが日本に歯向かうと手酷い目に遭う"という事を完璧に理解して貰わないと」


「いや、それやり過ぎるともっと面倒な目に遭いませんか?」


「確かに。なので程々の所で引くのも大切なんですが、この世界だと引いた事が弱さからの行動に取られかねないので、その引き際が難しいですよね。ああ、そうそう。魔獣に関してなんですが、現状どんな感じなんですか?」


「そうですね……ラヴェンシア大陸中央のドムヴァルという国は完全に魔獣によって分断されていますね。そこからヴァルネク連合方面に向かう魔獣と、サライの同盟方面に向かう魔獣とに分かれています。魔獣に関しては、組織立った行動ではなく完全に活動可能範囲内で暴れてまわる感じですね」


「楽しそうですねぇ。いやぁ、異世界って感じをひしひしと感じますねぇ。ガルディシアの件が終わったら僕もそっちに回りたいなぁ。魔獣かぁ……なんかこう、魔獣って言葉だけでもワクワクしませんか?」


「高田さん、なんでそんなにウキウキなんですか……現地は両軍共にもう大変な状況なんですよ。ヴァルネク法国は国境を完全に閉ざして魔獣に備えています。その国境周辺に辛うじて生き残っていた人達が魔獣に追われて国境付近に殺到しています。この逃げ込んで来た方々への救済は何も無いんですよ? 国境は閉じている。後ろからは魔獣が迫っている。唯一の救いは、魔導銃が通用しない魔獣達は夜にしか現れないって事だけです」


「それは大変そうですねぇ……」


「……高田さん、全然大変と思っていないでしょ?」


「いやいや、本当に大変そうだなあと思っていますよ、心外ですねぇ。取り合えず、ヴォートランへ密輸出した銃は現地のヴォートラン兵で慣熟訓練を一通り行った上で、ロドーニアに派遣する予定です。恐らくは実験部隊として300人程度位かな。多分、同盟側へのアプローチとなるので、サライが初実戦になるかな。ヴォートランのファーノIV世にも了解とってますし、実験部隊をまとめ上げるのが近衛騎士団長のモンテヴァーゴさんなんですよね。あ、一応この件は極秘なので、その辺りはご注意を」


高田が動いている極秘のこの話はガルディシア帝国で密造した銃をそのままヴォートランへ輸出するのだ。そしてヴォートランの兵にカラニシコフと弾薬を渡した上で、このヴォートランの兵達に自動小銃に慣れさせた上で、ヴォートランの友好国ロドーニアに派遣する。あくまでも日本としては武器の密造も密輸出入も関知しない。日本としては与り知らぬ外国で作った銃を持って、このヴォートランから派遣された兵がラヴェンシアの魔獣と戦うだけなのだ。それによって生じた損害は勿論派遣した国であるヴォートランが負う事となる。


だが、高田とヴォートラン国王ファーノとの話し合いで、ロドーニアを助ける方法として提示した高田案に対しファーノは乗り気だった。それは日本製では無いにせよ自国よりも圧倒的に性能が上の兵器を只で纏まった数を入手出来る上に慣熟まで面倒を見てくれ、その兵の実戦までも経験する事が出来るのだ。直ぐにこの案に飛びついたファーノは己の子飼いであるモンテヴァーゴを呼び出して部隊編成を命令していた。


「高田さんはこちらには来ないんですか?」


「いや、なかなかにガルディシアの事情も切迫してましてね。育てていた反帝国組織と生産ラインが物になってきたので密輸出なんて真似事が出来る程にはなりましたが、帝国をひっくり返す程では無いんですよ。これがどうにかならないと僕も魔獣のお相手が出来ないんですよね。いやぁ本当に、本当に残念だ」


山本は、高田が言う残念という言葉が初めて本当に言っているように感じた。この高田という男、柊の同僚というがどちらかと言えばこっちの方が厄介な人かもしれないな……


「ともあれヴォートランが派遣する部隊には日本からも観戦武官数名を付けます。既にヴォートラン入りしていますので、山本さんにはあとで紹介します。それとやはり彼らもまた極秘の行動なので表沙汰にはならない様に願います。戦果報告とか色々貰わないと我々の方でも今後の準備が必要となるので」


「とすると……訓練後のヴォートラン兵はどうやってロドーニアに?」


「ああ、既にファーノ国王とは話をつけてますが、兵の慣熟訓練が終了次第、ヴォートランの船でロドーニアに向かいます。ヴォートラン担当の篠原外交官にも既に話は付けてあるので、山本さんは直ぐにここから一旦日本に戻って下さい。あ、飛行機は用意してありますので、帰りの足の心配は必要無いですよ。そこに迎えの車も用意してますんで」


「もうそこまで話は進んでいたんですね……了解しました。それでは一端失礼します」


こうして訓練を終えたヴォートラン兵300名を乗せた輸送船はロドーニアへと向かった。

ロドーニアでは外交官スヴェレの元に日本から山本外交官と数名の観戦武官が訪れており、ロドーニアにはヴォートランから300名の兵と共に、援助としてカラニシコフ300丁と実弾五千発が送られた。ロドーニア王エルリングは、このヴォートランからの援助に当初懐疑的だったが、スヴェレ経由で情報を得ていた外交局長オームスンの説明とヴォートラン国王フィリポIV世から認められた密書によって背後に日本が居る事を理解し、その態度は一変した。


「なんとなんと! そういう事であったか! であれば早速だが、彼等ヴォートランからの援軍は直ぐにでもサライに行ってもらいたい。ニッポンの武器が魔獣に通用するのであれば、直ぐにでも成果が見たいのだ。良いな、オームスン!」


「はい、私も同意します。ただ、彼等の移動手段は我々が用意しなければなりませんが、少々荷物が多い様です。全員が移動可能な浮遊機を手配しますので、今暫くお待ち頂ければと」


「うむうむ。所で送られた自動小銃とやらのうち300丁は我々への供与と聞いておる。これらを直ぐに我々も試す事が可能なのか?」


「勿論に御座います。観戦武官の方々、こちらへどうぞ」


こうしてロドーニアにも旧世界ロシアの武器、カラニシコフが渡った。

ロドーニア王エルリングを始め、日本の物に興味がある新しい物が好きな者達は、初めて目の当たりにした未知の仕組みを使った銃を指導の元で満足行くまで撃っていた。

うーん……やっぱり昼夜分けて更新した方がPVが圧倒的に違いますね……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 タカダさんお久しぶり。やっぱりこの人おかしい。 ヒイラギさんが普通に見えてくるほどおかしい。 ヒイラギさんは少なくともロマンとか言わない。 一方山本さんの官僚度はぐっと…
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